第17話 歴史の授業






「さぁ、やって参りましたヘスターからほど近い草原っ!! 」

「あっ、あの!! 私ギルドに行ったかと思えば突然街の外へ連れ出されて、ちょっと何が何だか分からないのですが……」

「ハハッ……先生、精々覚悟しておくんだな」

「……」

「この辺はクラス2の魔物しかでないから大丈夫でしょ、行ける行ける!! 」

「ランク2でも……結構ヤバいんだけどね……? 」


 僕とロイ、そして担任のキャロル先生を混ぜた僕達三人は学園からここ、ヘスターの周りに広がる草原へとやって来た。


 この草原に生えている雑草は大体僕の腰ほどかそれ以下程度の高さで、見渡しは悪くないが背の低い魔物からの奇襲に合いやすい様な場所になってるらしい。

 この辺りそういう場所しか無いのかと思ったが、水辺は多くの魔物に踏み固められているようで草はほとんど生えていないらしい。

 故に見通しが良く、多くのハンター達は好んであの辺りを戦いの場にしているらしい……と言うのはロイが集めてくれた情報だ。


「はぁ、どうしてこんな事に……」

「さて今日の獲物はどこに居るかな~? 」

「おいギル、向こう側に大きめの影が見えたぞ! 」


 何も水辺を好むのは人だけでは無く、理由はそれぞれ色々あるが魔物も同じだ。

 ロイが見つけた影はイノシシのような生き物で、そいつはこちらに気づく素振りも無く一直線に水へと向かって行った。


「ラッドボアか……真正面に立たなければどうにでもなる相手の筈だ。じゃ、あと頑張れよ!! 」

「分かった、ありがとう」

「えっ? ギルバード君一人を戦わせるんですか!? 」

「アイツの手に負えない強さの魔物の時は俺達はどうしようもないからな、大丈夫だって余裕だよ! 」

「えぇ? でも……」

「じゃあ先生は戦えるのかよ。戦えないんだったらここは大人しく下がっとこうぜ? 」

「そこの木の裏なら多分気付かれないと思うよ」

「りょーかい!! 」


 ロイもキャロル先生も戦闘が得意ではないらしく、木陰に隠れて貰う事にした。


 鼻を鳴らしながら水を美味しそうに飲む獲物に近づく僕の手は、レイピアと呼ぶには太く……ランスと呼ぶには短くて細すぎる、緑色の結晶で作られた剣を掴んでいる。

 普段であれば何の変哲も無い剣とマジックソードで狩りを行うのだが、今日はこの剣の試し斬りも兼ねているので持ってきていない。


 ちなみにフェリエリさん達にプレゼントされた剣は両方素振りをしてみたのだが……紅く大きい剣の方は重すぎる上に長すぎて剣に振り回される形とになってしまい、使用を断念している。

 僕の身体が大きくなるまでの間は使えないだろう。


「それにしてもこれ、どう使うのが正解なのかな……まぁ実際に使ってみれば分かるかな? 」


 ロイが見つけたこのラッドボアと言う魔物は名前の通り、イカした鶏冠を持つイノシシだ。

 何でも食用に牧畜もされているらしく、この世界で売られている肉の何割かがコイツの肉らしい。


「さーて、今日の昼ご飯になって貰うとしますか……!! 」


 僕はそんなラッドボアの斜め後ろから少しずつ距離を詰め、剣を上に構えた。剣が届く位置にまで達すると僕は一気に距離を詰め、思いっきり剣を振り下ろす。

 が、やはり剣の使い方はこうじゃないらしい。ラッドボアは大したダメージを受けていない様子でこちらを向き、怒りと共に地面を叩き付けて雄叫びを上げる。


「だったら……!! 」


 叩きつけが効かないのならと僕が突きの構えを取ると同時に、ラッドボアの寝ていた鶏冠が起きあがり……薄く発光を始めた。


 突進を繰り出したラッドボアだったが、角と化した鶏冠を振り回す等の動きを入れて獲物である僕を叩き斬ろうとして来る。

 薄く光る鶏冠はそれなりの切れ味を持っているらしく、首を振った拍子に周囲の草がいくつか切れている。

 だがこの剣は中々頑丈で、ラッドボアの鶏冠程度ならば軽々と受け止めてくれた。今までの武器だと怪我をしていたかもしれないが、広いナックルガードのお陰でその心配も無い。


