タピオカから考える

竹槍

なぜタピオカなのか

 そもそもタピオカはどういったものなのか。

 ネット上の一部では何故か、カエルの卵が原料であるとの風説が広がっているが、生物学を、特に両生類周りをかじっている人間として言わせてもらおう。


 んなわけあるか!


 カエルの卵をあんなに大量に供給できるはずがない。

 仮にそんなことをすれば動物愛護団体が黙ってはいないだろう。生物学会も大騒ぎになっているはずだ。

 なぜなら、短期間にあんなに膨大な卵を乱獲すれば今頃絶滅の危機にあってもおかしくないからだ。

 タピオカドリンクの誕生から三十余年、発見から二十七年で絶滅したかのステラーカイギュウといい勝負だろう。


 タピオカはキャッサバという植物の根から取り出したデンプンそのものを指す言葉である。

 よって、アイスティーの中に入っている黒い粒状のものをタピオカと呼ぶのは誤用であり、正しくはタピオカパールである。


 ちなみにタピオカ自体は、麺類のつなぎや、食用に限らなければ薬剤の原料にしたりなど、丸めてミルクティーに沈める以外にも様々な用途がある。


 まあそんな雑学は置いておいて、なぜ数ある飲み物の中からタピオカミルクティーが見出され、それこそ真珠となって少女達を魅了しているのだろうか。


 なぜ行きつけのバーガーショップでとびきりチーズにモスシェイクを添えて写真を撮る者がいないのか。


 なぜ近所のカフェでパフェにドリンクつけて七百円足らずの軽食をとる者がいないのか。


 なぜ、校門を出たところでやたら気取ったやり方でゼリー入りカルピスを振り、自己嫌悪に陥る自分に陶酔しながらゼリーを堪能する者が私以外にいないのか。


 しょーもない自分語りはさておき、私はその答えをとある書籍から見つけ出した。

 その名も、サイモン・シン氏、エツァート・エルンスト博士著、青木薫氏訳、「代替医療解剖」である。

 書籍の詳しい内容については割愛するが、同書の中でプラセボ効果を高める条件ついての記述がある。


 その前に、なぜタピオカブームがプラセボ効果と結びつくのかを説明しなくてはならない。プラセボ効果とは、薬を服用するなどの医療行為により精神が前向きとなって、医療行為の内容に関わりなく病状が好転する現象を指す。

 要するに患者が、この治療法が効くと思い込めばいいため、例え治療法そのものに効果が無くとも怪我や病気が良くなってしまうのである。

 このプラセボ効果の程度は、患者の治療法への信頼によって決定される。


 私は、治療法が信頼を勝ち得るプロセスと、タピオカドリンクが人気を勝ち得るプロセスは似通ったものがあるのではないかと考えた。


 前述の書によれば、プラセボ効果を高める(治療法への信頼を上げる)には、大きく三つの条件がある。


 その一、その治療法が目新しいこと

 その二、担当した医師の評判が高いこと

 その三、費用が高いこと


 他にも様々な条件があるが、代表的なものとしてこれらが挙げられる。


 それではタピオカドリンクを当てはめて考えてみよう。


 条件その一

 タピオカドリンクがそんなに新しい飲み物かというとそうではない。2000年頃に最初のブームが発生し、2008年頃にもリバイバルブームが発生しているため、今回は三度目のブームと言われている。

 しかし、ブームの中核を担う女子中高生は最初のブームは勿論、リバイバルブームをギリギリ知らない世代である。彼女らからすれば、異国情緒溢れるタピオカドリンクはとても新鮮味のある飲み物に見えただろう。


 条件その二

 ここでは医師への信頼は店への信頼に置き換えられる。

 先述のリバイバルブーム以降、大きく話題に上ることこそなかったものの、タピオカドリンク業界は成長を続け、ブームになる直前の昨年中頃には有力なチェーン店が複数存在していたという。

 チェーン展開がされるほど成長しているのであれば、味の保証はされていると考えるのが自然だろう。

 少なくともどこの馬の骨とも知れぬ個人経営の店よりは期待値が高くなるはずだ。


 その三

 調べてみたが、タピオカドリンクは総じて値段が高い。一杯五百円前後が相場と聞くが、五百円もあればメーカー希望小売価格124円のゼリー入りカルピスが五本買える。やたらお安くなっている学校の自販機価格で計算すれば七本もいける。

 だが、これだけ高いからにはきっと美味しいのだろうしインスタにあげてもダサくないよねと人は思うわけだ。


 というわけで、タピオカドリンクは先述の三カ条を全てクリアしていることが明らかになった。


 それに加え、リバイバルブームの再現を狙った業界側がアタックをかけた可能性も高いだろう。

 詳しいリサーチは行っていないため推測になるが先述の通り、大規模なチェーン展開に成功しているところもある上に、情報伝達ツールの発達、中でも女子中高生の間で人気のインスタグラムとの親和性の高さ、これらを鑑みれば、前二回以上の収益を得ることも可能だと踏んだ業界側がなんらかのアクションを見せても不思議ではない。


 そして情報発信がとても容易になったこのご時世、なにか一つ受ければネズミ算式に二番煎じ以降が降って湧く傾向にある。

 カクヨム等々のネット小説界隈に身を置く方々はよくご存知であろう。


 かくしてタピオカブームは訪れたのだ。

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