第14話 入学式






 この街で長く暮らしている守衛さんことアンディさん。僕は彼に街を案内されていた。王子様の到着を見届けた僕とアンディさんは学園へ向かった。

 この街はかなり広く、一人なら学園まででも迷子になっていたかもしれない。


 アンディさんと別れた僕はそんな事を考えながら控室へ向かった。

 その辺りにはいくつもの部屋が隣接しており、僕と同じで今年入学する子供達が居るようだ。彼らのお付きと思われる使用人達が頻繁に出入りしている。

 自分の部屋はどこなのか若干迷いかけたが、事前に聞いていた通り部屋前にウェインが出ていてくれたお陰で迷うことは無かった。


「お帰りなさいませ、ギルバード様。この街はいかがでしたか? 」

「ただいま、楽しかったよ!! 」

「それはよろしゅうございました。休む暇も無く申し訳ないのですが、こちらの服に着替えて頂けますか? 」

「ん、分かった」






 ――――――――――――――――――――






 僕が渡された服を着てしばらくすると、学園の職員さんが丁度良いタイミンで訪れた。

 彼はウェインや別室で準備していた父さんと供に、僕達を講堂のような場所へと案内してくれた。どうやら式はここで行われるらしい。


「こちらでお待ち下さい」

「おー、流石に結構人が集まってるなぁ」


 父さんが思わずそう思う程に、ここに集まった人の数は多かった。

 その中でも最前列は更に固まっていた。恐らくアンドレイ第二王子が居るのだろう。

 一瞬人が途切れ、こちらから見えたアンドレイ第二王子口々に質問されている様だ。彼はそれらを邪険にすることなく、笑顔で一つ一つ丁寧に返答をしている。


「ウェイド様はこちらに……」

「おう、分かった。じゃ、俺達は別席に行くから。ちゃんと仲良くするんだぞ」

「はーい」


 そんな様子を眺めていると、父さん達は少し離れた場所にある来賓席の方へと場所へ行った。

 再び辺りを見回すが、やはり大半は王子様に取り入りたくて必死な子が多いようでほとんど誰も居ない。


 だがそれでも、いくつかのグループは取り入ろうとしない。

 そんな中で、僕の目には取り巻きを連れた水色の髪色をした女の子が目に入った。

 彼女の顔には自信満々な表情を浮かべて腕を組み、大人しく誰かが声をかけるのを待っている様だが……その様子は威圧感を醸し出し、誰も近付けずに居た。


 その事に取り巻きは慌てて事態をどうにかしようとしているが、どうにも出来ていない。ちょっと面白がりながら彼女達を眺めていると、僕の方に一人の男の子が笑顔で近付いて来た。


「彼女はロベルト・ジェシカ。ロベルト家の一人娘で、かなりのじゃじゃ馬って噂だ。ずっと眺めてご執心みたいだが……一目惚れでもしたか? 」

「……誰? 」

「おっとそんな不審者を見る目で俺を見ないでくれよ。俺の名前はロイ・ブラン、絶対にお前の敵にだけはなりたくないと思っている男だ!! 以後よろしく」


 制服を少し着崩した青い髪の男の子が声をかけ、手を差し伸べてきた。

 その手を握るべきか握らざるべきか考えると同時に、何で僕の名前を知ってるんだ? という疑問が浮かぶ。

 やはりここは何もしない方が良いという結論に至った僕は、一度伸ばしかけた手を下げた。


「まぁまぁ、そんなに警戒するなよ。お前は王子と並ぶ話題人物だから? 名前くらい嫌でも耳に入って来るんだよ」

「はぁ……」


 ――何で話題になってるんだ?


 僕がそう聞く前に、王子様達の居る方の壇上から声が聞こえてきた。

 その声により大多数の子供は静かになった。


「これより入学式を始めます」






 __________







 式は何の滞りもなく進み、無事にアンドレイ第二王子のスピーチまで終わった。

 次の『校長代理のスピーチ』で式は終了だ。何でも校長は止む終えない事情により式にこれないらしく、その代理は今壇上で話をしているお爺ちゃん先生に任されたらしいのだが……そのお爺ちゃん先生の話は恐ろしく長かった。


 僕は何度も目が落ち眠りかけたが、何とかそれに耐えて前を向いていた。周りを見ると、ウトウトしている子がチラホラいる。だが第二王子は顔色一つ変えず、ずっとお爺ちゃん教員を見ている。その一方で、ロベルト・ジェシカは半分ほど寝ているらしい。さっきから取り巻きの子達が必死に起こそうとしているが……一向に起きる気配はない。


 とても長く……いつまでも終わらないのではないかと思うような式だっただ、それはついに終りを迎えた。

 お爺ちゃん先生が降り、別の人が壇上へと登ったのだ。


「……これにて入学式を終了します、長い時間お疲れ様でした。生徒以外の皆さん方はここでお帰り頂きますので、生徒の皆さんは別れの挨拶を済ませて下さい」


 この学園は寮生で、長期休暇以外の時は基本的にこの街“ヘスター”から離れることは出来ないらしい。

 だがそれでも、接触を禁止されている訳じゃないから会おうと思えば会える。未だに囲まれているアンドレイ第二王子を横目に、僕は父さん達の元にたどり着いた。


「よぉ、ギル。ここでは上手くやって行けそうか? 」

「まだ何も分かんないけど……まぁ、やれるだけやってみるよ」

「そりゃそうだよな、ガハハ!! まぁなんだ、困ったことがあればハンター協会を頼れよ。ここの奴らもきっと力になってくれるだろうからよ」


 父さんは相変わらず豪快に笑いながらそう言い、無造作に僕の頭を撫でてくれた。これも迷惑だが嬉しく、しばらくの間やって貰えないと思うと寂しい物だ。


「そんじゃ、次に会うのは当分先だ。……こっちでも頑張れよ!! 」

「うん!! 」

「それでは失礼します、ギルバード様。またお会いしましょう」

「ウェインも頑張ってね、父さんは母さんに迷惑をかけない様に!! 」

「……善処する」


 ――“頑張れ”か……次会う時に成長を驚いて貰う為に頑張らなきゃな。


 僕は父さん達の背中を眺めながら、そんな事を思った。





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