影響を受けた三大コント
もしも、好きなネタを三つだけでも挙げるとしたら、かなり考え込んで時間がかかってしまうだろう。それでも、お笑い好きとしては語ってみたい。
そこで、一物書きという面からみて、私が影響を受けたと思えるコントを三つ、勝手ながら紹介していこう。
・ラーメンズ「釣りの朝」
別の回でも力説したが、私がラーメンズから受けた影響というものは、計り知れない。
伏線の張り方とか、どんでん返しの示し方とか、ミステリーを読んだ時のように「こうするのか!」と驚かされることもたくさんあるけれど、逆に、何も起きていないのに物語になっているという意味で、「釣りの朝」は衝撃だった。
舞台上で、片桐さんが奇妙な歌を歌いながらおにぎりを握っている。その後ろでは、小林さんがブランケットにくるまって眠っている。
歌のせいで起きてしまった小林さんに、片桐さんは嬉しそうにこれから友人二人と釣りに行くのだと話している、というのがざっくりとした内容。
ボケとツッコミが会話する、というお笑いのセオリーを排した構成も、目から鱗だった。
会話も、わざとらしくない、普段の生活の延長線上という形で、お客さんを全く意識していない自然体だ。それでいて、ちゃんと笑いは起きているのだからすごい。
誰かの日常を覗き見しているというような、不思議な感覚になるオチも印象深い。驚きはあるけれど、地に足はついているのだ。
実のところ、このコントが私に与えた影響は大きくて、拙作の『日常キリトリ線』を紹介するときに「ラーメンズのコントのような」と言ってしまうのだが、その時念頭に置いているのは大体この「釣りの朝」である。
・バカリズム「久保家の縁談」
バカリズムさんのネタは、発想の時点からとんでもないので、影響を受けるどころかいつも「ああ、そう来るかー」とうなってしまう。
その発想を、どう見せるのかに様々な手法を用いているので、何度見ても飽きない上、新たな発見があるのも魅力的だ。
「久保家の縁談」は、バカリズムさん演じる父親が、娘にお見合いを勧めているというコント。
お見合いを渋る娘に、父親は突然、生物の名前の由来についての話を始める。生物の名前は、それを発見した博士的な人がすべてつけていったのではないかという憶測を、演技も交えて力説していく。
父親の話は突拍子もなくて、屁理屈だとは分かっていても、時折「なるほど!」と思ってしまうところとが多々ある。
例えば、「ブドウ」に似ているから「海ブドウ」という名前がつけられたのだから、もしも「海ブドウ」が先に発見されていたら、「海ブドウ」が「ブドウ」に、「ブドウ」は「陸ブドウ」という名前になっていたのではないかという話とか。
屁理屈の出し方とは、いろいろな形があるのだと思うのけれど、余りに現実から飛躍しすぎると白けてしまうだろう。
その点でいえば、バカリズムさんのネタの発想は、説得力があって、嘘だと分かっていても十分に楽しめる。
また、この「博士的な人が生物に名前を付けていく」というのがネタの発想源ならば、バカリズムさんがフリップ芸などではなく、「娘に父親が縁談を勧めるための説得の材料」というコントの形で披露されているという点にも注目したい。
その理由は、コントの終盤からオチに明らかになるのだが、このオチが鮮やかすぎて、私は笑いながらもひどく感心させられた。これにより、ネタがより印象深くなっているように思える。
短編やショートショートとは、悪く言ってしまえば発想重視の一発ネタではあるのだが、それに対する見せ方でどう伝わるかがほとんど決まってしまうのだと勝手ながら学ばせていただいたコントである。
それと同時に、奇抜な発想とはどのように生まれてくるのかに、手が届きそうな気持ちになれるコントでもある。
・ジャルジャル「幼なじみ」
テレビで初めて「しつこいひったくり」を見てから、ずっとジャルジャルのことが気になっている。
賞レースに出ているときは素直に応援して、テレビでネタするときもチェックして、公式YouTubeチャンネルもファンと名乗るにはまだまだな立ち位置だけどそれなりにネタを見ている。
ジャルジャルのネタは非常に幅が広くて、傾向がつかめないのが傾向だと思う。
それは、後藤さんと福徳さんの二人でネタを作っているからだと思うのだが……その考察は置いといて、山ほどあるジャルジャルのネタで私が非常に好きなのは、「幼なじみ」である。
小さい頃からの友達で、勝手に家には出入りするほど気心の知れた仲である二人。
福徳さんが昨日免許を取ったのだと、免許証を見せて自慢する。それを受け取った後藤さんは、あることに気づいた。
便宜上、福徳さんと後藤さんと呼んだけれど、実際には役名が付いている。
それを紹介していくと、ネタバレになってしまうのでぜひ見てほしい。公式YouTubeでアップされているので。
さて、これもまた、二人の人物の会話という日常の一瞬を切り取った形のコントである。
「釣りの朝」と異なるのは、会話のラリーごとに驚きがあり、何度も状況がひっくり返されていくということだ。ただ話しているだけなのに、二人のやり取りに注目してしまう。
そうして最後まで見終えた後にもう一度見直すと、あちこちの伏線があることに気付かされる。
まったく無駄なところのない、完成度の高くて美しいコントである。そして私が最初に見たのは中学生の頃だったが、十年以上経った後の鑑賞にも耐えれるコントである。
会話の内容がどんどん驚きが更新されていくので、冷静に考えると「ありえないでしょ」というようなこともすっと入ってこれる。
そのリアルとの塩梅が絶妙で、その説得力のつけ方がたまらない。
日常の延長線上に、非リアルな世界が広がっているというネタが私は大好きで、こういう話を書いていきたいと密かに苦心してきた部分がある。
「幼なじみ」のように、何気ない会話から何かが大きく動き出すようなネタも大好きで、これを始めてみた時の感動を読者に与えたいと大それたことを考えてしまう。
……以上が、私が影響を受けた三大コントである。
実のところ、もっと語りたいコントはあった。バナナマンの「Emerald lizard & salamander」とか、東京03の「旅館」とか、ロバートの「小学生版画クラブ」とか。
あと、漫才編もやってみたいなーと考えてみたけれど、これはコント以上に難しい……。
まとまったらやるかも。あくまで、「かも」である。
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