第3話 長命の病気1
私の記憶に残る人魚伝説は、この世界、オリジェントのものではないけど、こちらでも似たような話があることを知った。
船の中で知り合いになったおじさんから聞いたのだ。
その人は、ロードカイオスからエルメンティアに来ていて、帰りはローレンティア号に乗って帰る事にしたそうだ。
仕事はカイナハタンで衣類の縫製工場を経営しているという話だった。そして、この船の旅でそのおじさんから、不思議な話を聞いたのだ。
船に乗って二日目の日、ザクと二人でデッキで夕日を見ていると、その人が私とザクに声をかけてきたのだ。
「こっちに来て、いっしょに飲み物でも飲みませんか?連れがいないのでね、どうですか」
そう言われて振り返ると、初老といった感じの、上品なおじさんが1人でデッキのテーブルで飲み物を飲んでいたのだ。
他にも幾つも四人掛けの丸テーブルセットはあったけど。その中でおじさんは一人で座っていた。
「ほう、これはまた、美しい方ですな。お嬢さんはとてもお可愛らしいし、仲睦まじく夕日を見ていらっしゃった姿が、私の若い頃の事を思い出されて、懐かしくなりました」
「フィーは可愛いからな。私の宝物なのだ。では、失礼しようか」
あっ、ちょっと居たたまれない感じしたけど、笑ってごまかす。ザクは通常仕様だった。
「君、何か飲み物を」
おじさんが近くに居た乗務員に声をかけて、飲み物のメニューを貰ってくれた。
「フィーは何にする?」
「うーん、果実水にする。白ぶどうにしようかな」
「じゃあ、私はエールを」
「はい、承りました」
「それと、何か、少し軽食の盛り合わせはないか?」
「では、こちらのピンチョスの盛り合わせをお持ちしましょうか?」
「ああ、それを頼む」
そう言い終わって、私の顔を見てザクが笑って言った。
「フィーの好きそうな物を頼んだ」
「ザク、ありがとう。どんなのが来るのか楽しみ」
「本当に仲睦まじくて羨ましい限りです。私にも昔そんな風に大切な相手が居たのですが、とうに亡くしてしまいました。それからは、何を見ても、なにをしても、全てが色を失くした様です」
「そうであろうな、大切な者をなくすと、そのようになるものらしい」
「ふふ、貴方は、とてもお若いのに、私などよりも余程老成された方の様に感じます」
「そうか、私は見た目よりも年寄りなのでな」
なんだか現実離れした空間で、ザクが知らない人と不思議な会話をしている。
今まで、こんな風にエルメンティアから出て、他国の人と話をした事もなかったなと今更ながら思う。
「なる程、やはり魔法国と呼ばれるエルメンティアならそういう方もいらっしゃるのですね」
「そうだな」
「実は、私もこれで100才を越えているのです。長命の病気といいますか、なかなか死にそうにないので何か良い薬でもないかと思いまして、エルメンティアにならあるかもしれないと探しにきたのです」
おじさんの言葉に私は驚いた。おじさんは100才を越えている様には見えない。
長命の病気とは?そんなものがあるとは。
「それで、無かったという訳か」
「はい、そうなのです。色々伝手を頼って聞いてみたのですが、魔法国とはいえ、一般人は魔法は使えないと聞きました。その中でその様な不思議な病気を治す薬は聞いた事がないと皆、言われました。もしや、貴方様はそのような話を聞いた事がおありでしょうか?」
ザクは椅子に座ったまま、私の左手を右手で指同士を絡ませるように繋いで、ゆっくりと魔力を送ってきた。
とてもリラックスする。
「いや、そんな病気があるとは知らなかった。病気でないのならば治し方があるかもしれぬがな」
「はい、まあ、病気ともうしますか、実は私が要らぬ物を口にしたのが悪かったのです。少し長くなりますが聞いてくださいますか?」
「ああ、聞こう」
おじさんが話をはじめて、私はすぐに引き込まれてしまった。途中でピンチョスと飲み物が運ばれて来たので頂きながら話を聞いた。
「ロードカイオスはご存知の通り、帝国軍に滅ぼされて壊滅してしまいましたが、復興の中で私が手を付けた仕事が勢いに乗り、気が付いた時にはかなりの財産が出来ていました。人というものはそうなると余程自分を戒めてくれる立場にある誰かがいるか、何か信じる神でもないと、どんどん調子に乗ってしまうのです。また、そういう時に、身近な誰かが何かを心配してくれたとしても、聞く耳を持たないのですよ。それで、大失敗をしてしまったのです。そうだと気付いたのも後々、どうにもならない状態になってからでした・・・」
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