第25話 あ、まだピクピクしてる。

 俺の制止の声を振り切り、三人が一気に魔獣に向けて駆け出した!

 魔獣の前を横切るように駆け抜けるナカノが続けざまに二発の矢を放ち、魔獣の両目を打ち抜く。突然視界を奪われた魔獣は反射的に身を起こすと、狂ったように威嚇の咆哮を上げた。すかさずサイガは魔獣の下に潜り込むと、すり抜けざまに両脚の腱を的確に切り裂く。巨体を支えきれなくなった魔獣が前のめりに倒れこむ瞬間、バランスを崩してガラ空きになった喉元をエイブルの剣が一閃、大量の血を吹き上げながら魔獣は地面に倒れ、もはや虫の息なのかピクピクと体を震わせている。


 この間、三秒。ジェットス○リームアタックかよ!


「さあ、義雄様。トドメを!」×黒い三○星

「へ?」


 笑顔で振り返る黒い三○星に促されるままに魔獣のもとにへこへこと駆け寄り、その鼻先をひのきのぼうで叩く。


「え、えっと……とやー!」


 ぺちぺち。


 あ、まだピクピクしてる。


「おりゃあー!」


 ぺちぺち。


 あ、死んだ……?


「お見事です! 義雄様!!」×メイド達。


 お見事です。じゃねーよ!! 俺の攻撃通ってないだろ! 


「なんで? さっきはなんであんな絶望感漂わせてたんだよ? 瞬殺じゃん! 楽勝じゃんか!」

「コレ、食べるところがないんです」と、エイブル。

「臭みがひどくて、ちょっと……」とナカノ。

「へ?」

「手間がかかるだけで、めんどくさいです~」とサイガ。

「ほっとくわけにも行きませんし……」

「めんどくさいって、あっという間じゃん」

「繁殖力も高くて、コレ出るとその周辺の食べれる魔獣が狩り尽くされちゃうんです。だから駆除対象になってます」

「それにコレ、群れで行動しますから……」

「一匹見たら最低三十匹はいますよ~」


 なに、コイツGなのか? いや、こんなのが群れでいるのか!?


「ほら!」

『Ugaaaaaaaaaaa!!』


 俺たちを取り囲むように響き渡る魔獣達の咆哮。周囲の木々がへし折られる音が徐々にこちらに近付いてくる。


「マジかよ……」

「さあ、どんどん参りましょう♡」×黒い三◯星。


 ☆


「う~ 倒し損……食べれないのばっかり」

「終わりましたね」

「これでこの辺りにも他の魔獣も戻ってくるでしょう」


 周囲には山と積み上げられたアレの死骸。名前聞いたら、さあ? だって。雑魚? アレで雑魚ですか? 三人の無双メイドは害虫駆除感覚のやり取りを終えると、勇者パーティーのメイドとしての手応えに話は移った。


「レベルは上がってますね。私は1ですが、それでも力的な手応えは感じます。この感覚は久しく無かったものですね」


 ナカノが自分の手を見つめながら呟くと、サイガが嬉しげにぴょんぴょん飛び跳ねる。


「わたしは2つ上がったよー! 前より高く跳べるし、体のキレが全然違うー!」

「私は上がりませんでした。レベルが高い分、必要な経験値も多いのでしょうね。ただ、最近は頭打ちだっただけに今後の鍛錬の励みになります」


 まだ強くなる気かよ。あの無双ぶりを見せつけられた後では、この娘達がどこを目指しているのか心配になってくる。あんまりやりすぎると、婚期を逃す理由が増えるだけだぞ。……怖いから言わないけど。おっさんはハラスメントへの警戒心が病的に高いのだ。


「義雄様はどうでした? 経験値は均等に分けられていますから、レベル1からだと劇的に変化を感じるくらい上がったのでは?」


 エイブルはそう言ってくれたが、実は……劇的に変化を感じていない。


「なんか、前の自分とちがうでしょー?」


 そうは言うけどなサイガ……前の自分となーんも違わんのよ。


「どうなっています? どうなりましたステータス?」

「あー、うん……見てみるわ」

 こめかみに指先をあて「ステータスオープン」と、唱える。視界に現れたのはーー


『高槻義雄』

 勇者レベル1(経験値39216)

 HP0

 MP0


《勇者魔法》レベル1『μαγεία βέλος』


《神与称号》「勇者」《恩恵》勇者補正


《技能称号》


 こ、これはダメだ。マジでダメなヤツだ。ステータスにはなんの変化も無い。なんか背中に変な汗が噴き出してくる。

 ここで誤魔化しても遅かれ早かれバレてしまう。正直に言うべきか。既に仲間な訳だし、聡いエイブルなら俺の立場を理解してくれるかもしれない。だが、同時に彼女達を失望させかねない。彼女達は勇者としての俺に期待しているのだから。

ここは正直に言っておこう。


「俺、レベル1のままなんだけど……」

「ええっ!?」


 ナカノとサイガが驚きの声を上げる。エイブルに至ってはショックのあまり声も出ない。もう、本当の事を言うしか無い。


「実はーー」

「凄いです義雄様!!」

「へ?」


 俺の言葉を遮ってエイブルが感極まったように声をあげた。


「この程度の経験値ではレベルが上がらないとか、並の勇者ではありません! 義雄様こそ勇者を超えた勇者! 超勇者です!!」


 瞳をキラキラさせて、俺の両手を掴むやブンブンと振るエイブル。超勇者とかアホの子みたいなことを言ってくれちゃって、なに? 


「義雄様すっご~い!!」


 うわっ! サイガまでかよ! アホの子がもう一人おる。


「なるほど……納得です」


 ナカノも納得するんかいっ!?


 黒い三◯星によって、この辺りに巣食っていた通称G(ガ◯ダムではないし)は駆逐、いや、駆除され尽くした為、その日は早々と切り上げて王都に戻るしかなかった。駆除した数は三桁はいたよな? そういうのって普通に災害級じゃないんですかね?

 こうして俺のパワーレベリングは失敗に終わった。本当のことはとりあえずは言うまいまい。

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