賞レースの幕が上がる
キングオブコント2019
二〇一九年九月二十一日、TBS系列十九時より、キング・オブ・コントの決勝戦が始まった。
私はかなり緊張していた。ファイナリストが完全シークレットの中、私の好きなコント師の、ジャルジャル、空気階段、かが屋の三組が準決勝まで進出していて、その先に上がるかどうかがわからなかったからだ。
さらにちょうどその日に、沖縄に台風が直撃していて、停電するだろうかとすごく心配しながら迎えた、決戦の日だった。
停電は回避して、家の事情でテレビは八時以降からしか見れないので、情報を遮断した状態から追いかけ再生をして、見始めた。
司会者と審査員の紹介、そして松本さんの某番組いじりも終わった後に、いよいよ本戦が始まった。
私はずっと心臓をバクバクさせながら、コント師たちの雄姿を心に刻もうと、画面の前で目を見開いた。
1st 一組目 うるとらブギーズ 「催眠術師」 462点
催眠術師がショーを行っている中で、ずっと何かもごもごと喋っている男。彼は、誰かが喋っていると一緒に喋ってしまうという特殊な体質の男だった。
何か喋ってるなー、同時に喋っているなーと思っていたら、その理由が「誰かと一緒に話してしまう」という馬鹿馬鹿しさ。テレパシー説とか思いついた自分が恥ずかしい。
でも本当に、同時に喋っている。このボケ一本を通すためにどんだけ練習したんだと、眩暈がする。
催眠術師が言っているのと同じトーンで話しているし、本人の声は特徴があるので、どっちが喋っているのかが聞いてて分かる仕様に驚かされる。
この、一緒に喋ってしまうカシモトさんの言葉のおかげで、会場がどんな様子なのかが分かってくるのがまた可笑しい。
代わりに舞台に上げられた女性の言葉とか、カシモトさんを応援する会場の声援とか、カシモトさんで遊ぼうとしている人の「あ、あ、」とか。
催眠術師の術が効いて、誰かと一緒に話さなくなるカシモトさん。しかし、最初に試した左手が開かなくなる術も効いてしまったというオチ。
馬鹿馬鹿しいような設定ながらも、カシモトさんの悲哀が伝わってきて、可笑しみと切なさがないまぜになったような気持ちで見ていた。いや、一緒に話しているときのカシモトさんのトーンはそのままだから伝わりづらくもあるけれど。
1st 二組目 ネルソンズ 「マネージャーの秘密」 446点
野球部の岸は、同じ部活の友人の和田に、マネージャーのみゆきちゃんは毎晩大学生と遊び歩いているという秘密を話す。
誰にも話すなよと釘を刺した岸と入れ違うように現れた青山先輩に、和田はみゆきちゃんの秘密を話してしまい、さらに先輩とみゆきちゃんが付き合っていることを知ってしまう。
そこから始まる、ドタバタな人間喜劇。先輩は和田から岸が噂の根源だと知り、バッドを持って探し回り、岸も和田から先輩の秘密を知らされた上で逃げ回る。
この、和田まんじゅうさんが演じるキャラクターが、瞬間瞬間を生きているんだなという感じがしてくる。言うなと言われたことを、話の流れですぐに言ってしまうし、親友のことも売ってしまうし。
そして、先輩に岸が見つかってしまい、詰められている後ろで、「もっと大きい声で謝れ!」と野次を飛ばす和田。それに気付いた先輩に、「お前がややこしくしてるんだからな!」と怒られると、「間違えた……」と小さくなる。
こういうところが、コントのキャラとして許せるかどうかの境界線なのかなと思ってしまう。その後の、和田さんの謎な逆ギレも、素直に笑ってしまった。
KOCはトリオで優勝したユニットも多いこともあり、やっぱりトリオとコントの親和性が強いなと再確認した。
みゆきちゃんの秘密を知った岸と、実はみゆきちゃんと付き合っている青山先輩と、自分の気持ちも聞いた秘密もすぐに言ってしまう和田というトライアングルが、目まぐるしくも楽しかった。
1st 三組目 空気階段 「タクシー」 438点
進出決定の映像の時点で、「おおー!」とテンションが上がってしまった、空気階段の登場。
コントは一見シンプルだ。タクシー運転手のもぐらさんがボケ役に、それに乗っった客のかたまりさんがツッコミ役である。
