第7話

スライムを倒し服を買いとった後、今度は着替える場所に悩んでいた。


話によるとどうやらこのゲームは変な所はリアルと同じように凝っているため、装備を外すには自ら脱ぎ捨てインナーにならなければならないらしい。


だが今の俺の惨状だと着替えた時に殆ど裸になると思うんだよな…………どうしよう。


先程スライムにぶちまけられた液体によって俺の服はインナーまで溶け、手で隠さないとちょっと危ない所まで来ていた。


「大丈夫、着替えの時は私達が隠してるから」

「ん、恥は捨てて今すぐぬぎすてる」


スライム討伐を手伝ってくれたパーティーの女性陣二人がアイテムボックスから大きな布を取りだし、アキの事を周りの男の視線から遮る。

因みにそのうちの大人っぽい女性プレイヤーが服を用意してくれた人でもある。


どっちにしろ見られることは見られるので恥ずかしいものは恥ずかしいが大勢の前でないだけマシだ。


心の中でそう自己暗示すると溶けた装備を脱ぎ捨て何も起こらぬ内に着替えを済ませる。


その時に布の向こうから おおおっ、という男達の声が聞こえてきたので後でくま五郎に一発ずつ殴ってもらおうと思う。


「着替え終わりました、ありがとうございます」

「はーいってうっはぁー!!可愛いー!!」

「うん、流石なーちんの見込んだ子」


なーちんと呼ばれている女性プレイヤーは俺の姿を見ると目をキラッキラとさせながらこちらへと飛んでくる。


色々としてもらった側なので避ける事も出来ずただそれを呆然と受け止めるしかできなかった。


「おっふぅ……」

「ねぇねぇ!おねーちゃんって呼んでみて!!」

「え、えっと…………おねぇ、ちゃん?」

「SUGOKAWA!!」

「でましたーすごかわー」

「いやいやいやすごかわーじゃなくて!!すごい鼻血出しながら倒れましたけど!!」


なーちんと呼ばれていたお姉ちゃん系な女性プレイヤーが鼻血を出しながら倒れ、ジト目少女プレイヤーが拍手をするという意味のわからない状況にどうすることも出来なかった。




~~~




「いやぁ〜ごめんね〜?」

「はっはい、大丈夫です」


取り敢えず落ち着きを取り戻したお姉ちゃん系女性プレイヤーは少々恥ずかしそうに謝ってきた。


「私可愛い子を見るとちょーーーーっと取り乱しちゃうんだよね」

「いや、ちょっとじゃない…………みんなが引くレベル…………」

「うん?何か言った?」

「いえ!何も!!」


このお姉さん目が笑ってなくて怖い。


「なーちん、怖いよ」


ナイスジト目さん!!


「それだから彼氏に逃げられるんだよ」

「ウリィ?」

「ひえっ」


ジト目さん、流石にそれは地雷だよ。


「あ、あの!!お名前聞いてもいいですか?!」


お姉さんがジト目さんを四つん這いにさせ、自分の得物を振りかざしたその瞬間、俺はジト目さんを助けるために気を逸らそうと声をかける。


「あーちょっと待ってね」

「あー、少女よダメだったようだ」

「成敗!!」


しかしジト目さんを救うことは出来ず、振り上げられた得物は振り下ろされジト目さんのおしりへ向け一直線に吸い込まれ━━




━━「んあぁっ!!」


その瞬間妙に色っぽい声とバチン、というよりゴチンという若干鈍い音の混じった音が洞窟内に響き渡った。


「それで、私の名前だったよね?私はナスカル、んでこっちでおしり叩かれてビクビクしてるのが」

「ウリエリ、少女よ、さっきは助けようとしてくれてありがとう。嬉しかったけどなーちんには無駄だったようだ…………ばたんきゅー」


ウリエリは感謝の言葉を述べるとおしりを押えパタリと倒れ地に伏せた。


「だっ、大丈夫なの?ウリエリさん」

