第11話 もっと知りたい
「なあ、ルイは本当に血を吸わねえのか?」
歩くのを一旦やめて休憩していると、ライカが突然こう切り出した。
「…吸わない、わたしは血をほしいと思う衝動がないの。他の吸血鬼たちと違って」
「他の吸血鬼って…たとえばどんなヤツがいるんだ?おれが見たことあるのは、みんな邪悪な雰囲気をまとってたが…ルイみたいなやつもいるのか?」
すまない、色々質問して、とライカが謝った。ルイは微笑んだ。
するとライカもそんなルイを見て微笑む。目があってしばらくふたりは見つめ合っていた。
「いない、とは断定できないけど。けどね、吸血鬼はみんな邪悪だよ。わたしも本当はそうかもしれない」
「本当は、ってどういう…」
「わたしはね、昔のことを覚えていないの。だから自分がどうしてこんな吸血鬼なのかわからないし、どこから来たのかも覚えていないの」
朝からこんな重たい話をするなんて思ってもいなかった。
時刻は6時を回り、サライの街に人々の声が響き始めた。
「故郷を、覚えていないのか」
「うん。だけどわたしの本能がここに連れてきてあなたと出会わせてくれたの。いまはそれでいい」
「帰りたい、とは思わないか?」
それはあなたにも聞きたい、とルイは思ったが言葉を飲み込んだ。
わたしのために家族や身分を捨てたライカに向けていい言葉ではない。
「わたしは思わないけど、わたしの本能は思ってるみたい。だからあなたを探しにリーウェントを訪れた」
「ちょっと待て…どういうことだ?」
ライカは考えるそぶりを見せてしばらく黙り込んだ。
何を考えているのかはなんとなく察したが、ライカ自身に整理させたほうがいいだろうと判断した。
「…ルイは血を吸わない。だけど昨日は吸血鬼に襲われてこどもたちが亡くなった。ということは…ルイ以外の吸血鬼がリーウェントに侵入したってことになるのか?」
ライカはまるで探偵のように顎に手をあて、つらつらと述べている。
「そっか、それをまだ話してなかったね。…いたよ、わたしを合わせて4匹の吸血鬼が川のほとりに。そこでほかの3匹がこどもたちを襲った、わたしは黙って見ていることしかできなかった。止められなかったの」
ライカは目を丸くしてルイと目を合わせた。
「それがこどもたちを襲った邪悪な吸血鬼たちか…ルイはそいつらとどうして同行を?」
止められなかった、の部分が聞こえていなかったかのようにライカは別の質問をした。
ルイはライカの優しさにすぐさま気がついて涙目になった。
「彼らがリーウェントに向かう予定を立てていたから、そこに混ぜてもらって。リーウェントは鉄壁だから、彼らも吸血なんかしないだろうって思ってた…けど違った。そこには川があったから。河川敷にこどもたちがいた。
そこは国境だから、守りが浅い。彼らはそれを知りつつ、襲ったの」
ルイはまた昨日の光景を思い出して暗い気持ちになった。
「彼らがリーウェントを諦めたら、わたしは離脱して侵入しよう、って計画だった。わたしなら人間を襲わずにあなたを探せるから。十字架も効かないし、吸血鬼だとばれることもないかなって甘いこと考えてた」
ライカは黙ってルイの話を聞いていた。ルイが涙目になっていることも、昨日の光景を思い出していることも全て気づいたが知らないふりをした。
その方がルイを傷つけないで済む。
「大変な思いをして、おれを探しにきたのか、そうだったのか…ルイ」
ライカはルイを軽く抱きしめて背中をさすった。今ここで彼女からその話を聞けてよかったと思った。
「…朝からごめんね」
「いや、いずれ聞こうと思ってたことだ。おれの方こそすまない」
ふたりは目が合うと、どちらからともなく笑った。お互い様だ、と。
「おれはもっと、きみのことが知りたい」
ライカがルイの手を握りながら言った。
「……だから、おれと答えを探しに行こう」
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