第16話

長時間に及ぶTPO講座を耐えきったアキは膨大な量の情報に頭痛を覚える。


「うぅ、頭痛い…………」

「これで基礎くらいは覚えただろ」


頭痛に頭を押さえるアキにおっちゃんは腕を組みながら何やら達成感に浸かっていた。


「プレイヤーキルは?」

「他者もしくは地図から見れるプレイヤーアイコンが赤に染っていき、それが濃ければ濃いほど大人数もしくは大ダメージを与えている。だよな?」

「よろしい合格だ、それが素材分のゴールドだ。そろそろ装備を買うことをおすすめするぞ」

「あいよ」


俺はおっちゃんからゴールドの入った袋を受け取り、それが虚空へ消えていくのを見送るとおっちゃんの店をあとにしたのだった。




~~~




━━鍛冶屋と、武具屋どっちがいいのだろうか。


アキは大通りから外れ、ひっそりと建っていた両店の間に立ち、頭を悩ませていた。


鍛冶屋はオーダーメイドとか出来てかっこいいけど高いイメージ、武具屋は既製品しかないけど鍛冶屋より安いイメージがあるな。


そんな事を考えながらどちらにしようかうんうん唸っていると鍛冶屋の方のドアが気の軋む音と共に開く。

するとそこからは少し背の高い黒髪ロングの女エルフが大きな欠伸をしながら出てきた。


エルフに黒髪ロングってなかなか見ない組み合わせだな…………。


「ふわあぁぁ……ん?どうした、そこな少女よ」

「あ〜、新しい装備をどっちで入手しようか悩んでたんだよ」

「ならうちによってきなよ、君にあった装備を新調してあげようじゃないか」


声のトーン自体は低めだが目をキラキラとさせ少し興奮した様子のエルフさんは、俺の腕を掴むと引きずり回す勢いで鍛冶屋の中へと引っ張って行く。


「ここが私のアトリエだ、準備するからどうぞゆるりと見ていってくれ」

「あ、は、はい」


エルフさんの静かながらも興奮した様子に少し押されつつ、アキは飾ってある武器や防具を興味津々といった様子で眺め始めた。


おぉ、この白をメインにしたフルプレートとかかっこいいな、聖騎士って感じがして好きだな。

こっちは逆に至る所に棘なり刃なりが生えていて悪役にあう感じでかっこいいな〜。


アキが他にも炎を模した剣や大きいフォークの槍など色々なものを見ていると、奥の方からエルフさんがメジャーらしきものや色々な素材を持って花を咲かせながらウキウキとこちらへ駆け寄ってきた。


「は、初めてだから上手くないかも知れないけど…………ごめんね?」

「だ、大丈夫」

「それじゃあ上脱いでね?」

「は、はい」


俺は言われる通りにウッサーTを脱ぐと両腕を上にあげる、するとエルフさんは手に持ったメジャーを俺の身体に回す。


「んっ!!くすぐったい……」

「初めてだったりするの?」

「んひっ、は、初めてだけど」

「可愛い反応をするんだね」

「可愛いって……あっ、ちょっと、くすぐったい」


※装備を作るために身体測定をしているだけです。


「これで最後だから我慢してね」

「は、はい…………んぁっ?!」

「よし、股下も測り終わったしこれで装備を作れるね」


片ややり切ったと額の汗を拭い、片ややっと終わったと息を荒くする。


や、やばい……慣れてない身体のせいかすっげえくすぐったい…………。

これからは今日のデータを持ってこういうところに来ることにしよう…………。


アキはそう固く決意し、ウッサーTとズボンを履くとエルフの隣まで歩いていく。


「えーっと、装備ってどんなのでいくらしますかね?」

「胴装備で3000G頭装備で2000G腕装備が1500G腰装備が2000G靴が1500G合計一万Gってとこ」

「い、一万…………」


俺の今の所持金は初期の配布分とさっき売ったので7500G、微妙に足りない…………。


「初めてのお客さんってことで特別に5000Gで良いよ?」

「本当?!」

「うん、いいよ。ただし、防具は修理とか必要だからそういう時に絶対にうちに来てくれることが条件ね」

「乗りますのらせて頂きますその条件!!」


エルフからの願ってもいないその条件にアキは若干興奮気味でエルフに一歩、また一歩と顔を近付けていく。


「ちょっとした冗談で言ってみたけどなんかノリノリだね」

「えっ?!冗談なの!?」

「いやいや、安くするのは本当だけど別に修理とかは」

「ここで修理してもらう!!いやむしろお願いします!!」


装備の修理はそれを作った人に頼むのが一番良いからね、作った本人だからこそわかるものってのがあるだろうし。


そう考えながら一人静かに頷いているとエルフさんの目がどんどんと潤んで、鼻をすする音まで聞こえてくる。


「あわわ?!迷惑だった?!でした?!」

「うんうん、違うの、そう言ってくれて嬉しくって…………私βプレイヤーだったんだけど私より戦闘が出来て鍛冶のスキルも高いドワーフの子がいたから……私に話しかけてくれる人なんていなくて……君みたいな子が初めてのお客さんで良かった」

「エルフさんのお客さん第一号なんて嬉しいよ!!」


涙を流すエルフさんに励ましと本心の言葉を送ると、エルフさんはメニューを開くと俺にフレンド申請を送ってきてくれた。


「エルフさ、いや、ナズナさん、これからフレンドとして、鍛冶屋さんとしてよろしくお願いしますね?」

「アキちゃん、こちらこそ末長くよろしくお願いします」


互いに挨拶を済ませると装備についての詳細をこれまでの俺の冒険を混じえ話し合い、その日のTPOを終了した。



イベントまで29日

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る