宝箱

勝利だギューちゃん

第1話  封印

「ねえ、私たちまた会えるかな」

小学校の卒業式の時、クラスメイトだった女の子から言われた。

彼女とは幼稚園入園前からのお付き合い。


所謂、幼馴染。


小さい頃は、意識することなく、遊んでいたのだが、

だんだんと、周囲の眼が気になり、人前で会う事は少なくなった。


だが、小学校の卒業式の直前に、告げられた。

「小学校を卒業したら、引っ越す」と・・・

親の事情らしいが、詳しくは深入りしなかった。


「正直、難しいんじゃないかな」

「どうして?」

「『去る者は日々に疎し』。すぐに疎遠になり、普通の生活になるよ」

「そっか・・・」

彼女は、何かを考えているようだった。


「ねえ、まーくん」

「何?まーちゃん」

僕の名前が、将彦(まさひこ)

彼女の名前が、真彩(まや)


なので、まーくん、まーちゃんで呼び合っていた。


「もし、いつか再会して、まーくんに、彼女がいなかったら、

私をお嫁にもらってね」

「ハハハ、いいよ」

「ありがとう」

これが、最後の会話となった。


僕に彼女のいない可能性は高いが、まーちゃんなら彼氏が出来るだろう。

そう思っていた。


彼女の引っ越しの日。

僕は、遠くから見送った。


「落ち着いたら手紙書くね」

そう言われていたのだが、手紙が届く事はなかった。


やがて、彼女の事は、心の宝箱にしまっておくこととなる。

この箱を、再び開ける日は、来ないだろう。


中学、高校、大学と、普通に過ごした。

まあ、普通な何よりだが、面白くないとも言える。


平穏なら波乱を望み、波乱なら平穏を望む。

人間とは、そういうものだ。


2度と開くことのないと思っていた、心の中の宝箱。

それが、開く時が来た。

正しくは開いてしまった。


運命とは時に皮肉で気まぐれを起こす。


その日、部屋でくつろいでいると、下から母の笑い声がした。

なんだか、懐かしそうに話している。


お友達か・・・


そうしていると、いきなり母から呼ばれた。

「将彦、電話よ」

「いないといってくれ」

「もう、いるって言ったわよ」


たく、気の利かないおばさんだ。


「はい、お電話変わりました」

「あっ、まーくん、私、覚えてる」

「あの・・・」

「私よ、真彩。」

「真彩・・・まーちゃん」

「覚えていてくれたんだ。ありがとう」


その日は、懐かしさのあまり、長電話してしまった。


「まーくん、声変わりしたんだね」

「とっくにしているよ」

「それも、そうだね」


まーちゃんとの記憶が、だんだんと蘇って行った。

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