第72話 与えられた意味
「あった~!! 俺の荷物~!! ほぼ無事だ~!!」
あれから三日後、俺達は遺跡の被害状況確認の為に再度調査団を組んで現地に赴いていたんだが、俺達が休憩所として使用していた岩山の窪みは火山を背にする形で有った為、多少の火山灰が降り積もっていたがほぼ無事な形で残っていた。
爺さんや治癒師のねぇちゃんの荷物も無事だったようだ。
まぁ、こんな所に盗賊が出る訳も無し、噴火の影響で動物なんかも皆逃げ去っているんだから荒らされる訳も無いわな。
メンバーは俺と前回の件で俺を崇拝してしまっている案内人のジョン、それに今回は追加でバース放牧場から腕利きの諜報員が数人増員され、更に俺の街の冒険者ギルドから先輩自らがダイスを連れてやって来ている。
本当は王子も来たがっていたが、街を少し走った程度で息を切らす体力じゃ、現在噴火が収まっているとは言え、何かあった場合の急な対処は無理だろうと言う先輩の判断で街でお留守番だ。
もう少し落ち着いたら、王都から本格的な調査団が派遣されるらしいが、今回はまずはその事前調査になる。
本当は俺に対してすぐに王都へ報告に来るようにとの国王からの通達は有ったのだが、俺しか分からねぇ痕跡が祭壇に残っている可能性も有るし、この目で見るまでは他の奴等に荒らされたくなかった事も有って、無理を言って再調査終了まで待ってもらう事にした。
その代わりと言っては何だが、現在コウメと従者二人が現状報告の為に王都に向かっている。
「先生、荷物見つかって良かったですねぇ。俺もその道具達を見て育ったんで感慨深いですよ」
近寄って来たダイスが、道具が無事で喜んでいる俺にそう声を掛けて来た。
この冒険道具一式は逃亡中もお世話になったお手製の道具達で、勿論新人研修でも使い方の指導教材としても使っている。
ダイスもこれを使って鍛えられたんだから、懐かしく思うのだろう。
まっ、ここまで俺が惜しんでいる理由は、幾つかの道具には複雑で高度な魔法付与を施しているのでもう一度製作するのが面倒臭いと言うのも有るし、他の者の手に渡ってしまった場合、非常に危険と言う代物だったりするからなんだよな。
「ありがとうよ。しかし里帰り早々こんな調査に付き合わせちまってすまんな」
「ハハハハハ、いえいえ。先生と冒険出来るならお安い御用です」
「そう言って貰えると助かるぜ。幾ら諜報員だからって俺一人に、あの人数のお守りは、こんな状況じゃ荷が重くてな。お前と先輩が来てくれたのは心強いぜ」
「先生に頼ってもらえるのは嬉しいですね。そんな事より、いやぁ~里帰りをしている間に、踊らずの姫君が踊ったり、女神が降臨したり、勇者がガチンコで喧嘩したり、火山が噴火してその理由が魔族を倒したからだったりと驚きの連続ですよ。しかもその全部に先生が絡んでるなんて。先生最近正体隠すのさぼってませんか?」
うっ、ダイスの辛辣な指摘に、返す言葉が見付からねぇ。
確かに最近、力を出さざるを得ないシチュエーションが多かったのも確かだが、逃亡時代の慎重さが有れば回避出来ていた様なポカミスばかりで、俺の力の事を多かれ少なかれ知っている奴が絶賛増殖中だ。
つい先日は、自分の口から神の使徒だと言っちまったしな。
その所為で、俺を神格化する
幸いな事に二人共、自分だけが知っていると言う優越感に酔うタイプだったお陰で、ベラベラと喋る事はねぇみてぇなんだが、その態度を他の奴等に見られたら変に思われちまう。
「面目無ぇな。最近はイレギュラーが多過ぎてよ」
「本当に困った先生ですね。つい最近まで先生が理を破る者と言うのを知っているのは俺だけだったのに」
おいおい、なに拗ねてんだよ?