 突進を避け後ろに立つと後ろ足が飛んできたが、この程度であれば簡単に避けられる。そしてこの攻撃はラッドボアの隙きとなり、僕はそこを突く事が出来た。


 身体を屈めて一気に近づき、斜めから首と頭に向けて剣を突き刺して離れる。

 剣を刺されたラッドボアは体勢を崩しながらも反撃しようとしてきたが、それもすぐに静かになった。


「よっ、お疲れさん。今日は大物だな! 」


 ラッドボアが静かになるのを確認し、剣を回収していると木陰に隠れていたロイと先生が近付いてきた。


「うん、しばらくは街を出なくて良いかもね」

「とりあえず帰ろうぜ。腹減ったー!! 」

「それでこの子は……一体どうやって持って帰るんですか? 」

「「……あ、どうしよう」」


 デルカで狩りをしていた時はフェリエリさん達が担いでくれていたりしたし、ロイは今まで小型の魔物しか狩ってこなかったので片手で持ち帰ることが出来ていた。

 つまりそこそこ大きい魔物の回収に使う台車等を持っておらず、この大きさの魔物は街まで距離があって持ち運べない。

 だが結局は証明になる鶏冠の一部と肉を少々回収し、残りはそのまま放置する事になった。


「私、来た意味あったんでしょうか……」






 ――――――――――――――――――――






 何てことがあった翌日。


「皆さーん、おはようございまーす。今日は歴史の授業ですよ~! 」


 この教室で授業を受ける生徒は既に全員席に着いており、先生が軽い挨拶と出席を取り終えると授業を始まった。


「さぁ、先日はこの世界の成り立ちについての授業でしたね」


 キャロル先生は黒板の端に昨日のまとめを書き出した。


「今日はその続き、マキシム滅亡から今にいたるまでの世界の歴史をやります!! 」


 今度は黒板の真ん中に絵を描いていく。それはこの世界の地図らしく、それぞれ区切られた所に名前が書かれた。

 我らがスティージ王国、僕はあまり縁の無いコルネ帝国、そして今は無きマキシム。そしてそれぞれの国境が集まる場所に世界樹の名前も書かれるが、人は会うすべを失っているらしい。


 国土面積はコルネ帝国が一番大きく、その次にスティージ王国だ。そして最後にマキシムとなるのだが、国力で言えば今も昔もそれぞれの国は均衡が保てる程度の国力になっていた。

 これだけ人類が繁栄しているのならば戦争の一つや二つで領土が変わりそうな物だが、幸か不幸か魔物による被害のお陰で戦争は起きていないらしい。それ故にこの地図と現在では、マキシムを除いた一切が変わっていない。



 そう、ただマキシム周辺を除いては。



 かの土地は大規模な戦争でもあったのかの様に、いくつもの巨大なクレーターだらけらしいのだ。そんな惨状と今までの授業内容からも察せられる通り、マキシムは遠い昔に消滅している。


 その理由は『魔道具の開発実験中に起きた事故説』や『神隠し説』等、様々な説が唱えられている。

 だが現在は『神の怒りに触れた説』が最有力説とされている。


 だがそれと同時にこんな話もある、『マキシムは魔王に襲われた』……と。


 何でもその魔王とやらは人類を滅ぼすと宣言したらしく、宣言を違えること無く多くの人々を殺して回った。

 マキシム以外の国も被害を受けて応戦したらしいが、何故か主な被害はマキシムに集中していた。


 マキシムだけでなく、世界が滅ぶかと思われたその時。フラッと異世界から二人の“勇者”が現れた。

 彼らが持っていた強大な力をもあって、何とか魔王を討伐……したらしい。だが魔王もただでは倒れず、決戦の地となったマキシムを吹き飛ばしたらしいと言うお伽噺がある。


 だが王国と帝国にはその様な公的な資料は残っておらず、代わりに『酷い災害があった』という記録だけが残っている。

 つまり実際の所は分からず、ただ“マキシムが消滅した”という結果だけが残っている。


 ちなみに先も説明されていた通り、マキシムは技術大国だった。その技術は凄まじく、魔法以上の魔法とも称される技術で世界を引っ張っていた。

 それ故にマキシムの消失は後の世界に大きな影響を与え、文明の後退こそしなかった物の……進化は完全に止まってしまったとの話だ。


「――さぁ、今日の授業はここまでです。お疲れ様でした~!! 」

「「「お疲れ様でした」」」


 マキシムの持つ魔法以上の魔法と称される技術、その一端があの遺跡なのだろう。

 あの遺跡自体はかなり数があるらしいのだが、あの光景を見たのは今の所僕達だけらしい。


 何故僕達があれを見られたのか等、しばらく考えていたが結局答えは出なかった。僕は諦めてご飯を食べることにし、昨日と同じくキャロル先生を誘ったところ……


「いっ、いえ! わっ……私は遠慮しておきます! では!! 」


 と言って足早に去ってしまった。


「遠慮しなくても良いのにな~」

「いやぁ、あれは遠慮じゃないと思うんだが……」





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