第120話 コウメ
「ふひぃ~。まいったのだ~」
半刻程続いた俺とコウメの模擬戦もコウメのガス欠で幕を下ろす事となった。
やはり、子供ながら勇者の称号は伊達ではなく、パワーだけなら確実にダイス以上で、動きに関しても俺のコーティング能力のお陰なのか、ダイスに追いつきそうな勢いだ。
それでもダイスの経験から来る総合的な強さにはまだまだ及びそうにないけどな。
しかしながら、末恐ろしいとはこの事だぜ。
あと十年すれば、ダイスの伸び代も緩やかになるだろうし、魔法を無視すりゃ今の俺にも匹敵する腕前になるだろうさ。
何より剣に纏って相手に叩き付ける魔法技だった『雷光疾風斬』が、俺の様に光線技に進化していた。
威力に関してはさすがに俺に比べるまでもなく火山は削れるなんて威力は無い物だったが、あくまで比較対象が俺なだけなので、普通に必ず殺す技と言う言葉通りの必殺技と言えるだろう。
当たりさえすればクァチル・ウタウスにも十分効く筈だ。
ただあいつにゃ、それを当てるのが難しいんだけどな。
「よし、今日はここまでだな。ははっ、かなり汚れたな。コウメどっか痛い所無いか? 俺が直々に治してやるぜ」
俺は戦いで泥だらけになったコウメに、怪我をしていないか聞いてみた。
観客席に『聖女』級が二名居るんで俺じゃなくても良いんだが、頑張ったご褒美と言うかコウメの為に何かをしてやりたくなったんで取りあえずは治療してやろうと言う訳だ。
「う~ん、ちっちゃい擦り傷はいっぱい有るけど、これくらいすぐに治るのだ」
コウメはそう言って年相応の無邪気な笑顔を浮かべながら俺にガッツポーズをした。
確かに精霊魔法のお陰なのか勇者ってのは傷の治りが常人より早いらしい。
初めて会った時に気絶させちまった事が有ったが、その時掛けた鑑定魔法にも回復力補正について語られていたしな。
……鑑定魔法か。
そう言えば、治癒魔法にも似たのが有ったよな。
診察魔法とか言う地味そうな名前なのに、ある意味チート級の魔法が。
治癒に自動補正が掛かる俺の場合は無用の長物と思っていたが、別に使っちゃいけない訳じゃねぇ。
診断魔法には情報のプロテクトは掛からねぇのは、地下のマッド気味の治癒師とのやり取りで実証済みだし、何より勇者だからと言って鑑定魔法も掛けられる俺には関係無ぇしな。
この際だからコウメに掛けてチート級な効果の程を実感させて貰うぜ。
「まぁ、そう言うなって。まずは
俺はワクワクしながらコウメに診察魔法を掛けた。
さてどう言う風に診察結果が視えるんだ?
マッド風治癒師の話じゃ、憧れの『ステータスオープン』って感じになるらしいが。
「おぉ! こうやって見えるのか! すげぇ」
俺は突如目の前に浮かび上がったゲームのポップアップウィンドウの様な
この板はコウメには見えていないらしい。
俺の目線付近を不思議そうに見ている。
恐らく周りには凄腕治癒師ばかりだっただろうし、わざわざ診察魔法を声を上げて唱える奴など見た事が無いんだろうな。
しかし、これはまさに
よく考えたらミーハーな神達の事なんだから、こんな中二病全開な魔法が無い筈が無かった。
くそ~こんな面白い魔法の存在を隠していやがって!