タクシーに乗り込んだ客は、迷路を書いているとかサイドブレーキとリクライニングを間違えるという運転手の小ボケに突っ込んでいく。
そして出発してからしばらくして、運転手は客に、「前にも乗せたことありますよね?」と確認する。一度目は、新品のトランペットにヘチマがつまっていたから苦情に言いに行く時で、二度目は八十人の親戚とGENERATIONSのコンサートを見に行く時だったと話すが、客には心当たりが全くない。
そうして目的地の目黒へ到着。客は運転手のスタンプカードをもらって降りて行ったが、すぐに戻ってくる。
運転手が「忘れ物ですか?」と確認するが、どうも話がかみ合わない。釈然としないまま、五反田へ向かったタクシーの中で、客が以前にもに乗ったことがある、トランペットを返品しに行った人だと判明する。
自分の記憶違いではなかったことに大喜びする運転手も可愛らしくて、彼の言っていたことがボケではなく真実だと判明したことで、コントの色合いががらりと変わる印象的なシーンだ。
その後に、二人目の客がトランペットの返品の際に迷惑料をたくさんもらったという話をしたので、運転手がそれで親せきとGENERATIONSのコンサートに行ったんですねと確認したが、客は小首をかしげたまま降りていってしまう。
「もう一人いる……!」と震える運転手に、また客が。彼はGENERATIONSではなくトランペットヘチマの客だったが、前の車に自分とそっくりな男が乗り込んだので、それを追いかけてほしいという。
運転手はハンドルを握りしめ、前のめりになった客とフロントガラスを睨みながら、こう言う。「GENERATIONS……!」
正直、今回のKOCの中で一番好きなネタである。構成が若干複雑ながらも、すっと入ってくるし、ラストの余韻がすごくいい。
何より、コントのキャラクターのように見えた運転手が、二人目の客の登場によって、この社会のどこかにいるという現実感が付随されるのがすごく心地よい。叙述トリックの小説を読んだ時のような、新鮮な驚きだ。
そのため、点数が振るわず最下位なのには大分不満だった。二本目が見たかった……。
1st 四組目 ビスケットブラザーズ 「出会い」 446点
ずっと上を向いて歩いていたために知らない街へ来てしまった男性・ユウタと、ずっと下を向いて歩いていたために知らない街へ来てしまった女性・キョウコ。
ユウタはキョウコに、友達になろうと話しかけるが、話していくうちに二人のタトゥーや指輪などの共通点に気が付く。しかし、記憶のない二人は、それらの理由が分からない……。
太っていて、妙な話し方で、一見男性のように見えて一人称がワシというキョウコなど、最初の方は、二人のキャラクターで笑いを引っ張っていく。
しかし、それぞれの指輪が光りだした途端、状況は一変。「すべて思い出した!」という爽やかな声のセリフと、壮大でロマンチックな音楽が流れる中の独白に、爆笑が止まらない。
こう言っていいのだろうかとは思ったが、映画の「君の〇は」を思い出した。二人で交互に語りだすモノローグは、きっと意識しているんじゃないかと思う。
そんな中でも、二人交互に「サン!」「デー!」「マン!」「デー!」と言い合ったり、この構造ならではのボケが馬鹿馬鹿しくってたまらない。
それでも、恋人同士だった過去を忘れ、もう一度別れようとしたら、また思い出し、「僕たちは何度でも思い出す!」というセリフは、なんだかぐっと来てしまった。
ラスト、なぜ親に結婚を反対されていたのかという理由が「ユウタが無職だったから」であり、「働こう!」でオチるところは、こんなに壮大だったのにと、いい意味で脱力した。
見終わった後に、「なんだかいいものを見れた」と得した気分になってしまうのはなぜだろう。
内容の馬鹿馬鹿しさに反比例するような、映画的な演出を取り入れているところに、まんまとはまってしまったような気がする。
1st 五組目 ジャルジャル 「キャッチボール」 457点
個人的な大本命のうちの一組、ジャルジャルの登場。
