パーティーの賢者(♂)が妊娠した

@dekai3

第1話 君は馬鹿か?

 賢者(♂)はこちらの顔を見ながら深く溜め息を吐き、やれやれと首を左右に振ってから


「君は馬鹿か?男にも前立腺小室という子宮があるのは当前だろう?」


 と、右手の中指で眼鏡のブリッジを押さえ、左手で大きくなった自分の下腹部を愛おしそうに撫でながらそう返した。




◆ ◆ ◆




「おお、ゆうしゃよ、しんでしまうとはなさけない」


 王様の前で意識が戻り、自分はまた死んで生き返ったのだと気付く。

 とりあえず頭を垂れて王様のありがたいお説教を聞き流し、所持金から捜索費という事でいくばかのGを大臣に渡す。

 今回は魔物の洞窟を探索中だったので捜索部隊の兵士達にも少なく無い被害が出ているだろう。聞き流しはしたが王様が自分に説教をする気持ちも分かる。


「こんどはしっかりとするのじゃぞ、ゆうしゃよ」

「努力いたします」


 王様から言外に『お前のせいだ』と言われ、説教は終わる。

 それには曖昧な言葉で答え、王の間を後にする。


ギギィ バタン


 まただ。また失敗してしまった。

 これで自分が死ぬのは三度目であり、つまりのも三度目だ。

 精霊の加護のある自分はこうして王の元で生き帰る事が出来るが、一緒に居た仲間達は…


バタバタバタバタバタ


「勇者殿!ご無事でしたか!?」

「ええ…」


 城の廊下を歩いていると兵士長が駆け寄ってきた。

 死んでいるので無事ではないが、こうして自分だけ無傷で生き返ったのは無事と言ってもいいのかもしれない。


「良かったですな!いくら精霊様のご加護があるとはいえ本当に大丈夫なのか心配しましたぞ!!」


 兵士長はそう言いながらこっちの背中をバンバン叩いてくる。

 最初の時も二度目の時も、兵士長はこうして背中をバンバンと叩いて自分がちゃんと生きている事を確認してくれた。

 魔法使い(♀)や僧侶(♀)はデリカシーが無いと陰口を言っていたが、兵士長のこういう変わらない所は今の自分にはありがたい。

 今回の全滅で、もう自分の仲間は全員死んでしまったのだから。


「賢者(♂)殿も勇者殿が生き返るのを待っていたのですぞ!」


 え?


「い、今、なんて…?」


 賢者(♂)が待っていた?


「おや、王から説明が無かったのですかな?今回は勇者殿だけでなく、賢者(♂)殿も魔物の洞窟から救出されたのですぞ」

「賢者(♂)が!?」

「ええ、状態異常とケガは残っておりますが、暫く休めば治る程度だと伺っております」


 賢者(♂)が生きているだって?

 賢者(♂)旅の一番最初から付いて来てくれた仲間で、一回目の時は別パーティ、二回目の時は学院の手伝いで一時的にパーティを抜けていたから全滅から助かったんだけど、まさか今回も生き残ってくれるなんて。

 こんな大事な事を言っていたのなら、王様の説教をちゃんと聞くべきだったかなと少し反省する。


「それで、賢者(♂)は今はどこに!?」

「治療所の個室で休まれているそうですな。なんでも捜索隊が来るまでの間をずっと回復魔法を使って耐えていたとのことで、まずは魔力の回復が必要だとか…」

「兵士長、ありがとう!」


 兵士長の言葉を最後まで聞かず、城の治療所に向けて走り出す。


「勇者殿!頑張ってくだされ!応援していますぞ~!!」


 兵士長は会話を途中で切り上げたことに怒らず、走り出した自分の背中に声をかけてくれた。

 本当にあの人は良い人だ。今度ちゃんとしたお礼をしよう。とりあえず今は賢者(♂)の事を確認しないと。




バァン


「賢者(♂)!無事か!!」

「病室のドアは静かに開けるべきだぞ、勇者」


 室内のベッドの上で枕側の壁に背を預けるように座っている賢者(♂)がいつもと変わらない様子で小言を言う。

 間違いなく賢者(♂)だ。何か言う時に最初に小言を言うのは間違いなく賢者(♂)だ。


「良かった、生きていてくれたんだな!」

「君の仲間はもう僕だけだったからな。魔王を倒すためにもこんな所で死ぬ訳には行かない」


 そう、最初は七人いた仲間も二度目の全滅で賢者(♂)を残すのみとなったのだ。

 だから今回は特に気を付けていたのだけど、まさかあんな魔物が出るなんて…

 と、そこで賢者(♂)の腹部に山が出来ているのに気付く。中に布団でも詰めているのだろうか。


「ん、ああ、これか?これは子供だ。産もうと思っている」


 賢者(♂)はそう言ってシーツを捲って自らの腹部を晒す。

 そこには丸く膨らんだ賢者(♂)の下腹部があり、下の方はギャランドゥで覆われている。


「……は?」


 今、なんて?産む?


「君が死んでから僕は魔物に襲われて妊娠してしまったんだ」


 魔物に襲われて妊娠。

 確かに魔物が人間を襲って子供を産ませたり子供を産む事は聞いた事あるが、男が妊娠って。というかあの時の魔物ってどう見ても獣じゃなかった?


「いや、男は妊娠しないでしょ」


 それは本当に魔物の子供なのかとか、単に腹に何か詰まっているだけんなんじゃないのかとか、幻覚を見せられているんじゃないかとかも考えたが、真っ先にそれが口から出た。

 普通に考えたらそうだろう。妊娠するのは女で男は妊娠しない。まさか賢者(♂)がこんなバカな事を言い出すなんて。

 しかし、賢者(♂)はこちらの顔を見ながら深く溜め息を吐き、やれやれと首を左右に振ってから


「君は馬鹿か?男にも前立腺小室という子宮があるのは当前だろう?」


 と、右手の中指で眼鏡のブリッジを押さえ、左手で大きくなった自分の下腹部を愛おしそうに撫でながらそう返した。

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