俺は少し悔しいと思いながら表示されているデータを確認する。
レベルとかスキルと言う項目は見付からないので、それらに関しては鑑定魔法の領分の様だ。
ただ身体能力に関する数値は事細かに項目別で並んでいた。
数値に関しては高いか低いかは初めて使ったので分からねぇが、軒並み三桁を超えており中には四桁に届く項目も有るので恐らくは一般人より高いんだろう。
これに関しては他の奴と掛け比べてみねぇと分からないな。
マッド風治癒師に俺の数字を聞いとけば良かったぜ。
「え~と、魔力と体力以外は数値的にそこまで減ってねぇな。怪我の有無の見方は……、あぁ人体図が出て来た。う~ん、多少の打ち身は有るが一時間以内に自然治癒完了と出てるな。ここまで分かるのか。さすがチート魔法だ」
俺は次々と項目表示を切り替えて様々な情報を確認した。
診たいデータを思い浮かべるだけでその項目が表示されてとても楽しい。
本当にマジでもっと早く使ってみたかったぜ。
身体の中を視られているのが恥ずかしいのかコウメは少し恥ずかしそうに顔を真っ赤にしている。
あぁ、まだ小さいと言えども女の子なんだしそりゃ恥ずかしいよな、怪我も無さそうだしそろそろ終わろうか……あっ、そうだ! 最後に
俺は表示を切り替えて目的の情報欄を表示した。
その情報は基本的なデータだった。
診たいデータと一緒に幾つかのデータも表示された。
肉体年齢に身長体重、それに生殖の可否。
表示結果は、女の子としてはプレイベートな事ばかりなので知らない振りをしていてやるか。
そして俺が診たい情報はっと……。
「え?」
俺はその情報の項目に表示されている数値に言葉を失った。
そして、見間違いかと思い何度もその項目を確認する。
しかし、そこに表示されている数値は変わらない。
診察魔法をもう一度掛け直したが、それでも同じだった。
俺は目の前が真っ暗になるような錯覚に陥った。
「どうしたのだ、先生?」
コウメが何も言わずに固まっちまった俺を見上げてくる。
その表情はとても不安そうだ。
しまったな、不安にさせちまったか。
俺は気を取り直して無理に顔に笑顔を張り付ける。
「何でもないぜ。すまんな、不安にさせちまったか。初めて使ったから情報の多さに驚いちまったんだよ」
「僕、どっか悪いところあったの?」
まだ不安が取れていないのか、俺の作り笑いに気付いたのか、まだ少し表情が曇って俺に理由を尋ねてくる。
いかん、これ以上俺の動揺を悟られちまう訳にもいかねぇ。
「大丈夫だって! お前は健康だぜ。よーし、頑張ったご褒美に肩車をしてやろう」
俺は張り裂けそうになる胸を振り払うように大袈裟に騒いでまだ少し戸惑っているコウメを抱き上げた。
無邪気なコウメはすぐに嬉しそうな顔に変わり、とても喜んでいる。
本当に純粋無垢ってのはこいつの事を言うんだろうな。
そんなコウメの仕草に俺の胸は更に痛みを増していく。
このままコウメの顔を見ていたら空元気も品切れしちまいそうなんで、早く肩車をしてやるか。
それなら顔を見なくて良いしな……って、うわっ!
「こ、こらコウメ顔にしがみ付くんじゃねぇって。肩車は逆だ。これじゃあ前が見えねぇっての!」
「へへへ、ごめんなのだ~。なんか先生をぎゅってしたくなったのだ」
肩車の為に一度コウメを下ろそうとしたら急に顔にしがみ付いて来た。
コウメのちっちゃい身体が俺の顔全体に押し当てられる。
これが普通の女の子なら微笑ましくも有るんだが、勇者の力で締め付けて来るんで結構痛い。
どうやら、コウメも俺へのダメージ特攻を持っているのは確実のようだ。
俺の注意でコウメはそのまま俺の顔を支点によじよじと回転して肩車の位置に収まった。
お陰で髪がボサボサになっちまったぜ。
ふぅ、まぁいいか……。
俺はそのまま観客席に向かって歩き出す。
観客席には皆が待っている。
先輩達は俺とコウメの戦いが始まった途端巻き込まれてはかなわんと、一目散に逃げて行ったんで同じく観客席にいた。
気絶したのかと思ったらただ単に横になっていただけだった様だな。
ん? 姫さんとメアリはなんか少し不満そうな顔をしているな。
もしかしてコウメを肩車している事にヤキモチでも焼いてるのか?
まぁ、今だけは勘弁してくれ。
どうしても肩車をしてやりてぇんだ。
レイチェルの奴は手を振っているな。
俺の頭の上に居るから見えねぇが、少しコウメの身体が揺れてるんでどうやらコウメが振った手に返しているのだろう。
しかし、レイチェルの奴は
いや、知らない訳ないか。
自分の娘を溺愛しているんだから、毎日診察魔法を掛けていたって不思議じゃねぇだろ。
俺はやるせない思いで仮面を被っているレイチェルを見詰めた。
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