去年のM-1からずっとジャルジャルに心を掴まれっぱなしだったので、手に汗を握りながら決勝進出者発表場面を見ていた。
野球部の新入生でピッチャー志望の後藤さんに、三年で補欠の先輩キャッチャーの福徳さんがピッチングを教えるという内容。
いざ、離れた状態でピッチングをしてみると、熱く指導する先輩の言葉が英語になっている。実は先輩は、日本語で話していても、遠く離れてしまうと、周波数の関係で英語に聞こえてしまうという体質だった。
先輩の話す言葉が、ネイティブ発音の英語にちゃんと聞こえて、しかも何を言っているのか全然わからないというのがシンプルに面白い。多分、英語っぽく言っているだけで、言葉にはなっていないと思うのだが、そのくだらなさがもうたまらない。
そしてちゃんと、新入生が近づいていくとある地点で日本語になっているのが細かくて、感心してしまう。この、日本語と英語の境目で聞こえてくる言葉がまた可笑しみがある。
この体質のせいで、レギュラーになれない先輩に、新入生は対策を考えてみる。まずは、日本語が英語になるのなら、英語を話せば日本語になるのではないかという実験から。
すると、ちゃんと英語は日本語に聞こえる。しかし、それは周波数のせいで直訳にはならず、「天井が、穴だらけで、錆だらけの、一輪車が」という、気持ち悪い日本語になってしまうだけであった。
それならば、中国語で話すとどうなるだろうかと試してみることに。
最初は、ニーハオ、シェイシェイとちゃんと離れても聞こえてきたのに、続けるとそれは「やっぱりもみじ饅頭じゃけど」と中国地方の方言だったというのがオチ。
凝り固まった設定から、シンプルなオチへの落差がまたグッとくる。
ちょっとオチが弱いかなと思ったりもしたけれど、そんなことなんて後々どうでもよくなるくらいに、とんでもなく面白いコントだった。
1st 六組目 どぶろっく 「農夫と神」 480点
森さんのギターの音色が鳴り響く、ミュージカル調のコント。
貧しい農夫は不治の病の母親のための薬を探して、森の中を彷徨っている。そこへ、農夫の行いに心うたれた森の神が現れたが、農夫が望んだのは大きなイチモツだった。
丁寧に丁寧に前振りを行った後からの、「大きなイチモツ」の爆発力たるや。
どぶろっくが出ると聞いた時からある程度の覚悟はしていたけれど、感動的な展開からの「大きなイチモツ」は今大会の最大風速だったのではないだろうか。
神の戸惑いは、「大きなイチモツをください」と繰り返す農夫の合いの手で表れているし、母の命はどうしたと説得しても、「ついでに大きなイチモツをください」と塗り替えられてしまう。
そして、急に曲調と歌い方を変えて、愛の大切さを訴える神。農夫も「愛さえあれば」とともにコーラスするが、結局は「愛や優しさなどクソくらえ」と一蹴する。
呆れて去っていく神を、回りながら農夫が追いかけていくというのがオチ。最後まで「大きなイチモツ」にこだわっていた農夫のくだらなさに笑ってしまう。
しかも、曲がまた耳に残ってしまう。確かに笑いが大きかったし、最高得点が出たのも仕方ないのかもしれないと思う。
1st 七組目 かが屋 「喫茶店」 446点
閉店間際の喫茶店に残る一人の客。大きな薔薇の花束を抱えているが、その表情は虚ろである。
店員が蛍の光を流したり、他の客に閉店の時間を知らせていても、彼にだけ触れられない。人が出ていくドアベルの音に、花束を持った客がとっさに出入り口を見て、落胆するところから、彼は恋人が現れなかったのだということを察することができる。
そこから暗転して時間を遡り、花束を持って来店したばかりの嬉しそうな客の場面、待ちぼうけをしている中で店員からチョコレートケーキのサービスを受ける場面、諦めて帰ろうとするのを店員に説得されて止める場面が、蛍の光の流れる今の状況と挟まれる形でフラッシュバックする。
今の絶望している客の表情が、待ち侘びている時の顔と重なって、切なさと可笑しみが一緒にこみあげてくる。人生は近くで見ると悲劇だが、遠くで見ると喜劇であるという名言を思い出した。
