呪われたあの夜

Jack-indoorwolf

第1話今カノの元カレについて。

あのころ僕は高校三年生で北海道の田舎町に住み、極々普通の生活を送っていた。

知ってるよ、小説の書き出しとしては平凡すぎるということは。ただ僕はこの作品を面白おかしく書くつもりはないんだ。分かって欲しい、僕にも少し繊細な心の部分があるんだよ。察してくれ。




バカなフリをしていればとりあえず高校生活は楽しめる。そんな年頃。下ネタ、先生の悪口、面倒くさい勉強、あの女が妊娠したらしい話、時どきSNSで回ってくる芸能人の噂。だいたい高校生の話題なんてそれらのループ。そうして僕は17歳の夏を面倒なくやり過ごそうとしていた。少なくともそのつもりでいた。




夏休みになって一週間経過。青空の映える昼間。北海道らしくない蒸し暑さの中、僕はソファーに寝そべって村上春樹の『ノルウェイの森』を読んでいた。両親は仕事を休んでインド旅行へ。兄弟のいない僕は二週間の一人暮らし。

窓を開けて扇風機を回す。僕は台所にあった白ワインを開けていた。酒を飲み慣れていないので、適量がわからない。僕は一人で白ワインのボトル二本を空にしてグデングデンに酔っ払っていた。

そんなとき僕のスマホが震えた。




隼人はやとの家へ行きたいの」

詩乃しのから僕のスマホにメッセージが届いた。詩乃は当時僕と付き合っていたクラスメイト。そして隼人とは詩乃の元カレ。

びっくりした。酔いが醒めた。




以前、隼人と詩乃は誰もがうらやむ恋人同士だった。イケメンと美女。二人とも勉強が出来てスポーツも上手い。日本の高校にもプロムの習慣があれば、隼人と詩乃は絶対キングとクイーンに選ばれたに違いない。




そんな詩乃は、その後僕と付き合っていた。少し神経を使うけれど、いい女。友だちにはよく嫌味を言われた。嫉妬されたんだよ。まったく、子供じゃあるまいし。




僕は近所のスーパーマーケット内で営業していた小さな花屋に行った。バラの花束を買うつもりだった。しかし大きな店ではなかったので、赤いバラは十輪くらいしか置いてなかった。赤いバラの花束が欲しいなら前もって連絡をくれ、と店員に言われた。しょうがないので赤いバラを中心に、その他の花を色いろ見つくろって作った花束を買った。




この花束はお供えにするつもりだ。

そう、詩乃の元カレである隼人はもうこの世にいない。高校二年のとき、彼は死んだ。

隼人の葬儀のとき、詩乃は泣かなかった。しかし同時に、詩乃の笑顔も見ることはなくなった。あれ以来、詩乃は死人のように生きていた。

僕にはどうしようもない。当時17歳の僕に何が出来たというのだ。週末いっしょにレストランで美味しいものを食べて「来週も頑張ろうぜ」なんて言い合う。そんなやり方しか僕には思いつかなかった。詩乃は市内の精神内科病院へカウンセリングに通ってるという噂が流れていた。




その、すでに死んでいる隼人の家を訪ねることになった。詩乃といっしょに美しい花束をたずさえて。

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