別に二人だけの秘密の約束って訳でもあるまいに。
二十歳過ぎの良い歳した男が口尖らせて拗ねんでも良いだろ。
「まぁ、先生の事を称える人間が増える事は良い事ですよ。俺の地道な努力が実りましたね」
「あっそうだ! お前あちこちでベラベラと俺の事を吹聴していたそうじゃねぇか! 晩餐会の時大変だったんだぞ!」
「ハハハハハ、嘘は言っていませんよ。先生の特訓のお陰で今の俺は居るんですから」
なに嬉しそうな顔してやがるんだ?
俺のお陰って言っても基本叩き込んだだけだっての。
……まぁ、ダイスは最初の教え子だったんで、思わず身バレするぐらい力を入れて扱いてしまったがな。
「最初はそうだったかもしれんが、今のお前が居るのはお前の努力の結果だぜ? 謙遜する事ねぇだろ」
「先生こそ謙遜してますよ。分かってないんですか? うちのギルドの評判がこの大陸でどれ程高いのかを」
ダイスが半ば呆れた顔してそんな事を言って来た。
俺が謙遜? そんな事は無いと思うが……?
評判に関しては、確かに晩餐会の時の周囲の反応から俺が思った以上に評判が高いのは感じていた。
しかし、それにしたって、ダイスやグレン達が各地で活躍しているお陰だろう。
新人研修以外は寝てるか小物退治に勤しんでいる俺がギルドの評判なんかに関係している筈も無ぇしよ。
時々身分隠して大物退治はしては居るが、俺だって事はバレてねぇんだから無関係だろう。
「だから、それはお前達が頑張ったお陰だって……」
「ふぅ、先生はうちのギルドの近年の死亡率知っていますか?」
ん? 何かえらい所に話が飛んだな。
死亡率って言っても、俺がこのギルドに入ってからは誰の葬式も挙げた事無ぇが。
それに俺が死なねぇ様に鍛えているんだ、そんな簡単に死なれて堪るか。
「縁起でも無ぇ事言うなよ。うちのギルドの奴等は簡単に死ぬ玉じゃねぇよ」
「そうですね。けど、これは知っていますか? 年間死亡率0なんて奇跡、他のギルドでは有り得ない数字なんですよ。俺は諸国を旅する事が多いですが、魔物達に力及ばず道半ば果てる冒険者達の事を見聞きする機会はうんざりする程でしたよ」
……確かにな。
そこそこ平和な世の中を維持しているのが冒険者だ。
まぁ国としては騎士団や兵士達の働きのお陰だろうが、庶民達の平和に関しちゃそう言う訳にもいかねぇしな。
この大陸でも特に平和なこの街でダラダラ過ごしているぶんにゃ忘れそうになるが、平和で暮らせるという事はそれだけこの周辺で冒険者が活躍しているって言う事に他ならねぇ。
「先日の襲撃の時もそうですが、各地で活躍しているギルドメンバー達にしても大きな怪我も無く、皆無事に戻って来れるのは凄い事なんですよ」
「そうは言うが、この前の襲撃の時なんて
魔族化しちまうと殺さなきゃならねぇ。
女媧を倒しても元には戻らず、種族不明の訳の分からない生物になっちまうだけだしな。
俺が気付くのが遅ければ、ダイスが間に合わなければ、そんな簡単な理由でギルドメンバー八人が犠牲になっていたかもしれねぇんだ。
しかも、また俺の手でよ……。
「けど、先生が助けたじゃないですか」
「ん? いや、それはそうだが、そんなの運が良かっただけだ。一歩間違うと……」
「そうですよ! それです!」
俺の言葉を遮るように、満面の笑みでダイスが大声を上げた。
「何が、そうなんだよ?」
「俺達は運が良かったって事です」
ダイスのあまりに単純な答えに俺は呆れた顔で首を捻った。
『運が良かった』って、長々喋った割に拍子抜けな回答だな。
「俺達には先生が居た!」
「へ?」
俺が居た? ……まぁ、メリーが死ななかったのもグレン達を浄化出来たのも俺が居たからなのは確かだが。
いつも俺が居る訳でも在るまいに、そんな事を自身満々に言われてもな。
「うちのギルドに有って、他のギルドに無い物。それは先生の存在です」
「ん? いや、まぁ俺は一人しか居ねぇから、そりゃあ他のギルドには無いだろ」
「違いますって! そう言う事じゃなく、先生が俺達を鍛えてくれたからこそ、俺達は誰一人掛ける事無く活躍出来るんですよ。あの時のメリーにしてもグレンにしても同じ事です。あれは先生に助けられる運命だったんですよ」
「いや、それは大袈裟だろ」
と、言えないのが辛い所だぜ。
神の演出でギリギリ間に合ったかもってのは否定出来ねぇ。
ただ、最近神の奴はやけに立て続けにイベントを発生させているが、それで本当に楽しいのかね?
