勿忘草の散る頃に。
水鳴咳 辟(みなせ へき)
1 そよ風とセーラー服
「初めまして、」
高校3年の春。転校生として彼女はこの学校にやってきた。
中々ない、それもこんな時期の転校生に、教室は大いにざわついた。
まだ真新しいセーラー服からすらりと伸びた青白い手足。胸上で切りそろえられた、絹のように滑らかな黒髪。桜色の頬と唇に、青紫の瞳。
田舎なこの町に似つかない可憐で容姿を持った彼女は、瞬く間に学校中の話題の中心となるだろう。
学校と言ってもそこまで人も多くない非都会なコミュニティであるから、事実1日もしないうちに彼女の存在は全校に広まりを見せたのである。
可憐な雰囲気とは裏腹に、彼女には何処と無く浮いているような儚い印象を受ける。病的なまでの肌の青白さのせいだろうか。漆黒の髪が更にその白さを際立たせて、神々しい印象すら持たせる。
「最近まで持病で入院していたんだがな、回復したので今年から学校に通えるようになったそうだ。じゃあ転校生は窓側の一番後ろの席だな。おい、お前色々教えてやれよ」
「…はっ?」
「は?じゃないだろ、何だ?転校生に見惚れてたのか」
担任の茶化す言葉にクラスがドッと沸く。
しまった。思考を巡らせていたらいつの間にか自己紹介が終わっていたらしい。転校生にまでクスクスと笑われてしまっている。
窓側の一番後ろ。彼女は僕の隣の席だ。
コツコツと小さな音を立てながら彼女はこちらへ向かってきた。
カタン。軽い音を立てて椅子は新たな使用者を迎え入れた。
「よろしく、お願いしますね」
彼女はそう言いくしゃりと微笑む。それは僕にはどこか憂いを帯びた笑顔に感じられた。
隣に座った彼女からふわりと花の香りが香る。
心地良い春の風が僕と彼女の間を、さらさらと通り抜けた。
これが僕の、僕たちの非日常な生活の幕開けだった。
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