第12話 古代遺跡






「ハッ!? ここは……」


 父さんを見て突然倒れたカルティアさんだったが、彼はほんの数分程度で目を覚ます事が出来た。

 身体を起こすと仲間の心配もよそに、直ぐに辺りを見回し始めた。そして父さんを見つけると……何故か全力で土下座を繰り出した。


「ウチのバカが申し訳ありませんでしたーッ!! どうか……どうか命だけは! 何卒御慈悲ォォォオオッ!!! 」

「おいカルティア、お前うるせぇよ。あとバカって何だよバカって」

「あなたのことですよロメオォ……いつかはやらかすと思っていたが、よりによってぶっちぎりにヤバい噂しか無いデルカ領主を襲いかけたお前のことを言ってるんだよ!!! 」

「ンだとこの野郎!!! 」


 カルティアさんとロメオさんは急に互いを罵倒し合い始めた。

 それを止めようとするも、盗賊団員達はどうにも出来ずに居た。だがどこか呆れたような顔をしている事から、この言い争いが日常の光景なのだと分かる。


「そんなことより肉食おうぜ、肉!!! 」


 そんな彼らに、父さんは晩ごはんの肉を掲げながらそう言った。

 彼らもお腹が空いていたようで、父さんの狩ってきた肉を夢中で食べていた。


 お腹の落ち着いた頃になるとカルティアさんも落ち着きを取り戻し、ロメオさんと共に真面目な顔で父さんに近付いた。


「先程は失礼致しました、クリフ子爵様。お礼と言っては何ですが……」

「飯と金のお礼に、俺達のアジトにご招待だぜ!! ここで野営するよりは良いだろ? それにアンタ達に見て欲しい物もあるしな」






 ――――――――――――――――――――






 そうしてギルバード達はすっかり暗くなった森を歩き始めた。

 道中でロメオはカルティアに説教されていたようで、顔が真っ青になっていたりしたが無事に到着する事が出来た。


 彼らのアジトはちょっとした洞窟を木で補強しただけの簡素な作りだったが、どこも丁寧に掃除されていて綺麗だった。そしてそれと同時に、その洞窟では多くの人々が暮らしていた。

 こうして案内する裏をカルティアに聞いたウェインだが、帰ってきた答えは彼らの成り立ちにまつわる話だった。


「俺達は生きる為にあのクソロベルト伯爵の元を離れて近くの森を彷徨さまよい、ここを見つけた。それの最初の内は良かったんだがなぁ……次第に食いもんが無くなって行ったんだよ。かと言って、俺達に森で暮らす知識も無いしな。そうした人間がやる事っつったら一つだろ? 」

「……私達は盗賊行為をする事にしたのです。それも調子が良かったのは最初だけ……デルカ領でその領主であるあなたに見つかった以上、もうそうした活動は出来ないでしょう」

「悪いのは俺らです!! 全く関係の無いあいつらだけは……何とか助けてやって下さい、お願いします!!! 」


 ギルバード達を襲おうとした四人は皆頭を下げ、口々に同じような事を言った。そんな彼らを父さんは腕を組んだまま目を瞑り、唸りながら眺める。

 そうしてしばらく経つと、父さんはウェインを呼んだ。


「ウェイン、こいつらの処遇は任せた」

「承知しました」


 俯いたまま表情を強張らせる四人。

 そんな彼らに、ウェインは僅かに微笑みながら話を始める。


「我々はあなた方を雇う事にいたします」

「「「なっ……!? 」」」

「丁度この辺りの防衛が手隙でしたので、砦と人員が欲しかった所なのですよ」


 彼らは反射的に顔を上げ、口々に疑問の声を上げようとした。何故ならこれは、実質“クリフ家に雇われろ”と言っているような物だからだ。

 だがウェインはそれを止める


「理由は先述べた通りです。我々は直接的に被害を受けていませんから、この程度の処罰が妥当でしょう」

「「「あっ、ありがとうございます!! 」」」


 盗賊を続けていつか討伐されるか、子爵家の支援を受けるか。すぐにでも討伐されかねないこの状況下でこの二つを並べられれば、大抵の者は後者を選ぶだろう。

 そして実際に彼らは後者の道を選んだ。






 ――――――――――――――――――――






 こうしてクリフ家に仕えることにしたロメオさん達だったが、彼らは少しすると本来の目的である拠点案内を再開した。

 洞窟の入り口から居住区へ入り、少し入り組んだ道を更に進むと……


「ここがアンタ達に見せたかった場所だ。すげぇだろ? 大半の物の使い方が分かんねぇんだぜ!! ハッハッハッハ!!! 」

「ここはマキシムの作った古代遺跡のようなのですが……まぁロメオの言う通り、大半の装置が何に使われるのかさっぱりなのです。まぁ幸いにも水生成装置らしき物を使う事ができ、何とか今日まで生き延びられたんですが……」


 洞窟を構成している土や石が、途中から一気に金属へと変わったのだ。その光景はこの世界に似つかわしくない、まるでSFに出てくる施設のように見えた。

 沢山並んでいる使い道の分からない装置にかれ、僕はフラフラと歩いていった。


「あっ、おい坊主戻れ!! そっちは……」

「え? 」

「あちゃー……こいつ何を言ってるのか分からない上に止まらないんだよな……」


 突然の大声に振り返りながら足を下ろすと、どこからとも無くホログラムが現れた。

 ……ロメオさんは“何を言っているのか分からない”と言っていたが、僕には分かる。


『――私はここを訪れた帝国、そして王国の子孫に伝言を残す。時間が無い為、結論から言わせて貰う。この世界の神々は我々を“実験道具”としてしか見ていない。だからこそ丁寧に扱いはするが、それと同時に……我らに破壊と混沌を持ってして滅ぼそうとする女神が存在する。神の中でも特に彼女の力は強大だ、絶対に戦おう等と思わないでくれ。戦おうと思った者は我々……“マキシム”と同じ道を辿ることになる。……だがもし彼女か、その手の者と戦うことになったら。ヘスターに行け……彼女……は…………手を…………』


 ホログラムはここで途切れた。

 最後の方はノイズが多くて聞き取れなかったが、どうやらヘスターに何かあるらしい。


 ――あれ? でもここって……


「……ヘスターと言うと、ギルがこれから通うあのヘスターだよな? 」

「えぇ、由緒ある学園で古くから存在していると言われています。が、マキシムですか……これは一体……」


 その場に居た僕達は唖然とし、元盗賊団の面々に心配されたのは余談だ。

 後にこの事は父さんによって箝口令が下され、元盗賊達は監視のためにもクリフ家の家臣となる事が決まった。

 その箝口令は僕とて例外では無く、この事を絶対に誰にも言わないように言い聞かされた。






 ――――――――――――――――――――






 なんて事があった翌日、僕達は元盗賊団カロの面々に場所を貸してもらい、洞窟の中で安全に一晩を過ごす事が出来た。


 そんな彼らとも別れ、僕達はまたヘスターに向けて移動を始めた。

 しばらくは鬱蒼とした森が続いていたが、しばらくすると森が途切れた。その代わりに現れたのは広い草原と大きな城壁だ。


「おい、ギル!! あれが見えるか? あれが今年からお前の入る学園のある街……“ヘスター”だ!! 」





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