第19話 ざっくりまとめるとこうなった。


 メイドさんの紹介の中で、出たよニューワード【称号】。魔法とは別の能力大系か? スキルとかだろうか?


「【称号】ってなに? スキルみたいなものとか?」

「そうですね【称号】というのは役職とか職業の総称と言えばいいでしょうか……」

「?」


 エイブルの説明をざっくりまとめるとこうなった。


【称号】は、「技能称号」「神与称号」の二つがあるそうな。

「技能称号」は職務選択と技量の向上などの結果によって与えられる。例を挙げれば「薬師」「職人」「戦士」「商人」など。最初はすべての称号に【見習い】がつくらしい。大体これらは称号に関連した技能(スキル)を上げて見習いが外れる流れだ。また、条件を満たせば称号も変わるそうだ。職人から親方とか、商人から大商人とか


「て、ことは盗賊とか山賊とかもいるわけ?」

「そうですね。そのような事を生業にしていれば付いてきます。不名誉な称号ですから、大きな町に入れませんから犯罪への牽制にはなりますね」

「まあ、そんなもんついたら人生詰むわな」


 ちなみに、最初の「○○見習い」は、誰でも簡単になれるそうだ。技能の獲得で見習いが外れて一人前になる訳でーーつまり「パン職人見習い」は職務に就いてすぐに与えられる。ある程度習熟すると「見習い」が外れ、

 一人前の証という訳だ。上位称号持ちに師事すれば比較的早く「見習い」ははずれるし、独学でも外れるらしいので、精進次第らしい。かなり自由度、主体性の高い称号だ。ぶっちゃけ職業だな。


「神与称号」は本人の出自、血統 などにより先天的につくものだそうだ。神から与えられると言われているらしい。継承者としての「王族」や「勇者」「聖人」など。これらは称号に【恩恵】がつくそうな。つまり称号にさまざまな特典技能が付いてくる。チートだな。

 これらは人がどうこうできるものでは無いそうだ。そりゃそうだ。


 また、「神与称号」には英雄的行動など、この世界において大きな影響を与えるような高難度イベントの達成とかによって称号がつく場合がある。「ドラゴンスレイヤー」「賢者」「英雄」など。「王」なんかも簒奪でついたりする。ま、ついでに「簒奪者」なんて不名誉ともとられる称号が付いてきたりするらしい。


 「称号」はその性格上、複数保持が可能だが一般人は二つ三つの技能称号がせいぜいだそうだ。市井の人々の普通の人生なんてそんなものらしい。そのため一般には「職号」などとも言われるそうな。


 一通りの説明を受け俺は気になった事をエイブルに質問した。


「じゃあファドリシア王の【王】の称号は誰が与えたんだ?」

「ソルティアでないことは確かですね。称号にはこの世界の理が関わっているのでしょう。技能称号にしても鑑定すれば確認できますから、自称や偽称は出来ません。こちらも世界の理が関わっていると見て良いでしょう」


 つまり、称号が問題なく付与されているという事は、この世界の理=システムは生きているわけだ。


「あと……忌み子や巫女は称号ではないの?」

「あくまでも魔法を使えない娘達に対する通称や蔑称にすぎません。アレが称号なら私達はとっくに絶望しています」

「ごもっとも……」


 そりゃそうか……そんなものが称号だったら彼女達はこの世界から見捨てられた事を宣告されたようなものだ。逆に言えばこの扱いはおそらく世界の理も認めていない。

 それでも、集団が自分達と違う者に対する反応は二種類。力ある者には畏敬を、力無き者には嫌悪、侮蔑を。腐りかけの世界である事は変わりないか……


「じゃあ、差し障りがなければ、エイブルやナカノ、サイガ達の持ってる称号や技能も教えてもらえる?」

「いいですよ。では私からーー」


『エイブル』

《神与称号》「皇女」《恩恵》ノブレスオブリージュ(最上) 忠誠享受(最上) 交渉(最上) 政務(最上) 祭事(最上)


《技能称号》「ハウスキーパー」指揮(最上) 指導(最上)

      「高級護衛官」戦技全般(最上) 武器操作(最上)

