第30話
長年ピクリとも動かなかった口角が吊り上がる感覚を覚える。
それは目の前に立ち塞がる一人の少女の見せる不死身のようなしぶとさ、そしてその指揮に対してだ。
兜の外れた少女は、見た目こそ華奢で雪のように白い髪と肌を持つが、その心は闘争を楽しみ金剛のような硬さを持つ。
我が前に立ち塞がるその姿は生前幾度として対峙してきた敵の中でも選りすぐりのものだろう。
我が氷花の一刀を受け、気を乱しはしたがそれでもなお戦い続けようと立ち塞がるその意気、素晴らしいおなごよ。
まるでやんちゃだった頃の若を見ているようだ。
どれ、おなごに免じてちと本気を見せようか。
俺の挑発に乗ったのかその瞬間、雪月家来が帯刀していた脇差を抜き、右手に持った脇差を頭上へ左手に持った太刀を正面に構える。
「うわぁ、二刀流かよ防げるかねぇ…………」
「そんな情報聞いてないぞ!?」
「二刀流かっこいいなぁ……黒猫丸、白猫丸も探し出して二刀流してみようか」
雪月家来の二刀流にそれぞれ反応をしていると兜の奥に揺らめく瞳の光がより一層光度を増し、ゆらりと雪月家来の身体が揺らめいたと思うとそれとほぼ同時に目の前に雪月家来が現れる。
「ヴオオアア!!」
「食らうか!!」
なんとか反応できたアキは太刀を大盾で、脇差を左手の盾で防ぎそのまま武器を弾き飛ばし隙を作り出す。
「エスト!!」
「はい!!『トライフレアアロー』!!」
アキが合図をすると準備万端で待機していたエストが杖の先に炎の矢を三つ作り出し、甲子園のピッチャー並の速度で胴ががら空きの雪月家来に吸い込まれ━━
━━蒸気を上げながら雪月家来の胴体が溶ける。
「グオォォ、グヴオオアア!!」
「効いてるっぽいな、隙が出来次第どんどんぶち込んでくれ!!」
「は、はい!」
「俺たちを「忘れてもらっては」
「「困るな!!」」
その声と共にシャケとミーがアキの脇を抜け装甲の薄くなった部位に向けて先程同様の攻撃を入れる。
━━バギャッ
その瞬間、負荷に耐えられなくなった同鎧が悲鳴をあげながら砕け散り、二人の攻撃が雪月家来の生身に直撃する。
「グォアァァ!!」
二人の攻撃をモロに受けた雪月家来は甲冑の奥の顔を歪ませる。
「やったぜ、やっと攻撃らしい攻撃が入った」
「お前ら早く退け!!」
ようやく雪月家来に攻撃が入った事にシャケ達が喜んでいると、雪月家来は苦しみながらも鋭く研ぎ澄まされた太刀筋で二人の腕を的確に斬り飛ばす。
「いっだぁ!?」
「ぐっ、参ったな」
腕を飛ばされた二人は痛みを感つつそれでも笑いながら雪月家来から距離をとる。
「まだ俺腕を治るほどの回復魔法使えねぇんだけど……これからどうすんのこれ」
「腕はかなりの時間をおきゃ勝手に治る、取り敢えず邪魔にならないよう下がっとけ。後はアキの防御を頼りに全員でチクチクと削る」
ムイスラはシャケに淡々と自然治癒について説明するとアイテムボックスからナイフを複数本取り出し構える。
「アキ、あと残ってんのは後衛ぐらいしかいねぇから前は頼んだ」
「お、おう」
…………閃いた、今とてもやってはいけないことを閃いてしまった。
正直通じるかわからないが試したら面白そうなものが。
「アキ?とうした?」
「ムイスラ、さっきのホット何とかくれ」
「わかった」
ムイスラは頭に?を浮かべながらホットホッターホッテストを投げて渡してくる。
よし、これを使って…………くくくくっ、上手くいきゃ楽しいことになりそうだな。
ホットホッターホッテストを握り締めたアキはニヤニヤと不敵な笑みを浮かべると、大盾をアイテムボックスにしまう。
「盾二刀流!そいっ!」
俺はテンションを上げながら外した大盾の変わりに亡国の盾を装備する。
「ヴオオアア!!」
装備すると同時に立ち直った雪月家来が上段から二本の刀を振り下ろす。
それをアキは左の盾でその攻撃を受け止めるとホットホッターホッテストを口に含み、それを雪月家来に向かって吹き付けた。
「グゥ?!」
ホットホッターホッテストの飛沫が雪月家来に到達すると雪月家来は短く唸り、その揺らめく瞳をより一層不安定に揺らす。
「これは効いてるのかねぇ?おっと」
効果があるのか試すために吹き付ける素振りを見せると雪月家来は腕目掛け切りつけながら素早く後ろへ飛び退く。
効果はありそうだな、腕斬られたけど。
それじゃあおかしなBOSS後略でもしてやりましょうかね。
矢次に頭上を飛んでいくエストの魔法やタブリンの矢、ムイスラのナイフをぼんやりと眺めながらこれから起こるであろう事に背筋がゾクゾクとする感覚を覚える。
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