神は物語を読むのが好きだと言っていたが、自分が話を仕切ってイベント管理をするなんてのは、そんなのは読者じゃなくて作者、若しくはゲームマスターって奴じゃねぇのか?
神が宗旨替えしたってんならそれまでなんだが、こんなのは
……いや、なんで神の奴の弁護みてェな事してんだ俺?
この前見た夢の所為だな。
何が『そんなの嫌だよ! 神様と離れるのなんて!!』だよ。
マジであの頃の俺を殴ってやりてぇぜ。
「大袈裟じゃないですよ。街の外から客観的に見ると分かるんですが、うちのギルドの異常性は際立っています。まさにレベルが違う。先生がバカだバカだと言ってますカイでさえ、他のギルドじゃエース級でしょう」
「そうなのか? 他のギルドの事は知らねぇが、カイでさえそれって程度が低過ぎるだろ」
「違いますよ。それもこれも、先生が指導してくれているお陰です!」
「いや、そう言ってくれるのは嬉しいが、それはお前らに元々素質が有ったからじゃねぇのか?」
「いえ、そうじゃないんです。俺がその生き証人みたいなものなんですよ」
ダイスが苦笑してそう言った。
生き証人だって? なんか難しい事言い出したな。
俺から巣立った後に努力して皆から英雄と称えられるまでになったお前こそ、俺の言葉の生き証人じゃ無ぇか。
「今回里帰りして改めて実感しましたが、知っていますか? 王族と言う者は何かしらの能力を持っているって言う事を」
「あ~らしいな。王子もこの国の王族も魔法に優れているって聞いたぜ。お前の所もか?」
「えぇ。まぁ、うちは戦士の家系なんですけどね。代々常人に比べ優れた戦闘能力を持って生まれてきます」
家系によっては能力の系統が異なるのか。
二つの国連続で魔法に関係する事だったんで、魔力関連のみかと思っていたが、そう言う訳でもねぇんだな。
しかしなるほど、優れた戦闘能力か、それは納得出来る。
こいつは魔法は使え無ぇが、純粋に戦闘能力って事なら、勇者であるコウメより一枚も二枚も上、それ所か俺が今まで見てきた中でも五本の指に入るだろう。
それが王家の血による物だったとは恐れ入ったぜ。
「……けど、俺はそんな力を持って生まれてこなかった」
「は? いや、ちょっと待てよ。今お前の強さを納得したところだぜ? どう言う事なんだ?」
「俺は生まれて来た時は、何の力も持っていない普通の子供だったんですよ。そりゃ一般人よりかは多少は強かったですが、それでも一族の爪弾き者として過して来たんです。当初母の不貞が疑われましたが、魔法による検査の結果、間違いなく王家の血を引いている事が分かりました。まぁ、それはそれで出来損ないとして捻くれて育つ土壌となったと言えますけどね」
なるほどな。
こいつと初めて会った時に、荒れていたのはそう言う事だったのか。
他国の評判もかなり悪かったみてぇだし、国から勘当されたってのも半ば冗談って訳じゃねぇんだな。
しかし、王家の能力には俺も一目を置いている。
王子とメアリの感知能力、国王の何でも見通す『天眼』。
先輩だって凄腕の魔法使いだ。
そして、今のダイスの実力は本物だ。
ダイスが出来損ないってんなら、戦闘能力に優れてるって言う王家の奴等はどれだけの強さをもってやがんだ?
