第13話 魔王って、代替わりしますよ。
エイブルの爆弾発言に足が止まり、思わず彼女を凝視する。
「はあ!? いやいや! それダメなやつだろう! 勇者とはいえソルティアの手先だろ? 急先鋒とも言えるぞ! よく滅ぼされなかったな? つかなんで勇者が来たんだよ?」
「なんでも道に迷ったそうですよ。魔王城に行くつもりがうちの方に来ちゃったそうです」
「大丈夫か? その勇者、いろんな意味で……しかしよく滅ぼされなかったな!」
「当の勇者がこの国をいたく気に入られたそうです」
え?
「この国を訪れた勇者はこの国の住人ーーエルフやドワーフ、獣人達をみるや叫んだそうです『
「……」
うわー、なんだろう。残念な勇者だけど、その嗜好は理解できる。さすが俺の世界の出身だけあるわ。人のことは言えないが、萌えポイントが、どストライクだったんだろうなぁ。
俺は肩を並べて歩く猫耳メイドさんに自然と目がいく。ふっと俺を見上げ首をかしげ、ピコピコと動く猫耳。その仕草は十分に正義だ。
「勇者はこの国で仲間を得るとそのメンバーで当時の魔王倒したそうですよ。おかげで討伐メンバーを出した国として、ソルティアも迂闊に手が出せなくなりました。まあ、魔王の存在もありましたから。以来、しばらくの期間、勇者の中ではファドリシア詣ではブームになったそうです」
ゲームなら新システム導入で、プレイヤーがはまったって流れだよなあ。ん、魔王倒した?
「もっとも今では勇者だけで編成されたALL勇者パーティが主流になって、ここしばらくは訪れる勇者もいません」
今回の召喚は本来の微妙な立ち位置と魔王討伐への貢献度の低下で、元々この国の存在を面白く思わないソルティア連中からの外圧が強くなったのが原因って訳だ。待て待て、さっきから気になっているのだが……
「魔王って一回滅んでるのか? じゃあ今いるやつって復活? もしかして封印が解けたとか?」
「いえ、魔王って、代替わりしますよ」
さも、当たり前のように言うエイブル。
「はあ!?」
ちょっと待て、その流れだといつまでたっても魔王滅ばないじゃんか!
「魔王は魔族の頂点に君臨する者で、最強の称号みたいなものです。魔族はその指示に従う訳ですから、魔王が倒されると魔族も引き上げます。こうして次代の魔王を名乗る者が現れるまで平和が訪れます」
「なんだよそれ? 普通、指揮官がやられたら副官が跡を継ぐだろ?」
「魔王より弱いんですよ。勇者にやられるじゃないですか。そうそう次のなり手なんて現れません」
「なにそれ? だったら魔王軍で魔王守れよ!!」
「魔族には最強者同士の戦いはタイマンと決まってるんですよ」
「待て、今の勇者側はパーティーアタックだよな? 魔王は一人とか不公平じゃないか? つかそれタイマンじゃないぞ!」
「そこが魔王の称号を冠する者の矜持って事で通ってるんですよ」
な、なんたる脳筋魔王! 付き合い良すぎだろう! 魔王バカ? バカなの?
「そういう訳ですから、魔王が倒されると次の魔王が現れるには数年~数十年かかります。その間、魔族の侵攻もありません」
「だったら魔王が復活する前に魔族の国に攻め込まないのか? 勇者もいるんだし、指揮官不在の時こそ魔族殲滅のチャンスだろ?」
「魔族が引き上げた地域に軍を進めはしますが戦闘はしないらしいですよ」
「いやいや! そこは各国が連携して動くところだろ? 対魔王連合軍とかで」
「それ、魔王が倒される度に解散しますよ」
「はあ? 言っている意味がわからんぞ」
「誰だって勝ち戦で死にたくないですし、各国の足並みが揃いません。それぞれの国の思惑が働きますから、無駄な国力の消耗は避けて獲得した領土の線引きに奔走します」
「こんな事がずっと繰り返されているのかよ! 世界救えてないじゃん! ん? 勇者はどうした? 魔王倒してすぐならいるだろう?」
「勇者の仕事は魔王を倒すとこまでです。その後は適当にどっかの王族の姫を娶って王族になるそうですよ」
絶句。もはや何もいう事がない。
……ああ、こうやって魔王クエストは延々と繰り返されて、ゲーム会社のドル箱タイトルとして【ソルティアクエスト9】とか【ソードofクレンカレ10】てな感じに続くわけだ。うんうん。
「って、違あああああああああぁぁうっっ!!」
ゲームじゃないだろ!? この世界はバカしかいないのか? 魔王も勇者も王族もバカばかりじゃないか!!
これじゃあ世界はいつまでたっても救えない。いや、いろんな意味で救われない。
「まさか、ファドリシアも他の国のように 右に倣えって感じなのか?」
「いえ、この国はそれ以前の問題で実際のところ、全てにおいて蚊帳の外なんです」
「えっ、どゆこと?」
「辺境すぎて魔王軍の襲撃は過去一度もありませんし、弱小すぎてなんの期待もされていません。ただしソルティア法王国だけは何かと絡んできます。元々ソルティア凶徒の迫害から逃れた人々が建てた国ですから、信仰もソルティア教ではなく古の神ーー名を失った神を信仰するものが大半です。ソルティア教が嫌う亜人の方も多いですし連中から見れば面白くないんでしょうね」
「攻めて来ないのか? ソルティアから見ればファドリシアの住人って異教徒だろ?」
俺の世界の歴史では、キリスト教の十字軍とかかなりパワフルかつ執念深くイスラム教圏に攻め込んでたよな。もうライフワークみたいな感じで。宗教って結構粘着質なところあるもんな。
「そこは立ち回りでなんとか。魔王に敵対すると表明してますし、ソルティアに帰依こそしませんがあからさまな敵対行為は取っていません。ファドリシアは国としては信仰の自由を謳い、国教は持たないという立場を取っています。それに亡命者も多い ので下手につつきたくないでしょうし」
「亡命者? ソルティア教圏からの? そう言うからには亜人ではないよな。人だろ?」
ソルティア教圏の多くの国々では亜人を国民と認めていないようだ。俺のいたの世界でいえばジプシーやロマ人の様な漂泊の民と同じ様な扱いを受けているのだろう。国の庇護を受ける事も、定住する事も許されない。ファドリシア以外では厄介者扱いされる立場だ。そんな者達に亡命者という肩書きは付かない。
「そうです。ただし【彼女達】は政治的亡命者という訳ではなく、結果的に政治的地位の高い人ーー家族が付き添ってきた。というべきでしょうか」
なんじゃそれ? 彼女? 女性なの?
「亡命者は皆、若い娘です。というか 娘のために家族ごと亡命して来たのです」
「マジ?」
「ちなみに王宮に勤めるメイド達の一部がそうです」
「へっ?」
「私の指揮下ーーエイブルメイド隊に所属するメイドは皆【訳あり】なんです」
そう言って寂しげに笑う猫耳メイドさんの猫耳は秘めた感情を映すかのようにしおれていた。
王都を横断するように流れる川に架かる石橋の中程。河原に沿った並木道を望むと桜色の帯が続く。
先代さんが持ち込んだのだろうか、まごう事なき桜並木だ。そして今、ここファドリシアは春を迎えているのだろう。
そんなうららかな陽気にはそぐわない、真剣な表情の猫耳メイドさん。
「……そうですね……聞いていただけますか?」
「なに、その振り? もちろん聞きますとも」
エイブルさんの雰囲気にのまれ、俺は思わず居住まいを直して返事してしまった。
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