13,逢瀬川先生と喜多方さん

「いただきまーす!」笑。

「「いただきます」」幸来と聡一。

「いただきまーす」思留紅。


「はいどうぞー、私もいただきます」


 部屋に布団を敷いたところでちょうどカレーができあがったので、家族5人がリビングのダイニングテーブルについた。いただきますの言い方も人それぞれだ。


 スパイシーながらもやさしい香りが漂う今宵の食卓。笑と幸来は初めて過ごすこの家族との夜に、あまり緊張していなかった。つい数時間前に初めて来た自分たちを、まるでずっと前からいたかのようにすんなり受け入れいてくれているその温かさは、二人にとって初めての体験だった。


 テーブルの中央にはシーザーサラダボウルがあり、紗織と聡一はそれを先にトングで皿に取り、口へ運んだ。


「うーん! おいしい! 家庭の味!」


「えぇ、ホッとする味」


「ありがとう! 頑張ってつくった甲斐があった!」


 笑と幸来が喜ぶ顔を見て、紗織もご満悦。そこには確かに、温かい家族の空気が満ちている。


「へぇ、お母さん、こういう家庭的なカレーもできるんだ」


「できますとも。ソースカツ丼とか夕顔の煮物も得意だよ」


「それは知ってる」


「ユウガオ?」


 初めて聞いたワードに笑は首を傾げた。


「あぁ、そっか、知らないよねそりゃ。私、両親が福島県の会津あいづ出身で、夕顔は福島とか青森とか、主に寒い地域で栽培される野菜なの。元々は外国から輸入されたらしいけど。煮物にするとトロッとしておいしんだ。こんど機会があったらつくってあげるね」


「はいぜひ! なんだか気になります!」


 笑の言葉に、幸来も首を2回縦に振った。


「オッケー。こんどじぃちゃんに送ってもらおう」


「思留紅ママのおじいちゃん、まだ生きてるんですか?」


 思留紅ママ、すなわち紗織のおじいちゃんということは、思留紅にとってはひいおじいちゃんである。


「こら笑、失礼よ」


「ははは、だいじょぶだいじょぶ、生きてるよ。金物屋の頑固ジジイで私には悪態ついてばっかだけど、思留紅には甘々なんだよね。孫とひ孫なんて大差ないだろうに」


「それは君の性格に問題があるんじゃないかい?」


「ふ~ん、どういうことですかぁ逢瀬川せんせ~。そんな問題ある生徒にあろうことか手を出して子どもを産ませた先生のほうがよっぽど問題なんじゃないですかぁ~?」


 ジトジトニンマリ、子どもの前で淫靡いんびな笑みを浮かべる紗織。


「き、喜多方きたかたさん、そ、それは……」


 聡一は声を上ずらせ、あからさまに動揺している。


「喜多方?」


 と首を傾げる笑に「私の旧姓」と紗織は答えた。


「ねぇお母さん、突然なんだけど、ラブリーピースさんの動画撮影していい? この世界に来てるかもしれない人たちを探すために」


 先生と生徒の間に生まれた娘は、この応酬に慣れっこ。故にさらっと受け流して話題を変えた。


「動画配信したら向こうから来た仲間のみんなに見てもらえるかもってこと?」


「うん」


「オッケー」


 話が早いなと、笑と幸来はカレーを咀嚼しながら感心した。

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