第5話

「うーむ、どうしようか」


プレイヤーを放置して踵を返したアキ達は先程から同じところをウロウロとしていた。


「ねぇ、ほね太郎」

「カラ?」

「ここ来たことあるよね?」

「カラッ」


俺が質問するとほね太郎は木に付けた切り傷を指さしここが先程通った道だと示す。


これはまずいな、ログアウトすればゲームからは出られる。

でもそれだと次に始めた時ここからになるかもしれない…………だったら時間がある今の内にこの森を抜けておきたいよなぁ。


「はぁ、どうしよう」


俺がこの状況に悩んでいると後ろからくま五郎がちょいちょいと人差し指で肩をつついてきた。


「ん、どした?」

「カララッ!!」


くま五郎は拳を握り、骨だけの腕をガシッと掴むと俺に任せろという念を送ってくる。


「何か案があるんだな?よし、やっちゃえくま五郎!!」

「カラッ!!」


俺の号令にくま五郎は力強い返事をすると姿勢を低く構え、溜めていた力を一気に解放し残像が見えそうで見えない程の速さで目の前の木に飛び込み━━




━━バギ、バギバキバギッ




飛び込んだ勢いを全て乗せた拳によって目の前の木々をドミノ倒しのようにバタバタとその身をながら倒れていく。


さっきの熊の時といい、今といい……この子木をボコボコボコボコ倒して、そのうち環境破壊は楽しいZOYとか言い出すんじゃないかとアキさんは心配だよ…………。


そんなくだらない事を考え肩を竦めていると、身体が持ち上げられる感覚がし━━




━━浮遊感と目をまともに開けていられないほどの風を切る感覚が襲って来た。


「うひぃあぁぁあ?!」


余りにも唐突な出来事に理解が追いつかずに手当たり次第に掴まれるものにしがみつく。


「こ、こっわぁぁ…………あ、くま五郎だったのか」


ものを掴んだことで少し冷静さを取り戻したアキは掴んだものを確認し更に安堵する。


なんだ……未知の敵MOBに連れ攫われたのかと思った…………くま五郎が俺のことを抱えてさっきの道を走ってるだけ「ってかほね太郎はどうした?!」


「カラ?」


アキが思い出したように叫ぶとくま五郎のクマヘッドの脇から顔を出し 何か? と言わんばかりの呆けた雰囲気で返事をして来た。


「おぅ、ほね太郎もくま五郎にしがみついてたのね?」

「カラッ!!」

「こらそこなくま五郎、嫌な顔しないの。詳しい表情はわからないけど今露骨に嫌な雰囲気出したの分かってるからね」


俺がそう言いながらくま五郎の額にデコピンをすると何故か機嫌を良くし、先程までの数倍のスピードで走り始める。




~~~




「うっぷ…………オエェッ…………」


超特急くま五郎号に乗っていたアキは近くにあった湖の近くでキラキラとしたエフェクトを吐き出していた。


その後ろには先程までとは打って変わって申し訳なさそうに背中を丸めるくま五郎と、心配そうに背中をさするほね太郎がいた。


「くまごろぉッゥ…………だからとめてっていったのにぃ…………」

「カ、カラ…………」


余りにリアルな吐き気に涙目になりながらメニューからインターネットに接続し、TPOでの吐き気の治し方をなんとか探そうと悪戦苦闘する。


なんでインターネットがこの中で使えてゲームっぽいのにこういう要らない感覚はゲームみたいに無くならないかなぁ!!


アキが心の中で憤怒しているとほね太郎がどこから拾い上げてきた大きな木の実をボウル状にし、その中に水を入れて持ってきてくれた。


「ありがと……」

「カラッ」

「ん…………ぐっ、んん………………ぷふぅ、もういっぱいくもう……」


一杯では足りなくもう一杯欲しくなったアキはおぼつかない足取りで湖の方へと歩いて行く。


「カ、カラッ!!」

「だいじょぶだよ、ふぅ……ほね太郎とくま五郎は周りに敵MOBがいないか見てて?」

「「カラッ」」


なーんて言ってはみたけど結構きついんだよね…………


と、内心で悪態をつきながら湖の水を汲み、それを飲み干すとアキは思い出したよう水面に映る自分の姿を見始めた。


二重の翠色した瞳に肩より少し短い白髪ショート、そして160位の身長…………本当にあの時ふざけて作ったキャラなんだな。

ちょっと、というかガッツリ性癖のど真ん中行くキャラだけど。


自ら作ったアキをマジマジと見ていると湖の中央から小さな波紋が広がってきた。


「ん、何だ━━」




━━━ザバァッ!!




何事かと顔を上げると、目の前に白く鋭いものがびっしりと並んだ赤い壁がそびえ立っていた。


否、その壁はアキの体長の二倍はあるほどの大きさまで顎を開いた生物だった。

揺れる水面に一瞬写りこんだその生物を呆然と眺め。


あっ、これ死んだ━━



アキは死を悟った。



━━グチッ、バギュッ




意識が途切れる瞬間に聞こえたのは自らの肉の割かれる音と骨の折れる音だった。






~~~






「うわああぁぁぁぁ?!」


目が覚めるとそこはTPOに入ってきた時と同じ場所に寝転がっていた。


アキが突然大声を上げた事により周りのプレイヤーの殆どがビクリと身体を震わせ一斉にそちらを向く。


「あっ、えっと……あのぉ…………すみません……」


アキはその視線を感じ、顔をどんどんと朱に染め上げると両手で顔を覆い一目散に駆け出した。


恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!!復活地点ってここなのかよ!!せめて誰もいないところに復活させてよ!!


アキが心の中でTPOの復活システムに当たっているといつの間にかおっちゃんの店の前まで来ていた。


「おっ、嬢ちゃんじゃねーか。どうした、死んで来たか?」

「アキ、もう死んで来たの?」


おっちゃんだけでなく、店の前にいたサツキまでもが口を揃えて俺にニヤニヤとしながら問いかけてくる。

本人達からしたらただふざけてるだけなのだろうがあれだけの思いをしたアキにそれを察するだけの冷静さなど持ち合わせていなかった。


「うっ、うるさい!!あんな初見殺し避けれるか!!」


アキがそう反論すると先程までニヤニヤしていた顔が一転し、二人してアキに哀れな子を見る目を向け━━


「「━━え?」」

「ふぇ?」


声を揃えて混乱していた。


「「マジで死んだのか」」

「声を揃えて言うんじゃない!!」


TPOを初めて初日、もうやめてやろうかと思ったよ。

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