ラストで、客の恋人が現れる。嬉しそうに駆け寄る客に、その後ろのレジカウンター横で、ほっとしたあまりしゃがみ込んでしまう店員。
しかし、恋人は一方的に謝り(ここは客のセリフから推察するしかない)、去っていく。それを追いかける客だが、支払いをしようと店に戻ってきて、「行って! 行って!」と店員に押し出されるように再び駆けていくところで暗転。
いらないものはすべてそぎ落として、本当に描きたい部分だけを表現した、かが屋らしいコントだった。
ネタパレでいつも見ていた彼らの良いところが凝縮されていて、一ファンとしてそれを大舞台で見れたのが満足である。
だが、点数はあまり振るわなかった。確かに、大きな笑いはなかったのだが、彼らの姿勢はもっと評価されてほしいと、わがままにも思ってしまう。
どぶろっくの後ということも多少関係していたのかもしれない。
1st 八組目 GAG 「彼氏への挨拶」 457点
福井の暮らしている家へ、彼女の女性と養成所でコンビを組んでいる男性・坂本が挨拶をしに来る。
市役所勤めの福井は非常にまじめで、坂本へ笑いに関する医学書を贈ってしまうほど。坂本は最初の挨拶で、自分にも彼女がいることを話して、福井を安心させられるくらい気配りのできる男だった。
話の流れで、福井の前で漫才のネタを披露することになった二人。コンビ名は「ブサイクミサイル」で、ネタの内容も彼女のブサイクを思いっきりいじったものであった。
彼女のことを「篠田麻里子似で可愛い」と思っている福井は、予想だにしない全力のブサイクネタに戸惑いを隠せない。さらにショートコントもブサイクをいじるもので、「全部このパターンか!」と思わず激昂する。
真面目過ぎて「かわいい」彼女を愛している福井と、根はいい人だろうけれど彼女のことは普通に「ブサイク」だと思っている坂本のバチバチがたまらない。
そんな二人に挟まれて、彼女は「私はブスで行くの!」「私のブスを認めてー!」と泣き出してしまう。福井は、「お笑いって、異常な世界やな……」と困惑する。
彼女をブスキャラで売ろうとする一方で、実は元関取で百五十九キロから四十九キロになったという坂本のキャラクターは全然活かそうとしないというズレがまた可笑しい。
普段なら、ブサイクをいじるネタで笑ってしまい私だが、ここまでくると完全に福井の気持ちに感情移入していて、応援したくなっていた。いや、彼女はブサイクだと思うけれど。
最後に、実はただの挨拶ではなく、福井をトリオへお誘いするための訪問だったことが発覚するが、福井は「市役所の安定なめんなよ!」と断るのがオチ。
普通に享受しているお笑いの世界の、不可解さを目前に出されたようで、身につまされるネタだった。もちろん、ゲラゲラ笑えるというのが素直にすごい。
1st 九組目 ゾフィー 「謝罪会見」 452点
不倫の謝罪会見に、腹話術師は人形のフクちゃんと一緒に登場する。
テーブルのふちに腰かけたフクちゃんは、腹話術師が謝っている間も瞬きをしたり、首を動かしたりしていたが、とうとう記者からの受け応えにも口を出し始めてしまう。
子供のように、「本当に何もしなかったの?」と無邪気に尋ねるフクちゃん。
腹話術師が「相手女性のマンションには行ったが、何もしなかったんだ!」と弁明すると、「だったら、問題ないんじゃない?」と軽快なメロディーに乗せて断言する。
フクちゃんは、不倫してしまった腹話術師の言葉を代弁するために登場していると分かるのだが、非常に細かく動いていて、居眠りもしだすので、まるで独立した個人のように思えてくるから不思議。
コントの佳境部分で、足を組んだフクちゃんが、記者に対して啖呵を切り出したところでは、完全にフクちゃんの虜になっていた。
記者に対して、「てめぇには関係ねーだろ、すっこんでろゴシップヤローが!」というべらんべぇ口調にはスカッとしたし、立ち上がり詰め寄ってくる記者に「興奮して立つような奴は、馬鹿だ」と言い切る場面は笑いながらも感心した。
ラストは、引退すると言って目を閉じたフクちゃんが、実は寝ていて、呆れた記者たちが帰っていくという脱力系のオチ。でも、暗転の前に「バイバーイ」と観客に手を振るフクちゃんは素直にかわいかった。
