紛物・日本史
よろしくま・ぺこり
第1話 勉強家、海を渡る
わたくし、孤雲庵亭主は飛行機に搭乗するのも、外国に行くのも大嫌いなのですが、それでも、あまりある知的好奇心のために、重い腰を上げて、中華人民共和国に行くこととなりました。中華人民共和国側には国賓待遇での受け入れを申し入れ、幸いにも快く許可されました。もちろん今回の公民調査団において国賓待遇となったのはわたくしだけです。まあ、今まで話して来ませんせしたが、わたくしの実の父というのが、長年、大宇宙連邦より、太陽系総幕僚長兼本銀河系宇宙鎮守府将軍及び、地球国司、火星国司を一括就任するという、ごく一般的な家庭に育ったからなのです。養父の家に入ったのも「落語の噺を覚えておくと、なにか宇宙会見の時、役に立つのじゃないか?」という実父のおかしな考えで、「ピアノを習ってみたら?」や「『宇宙人のネイティヴ言語』勉強しておく?」という程度の軽いノリで養父の元へ勉強に出されたのですが、なぜ養子縁組までされたかは本当に謎です。しかも、養父はわたくしに『古典噺』どころか『新作噺』『小噺』『紙切り』『大喜利』さえも教えてくれませんでした。わたくしの芸は全て、耳で聴き、目で覚えたものです。しかし、養父の目に届かない範囲においては、わたくしの演じる芸は誠に評価が高く『芸術選奨』に推されましたが、これをいただくと養父に全て知られてしまうので、やむなく辞退をしました。
それはさておき、わたくしは中国最高級ホテルのスイートルームにお世話になることとなり、習近平国家主席を始め、現役首脳トップや、江沢民元国家首席らの大物OB方の出迎えを受け、大歓待を受けました。わたくしは独り身なので、大喬・小喬さんという二人の美しい姉妹がエスコートしてくださったのですが、なんでしょう? とてもわたくしを気に入っていただけて、大喬さんからは外交ルートを通して、ご交流の機会を得るべくご理解を得たいとの消息が届いていますが、まあ正直ねえ、面倒くさいですわ。そんなにわたくしが好きならば、何もかもかなぐり捨てて、身一つで飛び込んで来て欲しいものです。
さて夕方になり、日本の調査員方と中国の調査員方での交流会が開かれました。日本の代表は全宇宙統合大学超名誉教授・名無野権兵衛先生が就任なさいました。尊敬すべき良い人格者です。わたくしは今日が初対面ですし、噂にも何も知らなくて……ああ、だいたい、わたくしは大学関係者でもありません。いってみれば、フリーランスの文筆業。要は、調査で明らかになった小難しいことを脚色を混ぜて、皆さんにお伝えするのが仕事です。事実に寄りすぎると難解な文書ですし、脚色がすぎると、わたくしの小説になってしまいます。まあ、その点は実父の方の力でなんとかなってしまうのが恐ろしいですね。養父してみれば、後付けですが、わたくしの脚本・脚色の才能を呼び起こしてくれました。わたくしは、まだ養父の後を継いで、いずれは二代・萬願亭道楽になりたいです。養父・初代には実子もなく、甥もなく、はたまた、その方針により弟子すらいません。先日、六代目・山遊亭真黒師匠から「当代は必ず、あんたを二代目にしたくなるよ。あんたには宇宙軍を取り仕切るより寄席という小宇宙を支配できるはずだよ」というありがたいお言葉をいただきました。ただねえ、あの方、心底から腹黒でしょう? 心の澄んだ(おバカさん)のような扇屋云楼(おおぎや・いえろう)師匠がそう言ってくれたなら喜べたんですけどねえ。それにしても、彼の方のせいで、日本人の何十%が黄色をバカの色だと思っているのでしょうな。
ああ、懇親会もお開きです。仕事のことは明日以降ご説明しましょう。
では。
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