戦闘が許されない世界

「それはいいアイディアですね! さすがラブリーピース!」


 思留紅の部屋。学習机が左奥、南枕のベッドが右奥にあり、特に装飾品はないシンプルな部屋。ベッドに座る思留紅と、その前に立って家族を探すために動画配信をしたいと申し出た笑と幸来。


「でしょでしょ!」


 おだてられるとすぐ舞い上がる笑。


「はい! 素晴らしいです! それで、どういう動画にします?」


 ダメ押ししつつ淡々と話を進める思留紅。小学生にして部下を鼓舞する上司の人心掌握術を誰に教わるでもなく会得している。


「うーん、そうだなぁ、笑と幸来です! 私たち、家族やお友だち、町のみんなを探してます! って、ダイレクトに訴える?」


「それは危険じゃないかしら。近親者になりすまして近寄ってくる人が出そう」


「そうですね。幸来さんのおっしゃる通りです。この世界にはラブリーピースの世界とは比べものにならないくらい悪い人がたくさんいますので」


「うわ、なんかすごい世界なんだね。もしかして、ラブリーピースに変身してそういうのをやっつけるのが私たちの新たな使命?」


「いや、この世界でラブリーピースみたいな戦闘をしたら暴行傷害罪で逮捕されちゃうんじゃないかと……」


「えっ、そうなの!? 正義のために戦うのに!?」


「はい、残念ながら」


「何それ、ならやったもの勝ちじゃない」


 この世界のルールが解せない笑と幸来。ラブリーピースとして悪いヤツは戦闘で倒すのが生まれ育った世界での正義だった。それで市民の安全を守ってきた。


「悪人も、もちろん逮捕されちゃいますけどね。たとえ正義の鉄鎚てっついでも、大切な人を殺されても、この世界で暴力は許されないんです」


「大切な人を殺されても……。ますます腑に落ちないわ」


 その気持ち、わかるなぁ。鼻で息を吐き、目を細めた思留紅の表情がそう語っていた。


 思留紅はこれまで、近しい誰かが殺された、大怪我や障害を負わされた過去はない。しかし世の中で起こる事件や事故、いじめなどを見ていると、幸来の意見に共感する節が多分にあった。


「そうですよね。それはこの世界で生まれた私もそう思います。けど、もしラブリーピースさんにこの世界を救う使命があるとしたら、前みたいに戦うんじゃなくて、何かほかのやり方があるんじゃないかって、いま会話しながら思いました」


「ほかのやり方?」


 笑と幸来が同時に言った。


「それはのちほど考えましょう。とにかくいまは、動画をつくって笑さんと幸来さんの大切な人たちを呼び寄せなきゃ!」


「そうだね、まずはそこからだ。ね、幸来ちゃん」


「えぇ、そうね。動画、つくりましょう」


 再生数を稼げる動画をつくるにはどうしようか。頭を働かせるにはまず身体を動かそうということで、三人は子どもがもう一人できたときのためにつくった空き部屋と、来客時などにしばしば使う部屋にお布団を敷いた。

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