      「高級指揮官」指揮(最上)運用(最上)地政学(最上)


『ナカノ』

《神与称号》


《技能称号》「レディースメイド」侍女(最上)物品管理(最上)

      「上級護衛官」戦技全般(上級)武器操作(上級)

      「レンジャー」偵察(上級)潜伏(上級)隠蔽(上級)奇襲(上級)狙撃(上級)



『サイガ』

《神与称号》


《技能称号》「チェインバーメイド」室内整備(最上)

      「上級護衛官」戦技全般(上級)武器操作(上級)

      「ハンター」追跡(上級)狙撃(上級)強襲(上級)解体(上級)罠(上級)


 なかなかに有能なメイドさん達だ。つか、普通じゃ無いよな。これだけの称号を持っていれば使なんのハンデにもならないと、魔法そのものが無い世界から来た俺などは軽く考えてしまう。

 そういう簡単な事じゃ無いんだろうな……魔法が使えないからこそ、それを求めたというのが正解だろうな。


「神与称号は、自分でどうこう出来ないのか? 皇女は辞めたとか言ってたけど……」

「ままならないものです。私の場合『忌み子』である事がソルティア法王国など、他国に知られる事は何としても避けねばなりませんでしたから『廃嫡』という手段が取れませんでした。結果、病死とせざる得なかったのです。死んだものは流石に他国も追求出来ませんから」

「いろいろと根が深いんだね」

「そうですね……こんな世界にこちらの都合で呼び出してごめんなさい」


 エイブルの謝罪は王族として、いや、この世界の住人としての素直な気持ちなのだろう。この世界は魔王の存在とか色々問題を抱えている。そんな世界に呼びつけられた異世界人は被害者といえるか。

 まあ、俺の場合はそれを踏まえてこっちに来てるからな。むしろ、#こんな世界__・__#をどうにかしに来てますから、そんなに気負わないで欲しい。


「とりあえず、他の子の称号も聞いておこうか」

「そうですね。きっと義雄様のお役に立てると思います」



『グリセンティ』

《神与称号》


《技能称号》「パーラーメイド」接客(最上)交渉(最上)

      「上級護衛官」戦技全般(上級)武器操作(上級)

      「サバイバー」潜伏(最上)隠蔽(最上)回避(最上)欺瞞(最上)


 サバイバーって……これは聞いていいものだろうか? 付随した技能がシャレにならんが、どういう生き方をしたらこういう称号が付くんだよ。うん。スルーでいこう。ここにいる事自体が訳ありだもんね。

 などと思っていたらエイブルが俺に聞こえるくらいの声で囁く。


「グリセンティは私が保護した時は一人でした。ここにたどり着くまでにいろいろとあったのです」


 でしょうねー。深くは聞きますまい。


「よろしくお願いします。生き残る術は一通り修めておりますのでお任せください」


 控えめに挨拶するグリセンティ。赤毛といい、顔立ちといい目立つ容姿にもかかわらず、一歩引いたような物腰は彼女の意図するところなのだろうか。


「う、うん。ヨロシクオネガイシマス」


 王宮内で、そもそもメイドさんのおしごとで生き残りをかけた状況はそうそうないと思うけどね……



『ルイス』

《神与称号》


《技能称号》「パーラーメイド」接客(最上)交渉(最上)

      「護衛官」戦技全般(中級)武器操作(中級)

      「上級医官」診察(上級)治療(上級)

      「上級薬師」調合(上級)投薬(上級)鑑定(上級)


「ルイスは医者なの? この世界の神聖魔法とか神の奇跡的なもんで治療とかはできな……ゴメン」


 迂闊な質問だった。ここに居るという事は彼女もまた、魔法は使えない。やっちまった。決まりの悪さにおし黙る俺にルイスは笑顔で答える。


「魔法はともかく、治癒などの癒しの魔法を使えるのはソルティアの神職だけです。ソルティア教徒以外では使えませんので、ファドリシアでは医学、薬学が発展しました。魔法と縁のない学問ですから、私でも修めることができました」

「そうなの?」

「我が国では治療に神聖魔法を頼ることができませんから、医療に携わる者はかなりの高度な知識と経験、技術が必要です。ルイスは我が国の医療教育機関を首席で卒業しています」


エイブルの補足説明からしても、ルイスはかなり有能なのだろう。そうだよな。命に関わるから俺の世界でも医学部は難易度高かったし。それで首席とか、かなり優秀なんだろう。


「すごいな!!」

「……」


 向こうの感覚で、普通に感心したつもりだったのだが、俺の反応に少し困ったように微笑むルイス。あれ? まさか、俺、またやらかした?