もしかすると魔法抜きなら俺でも勝て無ぇかも知れねぇぞ。
「今回里帰りした時に、兄達に決闘を申し込まれたんですよ。まぁ、王家の落ち零れが巷でチヤホヤされているのが許せなかったんでしょう。兄達は稽古を付けてやると言っていましたけどね」
ダイスは少し笑いを堪えた感じにそう言った。
なんだか今にも噴出しそうだ。
自嘲って感じでも無ぇな?
結果がすごく気になるぜ。
「で、どうなったんだ? 少しはいい試合出来たのか?」
「ふふふふ、えぇ、俺の圧勝でしたよ」
「え? 圧勝……?」
ダイスがとてもいいドヤ顔している。
圧勝? さっきの戦闘能力に優れてる王家の話は何処に言ったんだ?
「なんだそりゃ? もしかして王家の力って奴を覚醒したって事か?」
「いえ、違いますね。王家の力を持つ者は左手の甲に紋章が浮かび上がるんですよ」
そう言って、嬉しそうにダイスは手袋を外し自分の左手の甲を見せてくた。
そこには何も浮かび上がっていない。
と言う事は実力で勝ったって言う事か。
しかし、手の甲に浮かび上がる紋章に優れた戦闘能力ねぇ……。
勇者の紋章といい、またまたコテコテな中二病設定を盛り込んで来やがったな。
ったく……、神の奴本当にやりたい放題だぜ。
天眼持ちが現われるこの国といい、どうやら王家にも中二病ギミックを仕込んでやがるようだ。
そうなると、アメリア王家は地味かもしれねぇな。
いや、瞬時に魔法解析出来る感知能力ってのも、十分中二病臭いんだけどよ。
「いや~、気持ち良かったですね。俺に負けた事が信じられなくて、何度も挑んでくる兄達をボコボコ……いえ、久し振りに兄達と一緒に清々しい汗を流せて大満足でした。最後は四人全員で掛かって来たんですが、さすがに王族が雁首揃えて四対一なんて恥知らずな行為を犯した事にはカチンと来ましてね。全員泣いて謝るまで許しませんでしたよ~。ははははは」
「マジか……」
なんて嬉しそうな顔をしてやがるんだ。
こいつ結構Sっ気な所が有るよな。
しかし、ダイスの奴また強くなってやがるようだ。
魔族との戦闘経験が生きてるんだろう。
ウロコ切りも達成したしな。
「えぇ、俺も驚きましたが、先生とのガチンコ試合に比べたら、兄達四人程度なんて準備体操にもなりません。まぁ身体能力にかまけて自らの技術を鍛える事を忘れた者達なんて、所詮烏合の衆です。何人来ようとも先生一人の方が俺には怖いですね」
言うな~、ザクザクと斬って捨てる様に言うな~。
小さい時いじめられてたって言うから、そんな兄達に勝ったってのは余程嬉しかったんだろうな~。
「そ、そうか、良かったじゃねぇか。ウザイ兄達を見返せてよ」
「えぇ、それもこれも先生のお陰ですよ」
「いや、勝ったのは今のお前の実力だろ? 俺と試合したってぇのも結構前じゃねぇか。全部お前の努力の結果だよ」
ダイスは俺の言葉に目を瞑り、小さく首を振った。
「そう言って頂けるのは光栄ですが、俺は思うんですよ。先程の話に戻りますが、うちのギルドが優れている理由、それは先生の存在です。恐らくなのですが、先生に鍛えて頂くと何らかの加護が付くのではないかと思うのです。強くなると言うか、成長を促すと言う感じのそんな力を」
「えぇっ! いや、何をバカな!」
俺はダイスの突拍子も無い言葉に、思わず否定の声を上げた。
俺への煽てか何かだと思ったら、ダイスの顔は真剣だ。
ダイスの言葉を改めて思い返すと、『なるほど』と思わないでもない。
確かに舞踏会の時の周囲からの質問は、俺が何か特殊な訓練をギルドの皆に課してるのかと言う内容が多かった。
それだけ外の連中からしたらうちのギルドメンバーの成長スピードが早いと言う事なのだろう。
それに姫さんにしても、今では踊りの腕は上級レベルまで達している。
たかが一時間ほど実践訓練しただけだ。
俺に取っちゃあ、この程度の教え子らの上達速度は当たり前の事だったので、特に気にしちゃいなかったが、常識的に考えると有り得ないだろう。
なんせ、ダンスの達人なんて、それこそ毎日血の滲む練習を重ねているだろうに、『踊らずの姫君』なんて異名を周囲に押し付けるくらい人前で踊るのが恥ずかしい程の下手糞だった奴が、短時間でそのレベルまで到達したんだ。
姫さんが『魔法でも使ったのか?』と聞いてきたのは大袈裟でもなんでもなかったって事か……。
戯れで始めたダンス講師が、思った以上に繁盛したのも頷ける。
先輩も『いつ再開するのか』って問い合わせが沢山来ていると言っていたな。
……それだけじゃねぇな。
思い起こせば、二十年前の悲劇だってそうだ。
ハリー達がたった三年でAランク昇格間際まで成長した事も異常な事だったんじゃないのか?