「いいのいいの、いつものおしおきだから。それよりも、君名前は?」

「アキ……」

「アキちゃんね!よろしく!!」

「よろし━━おっぐぅ……」


アキが握手をしようと手をナスカルに手を出すと、ナスカルはその手を気にすることなく抱き着きその凶器的な胸部でアキを窒息死手前まで締め上げる。


「ナスカルさん、死ぬ…………」

「ごめんごめん!!」

「ふぅ、危なかった……」

「ねぇねぇ、アキちゃん」


やっと解放され一息ついているアキにナスカルが少し遠慮気味に声をかける。


「フレンド登録、してくれない?」

「えぇっと、まぁ、いいよ?」

「やたっ!!アキちゃん、改めてこれからもよろしくね!!」


何だろう、なにか大きな間違いを起こしてしまった気がするんだが…………。


「アキ、私ともして」

「あー、はい」


若干高揚した表情でフレンド申請をしてきたウリエリとフレンド登録を完了させると、ナスカルは他のパーティーメンバーを呼びつけサツキ達が帰ってくるまでスライム狩りをすることとなった。


「俺はアロナグな、よろしくアキちゃん」

「僕はデタジル、このバカの弟よろしく」

「改めて俺はアキ、バグで女になった。よろしく」


俺がいつもの調子で自己紹介をすると周りから「俺っ子か、良いな」「アキちゃん可愛い」 など意味のわからない発言が耳に入ってくる。


「くま五郎」

「カラッ!!」

「あれとあれとあれ、やっちゃって」

「カララッ!」

「さ、行きましょ」


くま五郎を呼び出し標的を教え叩きのめすよう命令し、四人にそう言うと先程POPしたばかりのスライムの元へと装備を確認し歩いていく。


「ナスカルも大概だがアキちゃんも怖いな……」

「変なこと言わなくてよかったねバカ兄貴」


標的にされた男達がくま五郎の一撃に瀕死になるのを目の当たりにしたアロナグが額に青筋を浮かべ呟き、それにアロナグは興味無さそうに返す。


「ナスカルさん、俺がタゲとるんであとはみんなで」

「了解したよ!!」

「それじゃあ行きますよ〜?『タウント』!!」


説明しよう、先程のスライム戦でガーディアンのレベルが5になっており、TPOではジョブレベルが5になるとジョブスキルが解放され、このスキル『タウント』を使えるに至ったのだ!!(一部ウィッキー調べ)

そしてタウントとはどこのRPGでも定番の挑発スキルなわけだ、つまり━━


「━━こうなるわけだ!!」

「いくぞー『下級火球魔法ファイアーボール』!!」


突進してきたスライムを大盾で上に弾くとそこへウリエリの放った火球がスライム目掛けて直撃する。


「次新旧テレビ!!」


俺がそう叫ぶと不服そうな顔をした二人がこちらへ全力で走ってくる、それに合わせ俺は大盾を跳び箱の前にあるあのバイーンってなるやつの容量で二人が乗った瞬間大盾を蹴っ飛ばす。


「おわぁっ!」

「兄貴、早くスキル。『火炎斬り』!!」

「よしっ、『フレアスラスト』!!」


デタジルの火炎斬りによる斬撃でスライムの核までのボディを切り離し、アロナグのフレアスラストにより核を焼き貫く━━





━━はずだったのだが寸でのところでアロナグが核を外し、そのままアロナグの槍と一緒にスライムが地面へと突き刺さり固定される。


「ああもう!!なんで外しちゃうのかなっ!!」




━━ドゴォォン!!


ナスカルは呆れた様子でアロナグに吐き捨て、言葉を言い切ると同時に先程ウリエリの尻を襲った得物で地面ごと粉砕した。


何この人、凄い怖い。


この時アキはこの人だけは怒らせないようにしようと心に誓ったのだった。

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