第22話 コモーナ侯爵領の幽霊屋敷2

 ダイロクの地下からカナンに送られ、迎えに来ていたコモーナ公爵家の紋章付の2台の馬車に3人と2人に分かれて乗り、前の馬車に第3師団の2人、後ろに第5師団3人が乗った。



 第3師団の2人は初めて組む人達だ。

 ライト・ヘミングス 24才 風系

 ブルガリ・ヴィルト 26才 炎系


 ヘミングスさんは、金髪直毛のツンツンした短髪でとても体が大きくてブルーグレーの瞳のクールな感じの人だ。一方ヴィルトさんは、白金のくせ毛で背中まである髪を一つに括っていて、瞳は青の優男風という感じだろうか。


 ヘミングスさんはあまり女性と話をするのが得意ではないようだ。目も合わさないし、必要な事以外は話さないそっぽ向いてツーンとした感じだ。


 その分ヴィルトさんが話し慣れていて、5人を上手く纏める努力をしてくれている様だ。この中では一番年上だし、気を遣ってくれているんだろう。


 馬車の中では、ジュディーがブツクサ文句を言っていた。

「ちょっとあのヘミングスって人無愛想だよね。『ああ』、『分かった』しか返事しないんだから」


 ベーッと舌を出している。貴族の子女らしくないが、こういう所が可愛いと思う。


「もしかしたら、女嫌いなのかもしれないな」

 ヘレナは顎に手をやり考えている。そういえば、ヘレナには話しかけていた……。


「ただ全く目を合わさないのはやりずらいね、身長差が有り過ぎて私なんて視界に入らないし…」

 と、私の言葉にジュディがよしよしして来る、やめれ。



   ※   ※   ※



 コモーナ侯爵はまだ30才になったばかりだと言う。家を継ぐまでは城の文官で、王都のタウンハウスの方に住んでいらっしゃったそうで、前侯爵が亡くなって急遽仕事を辞して家に戻られたそうだ。


 領地の方は前侯爵が仕切っていたので、侯爵を継いでから領地の視察や経営と色々大変な様だが、元々そちらの方に才のある方の様で苦にはならないらしい。


 コモーナ侯爵領は小麦栽培や酪農が盛んだ。夕日の中、見渡す限りの麦の穂のなびく景色と言うのはとても美しい。


 到着したコモーナ侯爵の領主の館は厳つい石の城だった。けれども迎えて下さった若き侯爵は柔らかな雰囲気の優しい物言いをする方だった。


 まず到着後、サロンでお茶を頂きながら話を聞いた。


「おいで下さり感謝しております。現地には視察で行った折、村長から相談を受けました。なにぶん20年以上昔の事で、村長も代替わりし、領主の屋敷の者も全て入れ替わっており当時の事を調べる手掛かりと言うものがあまり無いのです」


「と、言われますと?」

 ヴィルトさんが受ける。


「はい、私も父の意向でずっとこの領地には帰って居なかったのです」


「ずっとですか?」


「ええ、それもおかしな話なのですが、母が身体が弱く王都の医者にかかる方が良いだろうと言われ、8才の時からずっと王都で暮らしています。…ただ…、私にはとても気になっている事が有りまして…」


 コモーナ侯爵は、しばらく言おうか言うまいか逡巡(しゅんじゅん)していた様子だったが、決心した様に口を開く。


「私の母は後妻でして、前妻と父の間には私の腹違いの姉が居たのです。その姉が当時突然病死した事になっているのですが、私の記憶では全くその様な様子はございませんでした」


 なんか、話が嫌な方向へと流れている様な気がする。


「それは、侯爵が王都に行かれてからのお話なのですか?」


「姉が病死したと言われたのは王都に行き、しばらく経ってからでしたが、今思えば王都行きも急に決められ、まるで母と私を急かす様だったのです。母が『何故こんなにも急に旦那様は王都行きを決められたのか』と不思議がっていたのを覚えています」


「その頃、お姉様とは屋敷で話をされたりしていたのですか?」


「ええ、姉とは年が10才離れていましたし、その頃すでに18才で年が離れていた分、とても可愛がられました」


「どんな方でしたか?」


「とても活発な人でした。明るく行動的で、父に対してもはっきりと物言う人で、よく父と事あるごとに衝突をしていました」


「そのご年齢でしたら婚約者もいらっしゃったのではないでしょうか?」


「はい、確かレントル伯爵家の嫡男と婚約していたと思います」


「その方は?」


「姉の病死連絡後、他の方と婚約され結婚されたようです」


「話を戻すのですが、お姉様の病死と、今回の浄化の件が関係あると思われていらっしゃるという事でしょうか?」


「…はい、関係していると思っています」


「それは、何故ですか?」


「…私は、姉が何らかの事故が起こり、夏の別荘で亡くなったのではないかと思っているのです。理由は、姉には他に恋人が居て、夜中に抜け出し逢いに行っていたのを知っているからです」


「子供の頃、それを見たと言われるのですか?」


「ええ、姉が何度も夜中に部屋から抜けだしているのを見ました。同じ棟の並びの部屋でしたので、朝方こっそり窓から入っていたのも知っています。その時、相手の男が窓の下まで送って来ていたので、見ました。姉も私が知っているのに気づいていて、父には言わないようにと口止めされたのです」


「その相手の男とは?」

「当時、家に出入りしていた若い庭師の男です」


「その男は?」


「調べましたが、当時家の領主館に勤めていた者の手がかりは全くと言って良いほど残っていないので分かりません」


「お姉様の侍女は?どちらかの貴族の令嬢でしたのでは?」


「ええ、そちらも調べましたが、実家の子爵家に戻り2年後に自殺しておりました。心の病にかかっていた様です」


「そうですか、何となく背景は分かりました。明日、昼間に現地に向かいたいのですが」


「はい、私もご一緒に向かいます。ヴィラハ村の隣町に別邸が有りますので、明日はそちらにご宿泊下さい」



侯爵が部屋を出てからしばらく、皆物思いに耽っていたが、声がかる。


「君たちどう思う?」

 ヴィルトさんが、私達に話を振った。


「話を聞く限りには、多分、夏の別荘で侯爵のお姉様が亡くなり、超常現象を起こしているって感じですよね」

 とジュディが答える。


「そうだね、何らかの無念を残してるのかな」


 何だかな、気のせいかヘミングスさんの顔色が悪いんですけど…。


「なんだヘミングス、青い顔して幽霊怖いのか?」


「……俺は、そう言うのは苦手だ」


 真顔で言うヘミングスさんに思わず女性3人は目を丸くした。


『『『マジかよ』』』

 今、間違いなく、心の中で3人がハモった。


 こんな大きな身体して、何言ってんだ!

 と、皆の目がそう言っていた。

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