第8話 デントス港到着

 予定通りの日程でロードカイオスのデントス港に到着した。


 船旅は殆ど天気も良く、美しい海の旅を満喫出来た。


 一度だけクラーケンに遭遇という事件があるにはあった。



 ロードカイオスの海は、前世で言えば、テレビの画像で見たカリブ海の様な美しい海だと思う。


 船の旅をザクと二人でこんなにも満喫できるなんてと、始終ふわふわした気分だった。



 そう言えば、あのハンカチを拾ってあげた人は、エルメンティアの貴族の子弟ではあったけれど、後に知った所によると、ロードカイオスから雇われて、海の魔物遭遇時に魔力で退ける用心棒の様な役割を持つ人だったのだ。


 ロードカイオスの海域にはクラーケンを代表としていくらか海の魔物が居る。


 大抵は船の舳先に取り付けられた魔物除けの魔道具で難を逃れているそうだけど、新しい試みでエルメンティアの魔法使いを雇ったのだそうだ。


 大きい船だと、船全てを守る魔道具も大がかりな物になるそうだ。


 その魔道具はエルメンティア製で、かなり高価なものになるので、魔法使いを雇うという考えを思いついたみたいだ。エルメンティアの国を通して探したらしい。それは後でザクに教えて貰ったのだ。


 強い風魔法を使う人で、大きな船を狙って二体のクラーケンが襲ってきたのだけど、難なく攻撃魔法で撃退していた。


 ロードカイオスの技術と、エルメンティアの魔法をどう扱って行くか、いろいろやってみるのが良いとザクは言っていた。


 確かにそうだと思う。帰りの船もあの人が乗って船を守るそうだ。


 ロードカイオスまでの船旅で色々な人に出会った。楽しい旅だった。


 いよいよデントス港に到着するという頃も、やはり凪いだ美しい海で、こんなに快晴が続くのも珍しいのだと船の乗務員の人が言っているのを聞いた。


 この大きな客船が港に着くのを、多くの出迎えの人が見守っていた。パレードだ。


 楽団の人達が得るエルメンティアでは聞いた事のない調べの楽曲を演奏してくれている。


 国をあげてのイベントらしく、紙吹雪や色紙のテープが投げられ、エルメンティアの国旗まではためく様がお祭りムードでいっぱいだなと目を瞠った。


「驚いたか、フィー?」


「うん、楽しくて明るくて、とても素敵。」


「そうか。それは良かった」


 ザクが私の頭を優しく撫でてくれる。


 コンテスさんと一緒に船を降り、荷物を受け取り、その日は近くの海沿いのホテルに泊まる事になっていた。


 翌日、ホテルまでコンテスさんの馬車が迎えに来てくれるとの事だった。


 その手続きはコンテスさんがしてくれて、その間、私とザクはレストランで食事をして待っていた。


「なんて綺麗な空かな、十字島の空も綺麗だけど、こちらの空は真っ青な南国の空って感じするね」


「そうだな。日よけのつばの広い帽子を被りなさい。魔力で守っているが、あまりにも鮮やかな日差しは女性には少し心配だ」


「そんな広いつばの帽子は持っていないから、その辺りのお店で買おうかな?」


「それじゃあ、後で一緒に店で探そう」


「うん。コンテスさんと合流して、ホテルに荷物を置いてから、出かけようか?」


「そうしよう」


 丁度昼食の頃だったので、まずはここの特産品だという『パンの木の実』を使った料理を食べた。


 ココナツミルクで甘く柔らかく煮られたパンの木の実は、お芋そっくりの食感で、優しい口当たりだった。


 ふんわりとココナツの甘い香りとミルキーな風味がとても美味しい。


「わあ、私これすごく好きな味だ。ハチミツが入ってる」


「ふふ、美味しい顔だな」


 ザクが私の頬をつついた。


 『パンの木』と呼ばれるその木からとれる丸い緑の大きな実を使った料理が色々ある。


 少し外側の皮が黄色っぽくなるのが、熟れたサインらしい。


 蒸したり煮たりすると、あまり甘みのないサツマイモに似た食感になるようだ。


 短冊切りにして素揚げにして、バターや砂糖を絡めてパンの様に食べたりもするらしい。


 とても美味しそう。


 他にも様々な料理法があるそうで、違う物を食べるのが楽しみ。


 海が近いので、海鮮物の色々な種類を使ったカルパッチョの様な料理もある。


「クラーケンも旨いそうだ。香辛料を効かせた厚いステーキもあるらしい」


「なんでもそうだけど、魔力を持つ生き物は料理すると美味しいっていうものね」


「フィーは食べてみたいのか?」


「食べてみたい。夜に白ワインと一緒に頂きたい」


「ふむ、それは美味しそうだ。こちらのワインの銘柄を選ぶのも楽しみだな」


 その後、コンテスさんがホテル等の手配を済ませて来てくれて、レストランで合流した。


「確かに、パンの木も有名なのですが、芋ですとキャッサバ芋が開拓時代は主食でした」


「キャッサバですか?」


 そういえば、前世でもパンの木もキャッサバもあった様な気がする。


「ええ、こちらでは何処ではどこでもスイーツに使われているタピオカーノの原料でもあるのですが、エルメンティアにはないものですね」


 私は心の中で、それって『タピオカだ!』と心の中で拍手した。こちらの世界でもタピオカが食べられるかもしれない。とワクワクする。


「ここでも、食べられますか?」


「ええ。もちろんです。キャッサバ芋の皮に毒が多く含まれているので、毒抜きが必要なのですが、今ではどうしたら良いのかがハッキリ分かっているので、安心です」


 それで、私はタピオカーノミルクをを堪能したのだった。




 

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