「謝罪会見」のコントは色々あると思うけれど、腹話術人形が一つ加わっただけで話が広がっていき、その発想がまず見事。
フクちゃんの、いかにも腹話術人形ですといった見た目と声とで、意外なことを言ってくるギャップはたまらなかった。
1st 十組目 わらふぢなるお 「バンジージャンプ」 438点
彼女に振られたこときっかけに、とあるバンジージャンプを訪れた一人の客。
彼を対応したインストラクターは、ハーネスをつけたらすぐ飛ぶように言ったり、誓約書を後から書かせようとしたり、客をあおったりと、非常に自由な人物だった。
これまで癖の強いコントを見てきた中で、おそらく一番シンプルな、「変な人に普通の人が巻き込まれる」といったコント。
だからこそ、コントの内容よりも、一つ一つのボケとツッコミとで成立させているようで、印象的なボケも多い。個人的に、「負け犬でいいんですか! このままでは勝ち犬に慣れませんよ!」「犬のままじゃねぇか」というやり取りが好き。
後半からは、中々飛ばない客に呆れたインストラクターが、ハーネスをつけずにロープを持ったまま飛び降りて自力で戻ってくるという暴挙に出る。
それから、ロープを先に落として追いかけるように飛ぶ、先に飛んで客にロープを投げてもらうと、彼の行動はどんどんエスカレートしていく。その上戻ってきた途端、「これじゃあ走馬灯は見れないですね」と言い放ち、インストラクターのクレイジーっぷりが際立っていく。
とうとう言い争いをして、客が帰って行こうとするタイミングに、手ぶらで落ちるインストラクターがロープを要求して、また自力で戻ってきた後に、「まだ早いっすね」というのがオチ。
審査員の言葉に合ったように、ちょっと大トリには不向きだったかもしれないのが惜しい。あと、サンドイッチマンのように、わらふぢなるおは漫才コントをしても面白いかもしれないと思った。
さて、十組出そろったところで、点数順で行くと、一位のどぶろっくと二位のうるとらブギーズのファイナル進出は決まっていたが、三位のジャルジャルとGAGが同点なので、どちらが進出するのかを審査員投票で決めることに。
その結果、ジャルジャルが三票を獲得し、ファイナル進出が決定した。
ファイナル 一組目 ジャルジャル 「空き巣」 448点→905点
仕事がいつもより早く終わり、マンションらしき自室でのんびり過ごす住人のところに、ピッキングをして空き巣が入ってくる。
侵入がすぐに気付かれ、「泥棒!」と通報しようとする住人に空き巣は「俺に決まっているやろ」とフレンドリーに肩を叩き、知り合いのふりをしてやり過ごそうとする。
勝手に椅子に座り、「テルハシは?」とあくまでしらを切ろうとする空き巣。すると、住人は「テルハシ知ってんの?」と、空き巣のことを知り合いだと勘違いする。
それから住人は、「中学の時のショウハラや!」と言い出して、あの頃のギャグを振ってくるが、やけくそに空き巣が繰り出したそれも偶然一致していた。
最初は、何とか誤魔化そうと頑張る空き巣の姿と、やけくそが偶然の一致を招いているところに笑っていたのだが、だんだん怖くなってくる。
白髪交じりの住人と黒髪の空き巣が同級生というのも違和感があるし、住人が取り出した中学の卒業アルバムに、空き巣が素のトーンになってしまうほどそっくりな男が写っているのも、空恐ろしい。
すると、突然住人が、ショウハラが来るのを知っていたと言い出し、テルハシとサプライズパーティーを用意していたという。ハッピーバースデーの歌を歌いながら電気を消す住人に、怖くなった空き巣は、自分の正体を告白するが、聞きてもらえず、歌声もだんだん不気味なものになり……
明るくなると、そこは誰もいない、家具もない部屋だった。一人取り残された空き巣が、「あかん、理解できへんわ」としゃがみ込んでオチだった。
後から振り返ると、違和感の塊のようなコントだ。そもそもにして、土足で入ってきて、黒づくめに手袋をしている男を、知り合いだとしても受け入れてしまっている時点で変だ。