「その……魔法が使えませんから……やっぱり」

「へっ?」

「治療の際、魔法を使って水や、炎による煮沸などが出来ないのは、魔法を使える人たちから見れば……」


 勿体ない。くだらない価値観が、あたら優秀な才能を殺している事に気付かないとかありえないだろう。ファドリシアですらこれだと、他所はどれだけ酷いんだか……


「ルイスはみんなの専属医官としてよろしく頼む。大霊廟のアーティファクトや知識は君を助けてくれるはずだ」

「はい! よろしくお願いします!!」


 満面の笑みを浮かべるルイス。彼女には、いや、彼女たちにはこういう本当の笑顔がふさわしいよ。



『ヴィラール』

『ペロサ』

《神与称号》


《技能称号》ヴィラール「キッチンメイド」調理(最上)貯蔵(上級)

      「護衛官」戦技全般(中級)武器操作(中級)

      「毒見」毒耐性(最上)

      ペロサ「スティルルームメイド」製菓(最上)貯蔵(上級)

      「護衛官」戦技全般(中級)武器操作(中級)

      「毒見」毒耐性(最上)


「双子だったのか……」

「はい!」×双子


 ラーメン作りにおいてもそのプレゼンにおいても、これ以上ない結果を残せたのは彼女ーー達がいたおかげだが、まさかの双子! 今見ても二人を見分けられない。ポニテがヴィラールでツインテがペロサって、君ら俺の手伝いの時、髪おろしてたよな? なんだろうこの小悪魔的雰囲気は……しかもだ!


「毒見ってどゆこと?」

 

 はい!解説のエイブルさんよろしくお願いします。と猫耳メイドさんを見る。


「この子達は某国の王家に毒見役として仕えていました。忌み子の使いどころとして、使い捨ての毒見役が適任とされたのでしょう。その国では王位継承問題で対立する陣営間での暗殺が横行し、毒殺など日常茶飯事でしたから。この子達も幾度も死線を彷徨ったそうです」


 なにそれ酷い!


 ん?


『毒見』についてる技能? ーー『毒耐性』が最上? なんか違和感をかんじるんだけど?


「なあ、毒見が毒耐性が高くて仕事になるの?」

「毒見を続けたら」とヴィラール。

「慣れました」とペロサ。

「いやいや!! 死線を彷徨ってるよな? 辞めようとはおもわなかったのかよ?」

「毎日が」

「ご馳走」

「……」


 そりゃ王族の毒味なら食事も豪華だろうけどさ~


「で、毒耐性が上がって毒見の役に立たなくなってクビになったと?」

「違います」×双子

「でも毒耐性がついたら毒入りかどうか分からないだろ?」

「毒を入れると」

「味が濁る」

「……」


 エイブルさん! フォローヨロシク!!


「ある日の晩餐会で王族を筆頭に参加していた両陣営の有力者がことごとく亡くなられたそうです。生き残った彼女達は暗殺の嫌疑から逃れる為、国を出奔しました」

「とんだ」

「濡れ衣」

「毒に気づかなかったのか?」

「毒と思わなかった」

「美味しかった」

「いったい何食ったんだ?」

「プク!!」×双子


 よほど美味かったのか元気よく答える双子。


「……プクって何だ?」

「ふうせん魚!」

「怒るとプクってふくらむ!」


 それって……

 味を思い出したのか恍惚な表情を浮かべるヴィラールとペロサ。


「プクのお造り……アレは究極」

「プクのお鍋……アレは至高」

「死ぬほど美味しかった……」×双子

「いや、死ぬから」

「皆様も是非」

「お試しください」

「試すかぁ!!」

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