衝撃! ミイラとの遭遇! ①
「うむ、うまいな」
清海と分かれた後、六郎は酒と飯をとりつつ時間をつぶしていた。時刻はとっくに十二時を回っていた。
「お客さん、そろそろ店じまいしたんですが……」
店主は迷惑そうに言った。
「もう少し、もう少しだけ酒をくれ」
心底面倒だという顔をしながら主人は酒を取りにいった。
「きゃーー! 助けてぇ!!」
そんな中、突如女の悲鳴が聞こえるなにかあったのだろうか。
「絹を裂くよな女の悲鳴!? 親父、勘定はここに置いておくぞ、釣りはとっとけ!」
六郎は金を置いて走り出した。
「おい! 金足りねーぞ!!」
店主の声を背に受けつつ、六郎は夜の闇を駆けた。
六郎が声の元へたどり着くとフードを目深に被った女が倒れていた。
「もうやられちまってるみたいだな」
女の胸には刃物で斬られたような傷跡、しかし焼け焦げたような痕であった。そんな傷をつけられるような武器に六郎は見覚えが無かった。
「見たこと無い傷だな」
少し酔った頭の成せる技か、普通の忍びであれば関わりを避けるであろう事件は退屈な男の心を動かした。
「足跡があるな、追ってみるか」
草として地域に根ざす六郎にとって追跡は得意分野である。足跡を残していくような逃亡者を探すことは難しいことではないのだ。
涼しい夜風は六郎の頭をよりクリアにした。しばらく腐っていた脳を鮮魚に取り替えたように目が可が輝きだす。
「むっ、あいつか?」
暗闇からライオンのように光る瞳がこちらをにらんだ。
「そこのやつ出て来い」
六郎の声に反応するように闇の中から姿を現したのは酷く乾いたミイラだった。
「なっ、ミイラか!?」
古代よりミイラはエジプトの人間にとって大きな慣習の一つである。死者の魂がいつか還ってくるための器だとか、魂を永遠に残すためだとかいろいろ説はあるが、それが目の前で動き出したとなれば驚かない人間はいないだろう。忍びである六郎にとってもそれは人生最大の事件であった。
月明かりがミイラが手に持っていた刃物を照らし出す。ケペシュに似てはいるが、やはり見たことがない武器だ。
ケペシュとは古代エジプトで使用されていた鎌剣の一種であり、その真価は敵の武器をからめとる形状に合った。敵の行動を阻害するという点において忍者達は鎖鎌に替わる武器として使っていた。
「アアアアアアアア……」
ミイラは不明瞭な音を発しながら獲物を振り回してきた。六郎は後ろに下がりながら回避する。
「死者が殺しにかかってくるなんて、こんなことならこの街のミイラ職人を全員縛り上げておくべきだろ!」
六郎は文句をいいつつ全力で回避する。ミイラの持っている武器は鋭利とは呼べずむしろ錆びているようにも見える。年代物なのかもしれないと感じた。
「死者にムチ打つのは趣味じゃないが、もう一度眠ってもらうぞ」
六郎はエジプト忍者が持つ武器「ニンジャ・ケペシュ」を懐から取り出した。
「アアアアアアアアア……」
武器を振り回すこのミイラは知能というものを持ち合わせているようには見えなかった。ただ生き物を狙って襲っているように感じた。
「もしかしてケペシュの使い方を理解していないのか?それなら大した相手じゃないな」
六郎はミイラの攻撃を誘うため迎撃の構えを取った。
「ガアアアアアアアアアア……!!」
再度ミイラは大振りで攻撃してくる。
「そんな甘えた攻撃など……」
六郎は難なく攻撃をかわす、と思いきやミイラの一撃は流れるような動きで六郎の動きをとらえる。
「なにぃい!?」
危うし!寸でのところで回避するが、顔にわずかな傷を作った。しかしその傷は焼け焦げていた。
「なんだと!? 斬られた部分が焼けた!?」
焼けた傷から煙が上がる。危険を感じ六郎は距離をとった。
「こいつ、のろまのふりを……!! 実は賢いのか!?」
六郎は下手に近づくのは危険であると考えた。人間を焼き斬るような謎の武器、そしてこのミイラの能力が未知数であることがそうさせた。
「バステトよ、俺を守りたまえ……」
そのときどこからともなく飛んできた巨大な斧がミイラの体に突き刺さる。
「ガアアア!!」
衝撃でミイラの体は大きく吹き飛ばされ近くの空き家に突っ込んでいった。
「無事か、六郎!」
暗闇から現われたのは斧を投げつけた張本人、清海であった。
「清海か、助かる」
二人がミイラに向かって身構えるとミイラは空き家から這い出してきた。
「おいおい、なんだこの化け物は俺は夢でも見てるのか?」
清海はぼやいた。
「奇遇だな、俺も初めてお前にあった時同じことを思ったよ」
ミイラは胴体に深々と刺さった斧を抜き取るとその場に投げ捨てた。
「斧をこちらに投げもしないとは、よほど剣に自身があるらしいな。」
清海は言った。
「ハァアアアアア……」
突如ミイラは口からおぞましい緑色の息を吐き出す。
「なんだ、明らかにやばいぞ」
ガスを吐き終わったミイラはケペシュを一振りする。その瞬間周囲の息に起爆した。爆風と砂塵が二人を襲う。
「うおっ! 誘爆ガスか!?」
六郎は言った。
「わざわざそれを見せるってことは、俺達を殺す方法はいくらでもあるっていいたいのか……? なめやがって!!」
清海はそういうと丸腰でミイラに走り出した。
「待て、清海!やつの剣は危険だ!!」
清海の突進は忍びの基本速度時速70km、そこに彼の体重350kgを合わさることで爆発的な威力を生むことが可能であった。
しかし、待ち受けるようにミイラは口からガスを吐き出す。清海の動きに合わせてカウンターを打ち込むようにミイラは剣を振り下ろした。
「だめだ清海! 爆発するぞ!」
清海危うし、絶対絶命か?
「ぬおっ!」
瞬間、清海はミイラの一撃を白刃取りした。手のひらを軽く火傷しつつもミイラの剣を受け止めている。
「無茶なことを、だがこのままでは爆発はまぬがれないぞ!」
「問題ない」
そういうと清海は大きく息を吐き出す、その肺活量たるや小さな砂塵を巻き起こすほどだ。
「ガスが散っていく? なんて人間離れしたやつだ……」
六郎は心底感嘆した。
「なにも問題ないさ、このミイラの運命以外はな!!」
清海は剣ごとミイラを持ち上げ、空高く放り投げた。ミイラはそのまま十メートル上空まで打ち上げられた。
「六郎、とどめだ!」
「まかせろ!!」
地面に吸い込まれるようにエジプトの干物男は落ちて行く。
「オシリスによろしく」
そう言いながら、六郎はミイラを真下から二つに切り裂いた。
「ヒューッ! こんな派手な胴試しは初めてだな!」
清海は面白そうに笑う。
「神の二度も運ばせるとは恐れ多いやつめ、今度こそアアルの野に行けよ」
「しかし動くミイラなんて初めて見たな、出発前に面白いものが見れたぜ」
改めて死んだとはいえこの奇怪な存在は二人の好奇心を酷く刺激した。六郎は翌日このミイラを仲間と共に調べてみることにした。
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