第22話 苺先生4、スマホを没収!?

「はい。授業を始めます。教科書を開いてください。」

 苺は、雑用ことオールマイティーな教師として、普通に授業を始めようとしていた。

「こら! そこ! スマホをいじってるんじゃありません! 没収します!」

「ええー!? そんな勘弁して下さいよ!?」

「ダメです! 放課後、職員室に取りに来なさい!」

 生徒の授業中のスマホには、名前と違って厳しい苺先生は授業に対する姿勢は、まっとうな女教師であった。

「あ、メールだ。」

 そんな苺も教師であるが人間なので、授業中に自分のスマホが鳴ることもある。

「苺ちゃんもスマホを没収だ!」

「え? ええー!? なんで!?」

「そうだ! 教師でも授業中のスマホは没収されるべきだ!」

「そ、そんな!? 私、教師なんですけど!?」

「授業中のスマホに教師も生徒もあるものか!」

「ええー!?」

「放課後、教室にスマホを取りに来なさい!」

 結局、スマホを生徒に没収される苺であった。

「どうして私がこんな目に!? 私は教師なのに!? ウルウル。」 

 教師なのに生徒以下。そんな女教師の物語である。


「グオオオオー!?」

 苺は、教室でもがき苦しんでいる生徒の1年生の大蛇を見つける。大蛇は、ライト文芸部の部員である。

「どうしたの? 頭でも痛いの?」

 苺は、自分が頼りなくて困ることが多いので、他人の痛みや苦しみを感じることができる。他人の悩みに寄り添える、今時、珍しい教師である。

「なんだ。苺ちゃんか。相談しようと思えません。」

「あのね。」

 大蛇は、苺ちゃんが教師なのに生徒以下なのを知っている。大蛇は生徒だが、今時の教師には何も期待していない。

「まあまあ、これでも私は教師だし、何でも相談してよ。」

「実は・・・私は真面目キャラ過ぎると思うんです。なぜか小田急という名字や、大蛇というキラキラネームをもっと利用できると思うんですが。名前と真面目キャラのギャップがウケなかったらどうしましょう!? 教えてください!?」

 大蛇の悩み事は、ライト文芸部の部員なのに、ギャップしか個性がないことだった。

「なんだ、そんなこと。つまらないし、くだらないわ。小さな悩みね。」

 苺は、大蛇の悩みは10代の青春の悩み事だとバカにする。

「なに!? 私が悩んでいる原因は、苺ちゃんがドジっ子教師だから、生徒の私が真面目キャラで会話が回るように苦労してるんだぞ!苺ちゃんは教師なんだから、もっとしっかりして下さい!」

「私!? 私が原因なの!?」

 大蛇の悩み事の原因は、関係ないように見えた苺だった。予想外の展開に驚く苺。

「苺ちゃん! スマホを没収されてないで、ちゃんと教師をしてください! いつまでも生徒に笑われていたら、生徒の私が真面目キャラから進化できないじゃないですか! 本当は鉄道オタクや蛇の採集が趣味のキャラクターなんですよ! 私は! 苺ちゃんが頼りないから、真面目キャラの女子高生役を演じています! 私の個性が死んじゃってます! 返して下さい! 私の青春を!」

「す、すいません。」

 申し訳なくて、ただただ謝る苺であった。

「どうしてくれるのよ!? 苺ちゃん!?」

「直ぐに対処法を考えます!? さようなら!?」

 大蛇に追い詰められた苺は慌てて走って逃げるのだった。


「みんな!? どうしよう!? 大変なの!?」

 苺は、いつものように慌てて、ライト文芸部の部室に駆け込んだ。

「どうした? 苺ちゃん。」

 天が、いつものように尋ねる。天はライト文芸部の部長である。

「いつものように相談事ですね。聞いてあげますよ。ニコッ。」

 笑が、苺が駆け込んでくるのは、いつものパターンだと言っている。

「今度は大蛇の番ね。」

 麗は、今度の苺の相談事は、部室にいない大蛇だと予想する。

「実は、大蛇が真面目過ぎて、個性が死んでいると悩んでいるんだ。クスン。」

 苺は、悲しくて思わず涙ぐむ。

「何だって!?」

「きっと苺ちゃんが原因だよ。」

「そうそう。苺ちゃんは不幸をばら撒く女教師だもんね。」

 ライト文芸部の部員たちも、全ての問題の原因は苺だと言っている。

「ご安心して下さい。いざという時は私が大蛇よりも真面目になります! 大蛇よりも真面目に優等生で生徒会長も務めてみせます! カッカッカ!」

「そうだわ! 私にはカロヤカさんがいたんだわ!」

 カロヤカさんは、才色兼備、文武両道、五里霧中、粉飾決算、何でもできるスーパーな女子高生である。

「ありがとう! カロヤカさん!」

「カロヤカにお任せあれ。」

 苺の悩み事は消えた。悩み込んでいる大蛇より、カロヤカさんの方が頼りになるのだ。

「はい! みなさん! 今日の和菓子は、甘くておいしいゴマ団子ですよ! もちろんお茶もありますよ! エヘッ。」

 本物の幽霊おみっちゃんは、着物を着た純和風の幽霊である。

「今回の悩み主は、ライト文芸部の部員の大蛇なので、彼女は、相談者の苺がライト文芸部に相談に来た時にはいない。すごいな。テンプレート型。1話が10分で完成する。テンプレート型を量産すれば、どんなジャンルも簡単に書けてしまう。あ、私は食べたら帰るからね。」

 幽子は、茶菓子とお茶をこよなく愛する。

「良かった。無事に大蛇の悩みを解決できたわ。これで教師としての面目が保てるわ。キャア。」

 苺が苺ちゃんでも教師をやっていけるのには理由があった。苺には、ライト文芸部という頼もしい仲間がいるからだった。


「お待たせ!」

 悩みの解決方法を持って、苺が大蛇の元へ帰って来た。

「あなたの悩みを、私が解決してあげよう!」

「苺ちゃんが~?」

 大蛇は、苺に自分の悩みが解決できるとは思わないので、疑いの眼差しを向ける。

「耳を貸して。」

 苺は、手招きで大蛇に耳を近づけるように指示する。

「ほうほう。」

 大蛇は、半信半疑で苺に耳を傾ける。

「いつまでもメソメソ悩んでいろ。あなたの代わりはいくらでもいる。」

 苺は、予想外に低い声で大蛇を脅迫する。実際に大蛇が悩んで腐っている間に、カロヤカさんが誰よりも真面目になるのである。

「ゾクッと!?」

 大蛇は、苺の言葉と声を聞いて、背筋がゾクっと寒気を感じる。

「苺、食べる? 美味しいよ。」

 苺は、手に苺を持っていて、大蛇に勧める。

「苺の共食いですー!?」

 大蛇は、苺に恐怖を感じ、思わず走って、その場から逃げ出す。

「そうだ! 私が悩んで動かない間に、誰かが私の代わりに真面目になってしまう! 悩んで引きこもっている場合じゃないわ! 私は、もっと真面目に生きるんだ!」

 大蛇は、悩んでいるのがバカバカしくなった。悩んで動けなくなるより、もっと真面目に生きようという答えを出して、頭の中がスッキリとした。 

「青春っていいな、私にも若い頃があったな。いいな。」

 麗の悩み事は、見事に苺が解決した。

「三十路で独身はヤバイな。売れ残りだ。誰か私の悩みを解決してくれ!?」

 苺の悩みは、結婚するまで解決されることはない。

 つづく。


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