第3話

自分が立っている場所は出口側であることは目の前の順路を示す矢印の先になにもないことでわかった。僕は今日はる隠しに遭うはずだったのに何でこんなところに突っ立っているのだろう。つい数秒前の記憶がない。時間になって係員がゲートを開けて、そこからぷっつりと記憶が途切れている。思いだそう思い出そうとしているうちに何かが顔から垂れた。透明なそれは自分の目から出ていて僕は泣いていたということが分かった。自分はまた選ばれなかったのだ。向こうのほうでバンダナゴリラとガリメガネの姿が見えた。二人はさっきのケンカがウソみたいに行儀よくしている。僕はその場でぼーっと突っ立っていた。少ししてガリメガネはテントから出てくると、鍵閉めになれた優越感なのか気持ち悪い笑顔を浮かべていた。僕はあり得ないと思った。係員が拡声器で本日の握手会が終了したことを告げる。出口に向かう人の波に逆らってガリメガネに駆け寄った。

「ねぇ、あんたの前の人」

「なに君?」

「あんたの前にいたバンダナの人どこ行った?」

「しらないよ。あんなやつ」

メガネの奥から陰気な目が一瞬だけこちらを向いたがそれだけで何も答えずに行ってしまった。会場の方を見る。係員は撤収作業に入ってこちらを気にしている様子はない。出口側からもう一度テントに入ればまだはるなんがいるかもしれない。

「はるなん」

テントの中には何人かのスタッフがいてその中心にはるなんが座っていた。

「何だ君は」

こちらに気付いたスタッフがすぐに駆け寄ってくる。

「さっきの男出てきてないよね」

次々に大人がやってきて僕の体を掴んでいく

「はる隠しなんでしょ」

「早くそいつを外に出せ」

はるなんの近くに座っていたスーツの男が苛立ちながら叫んだ。

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