もしかして本当に俺にはそんな力が備わってるのだろうか?
「だからお前をギルドの教導役にしたんだよ」
突然後ろから声がした。
慌てて振り向くと先輩が笑顔で立ってこちらを見ている。
「なんだって? 先輩は気付いていたのか?」
「多少はな。当時のお前のパーティーの成長は周りが噂するくらい凄かったし、お前がメンバーに色々と教えてるのを見てたからな。良い教師になるだろうって思っていたんだよ。まさかダイスが言うように加護とかそんな大層な物だとは思わなかったがな。ガハハハハ」
そう言って先輩は大きい声で笑っている。
再会した先輩はなぜ俺をギルドの教導役にしたのか疑問だったのだが、確かにそう言う事なら納得がいく。
取りあえず俺を確保する為に、無理矢理役職を与えて留めさせたのかと思っていたが、最初から俺の指導力に目を付けていたのか。
よく考えたら当たり前だな。
新人訓練は人の生死が掛かる重要な仕事だ。
幾ら知り合いだからと言って、ギルドマスターが何の実績も無い奴にそんな役目を与える訳無ぇじゃねぇか。
「先輩。しかし、俺はその所為で、パーティーの奴等の心をバラバラにしてしまったんだぜ?」
当時の俺は将来の夢を語っていた皆の為にと、俺は持てる知識を擦り絞って、ハリー達に特訓した。
そのお陰で皆は強くなったが、その所為でバラバラになってしまったんだ。
人の成長を促す加護なんてふざけた力を与えられてるなんて知らなかったからよ。
「彼奴等は力に溺れただけだ。お前の所為じゃねぇよ。まっ、グレンみたいに力に酔ってる奴も居る事は居るが、俺のギルドにはあそこまでのバカ達は居ねぇよ」
「そうなのか……?」
「あぁ安心しろ。今度は上手くやってるよ。それはお前に取っちゃ辛い事だっただろうが、長年の逃亡生活で培った人生経験のお陰だろうな」
あの悪夢の様な十二年間のお陰と言うと抵抗は有るが、確かに過剰なまでの周囲への警戒や慎重に慎重を重ねて行動するなんて、言い換えれば臆病とも取れる事を徹底して教えてきた。
一瞬の判断ミスが死に繋がるからよ。
そして、俺はそんな生活を十二年続けて来たんだ。
そう考えると、俺の逃亡生活は無駄じゃなかったのか?
なんだか少し救われた様な気になった。
「ありがとうよ、先輩」
「良いって事よ。まっ、その力が与えられた意味をよく考えてみたらいいかも知れねぇな」
「与えられた意味? ……ああ、分かったぜ」
与えられた意味……か。
知らねぇ内に与えられていた力だが、それにより俺の仲間がバラバラになっちまうあの悲劇を生んだ。
しかし、今はその力のお陰で俺の仲間……ギルドの大切な奴等は誰一人欠ける事無く無事で居られるのか。
神が俺にこんな力を与えた意味。
ただの戯れじゃねぇ筈だ。
これから、この力が必要になる機会が出てくるのかは知らねぇが、有り難く使わせて貰うぜ。
人が死なねぇ様になる力なら、神達の思惑にでも乗ってやるさ。
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