住人が何十年も会っていなかった人物のサプライズパーティーをするのも妙だし、ショウハラの訪問を知っているのならわざわざテルハシに電話で確認をとる必要もないような気がする。
点数は振るわず、それもまたしょうがないのだとはわかっているけれど、個人的には今回のKOCで二番目に好きなコントである。
空き巣を懲らしめるために現れた幽霊説とか、空き巣が「ショウハラ」として存在しているパラレルワールドだった説など、いろいろ考えてしまう。
ファイナルステージ 二組目 うるとらブギーズ 「実況中継」 463点→925点
サッカーの解説席。実況と解説の二人が、これから行われる日本対サウジアラビア戦がどれほど大事で、見逃せない試合なのかを語っている。
日本の新監督について、共に食事へ行く仲である解説者が彼についてのエピソードを笑いながら話している間に、キックオフしてしまう。
日本代表のサッカー試合、「見逃せない戦い」というのが前振りとなって、ただひたすらにくだらない話をしている間に、重要な場面を見逃してしまう実況席というコント。
昼休みの男子高校生のようにはしゃぎながら話している二人の声と、突如張り上げる「ゴーーール!」の声、「見逃していました」という反省の色と、誰がゴールしたのかを選手の喜び方から見極めようとする様子など、くだらなさが根底に流れている。
とうとう、試合を実況解説することよりも、重要な場面を見逃さないようにすることへと目的がシフトしてしまい、敵チームのサウジアラビアのゴールも見れたことに大喜びしてしまう二人。
しかし、それがオフサイドでノーゴールと分かった途端、大きく落胆してしまうのがオチ。
見逃すきっかけになった話の内容も、「解説者が出ていた試合が大雨で、乳首が透けていたのかどうか」「サウジアラビア代表選手の頭文字を合わせると『おはよう』になる」という、くだらなさの頂点みたいなものだ。
それを笑いながら、本当に楽しそうに話している二人の姿が何とも微笑ましい。ゴールと嘘を言って相手を騙そうとするくだりも、まるで親友同士のように、自然だった。
ファイナルステージ 三組目 どぶろっく 「金の斧」 455点→935点
こちらも、森さんがギターを弾きながら歌うミュージカル調のコント。ただし、今度は森さんが山男役になっている。
池に鉄の斧を落としてしまい、悲しむ山男とそこへ金の斧と銀の斧を持って現れた池の神。セオリー通りに正直に答えた山男に感銘を受けた池の神は、彼に「大きなイチモツ」を与えようとする。
はっきり言って、立場は変わっているが、1stの天丼である。
何かにとりつかれたように、「大きなイチモツ」を与えようとする池の神に、山男は困惑して、生活に必要だから鉄の斧を返してほしいと訴えるが、聞き入れてもらえない。
呆れて山男が帰ってしまい、我に返った池の神は「シモのことばかり囚われて……」と斧で自身のイチモツを切り取ろうとする。
そこへ戻ってきた山男。「見栄を張っていました」と、「大きなイチモツ」の見積もりを池の神に聞いているところでフェードアウトしていく。
最終的に「大きなイチモツ」が与えられるという展開になっているので、1stの時よりも馬鹿馬鹿しさはパワーアップしているのかもしれない。
レポートのために二回見たが、それでもしっかり笑うことができた。やっぱり、下ネタは強いし、あのメロディーと美声は耳に残る。
さて、今年の優勝者は、上記の点数に表したように、二位に十点の差を開かせたどぶろっくだった。
確かに、どぶろっくは面白かった。すごく笑ったし、彼らには素直におめでとうと言いたい。
しかし……しこりがないと言えば嘘になる。
去年のハナコの二本目を見たとき、笑いながら胸が熱くなった、あの興奮が無かったからだろう。
まあ、これも、私が好きなコント師たちが結構序盤で落ちてしまったからというのもあるかもしれない。ファン心理は自分自身が振り回されてしまうほど複雑だ。
今回戦った全組の健闘をたたえて、彼らのさらなる飛躍を祈りたい。
……ついでに、来年からは決勝進出者はシークレットにならないでほしい。あれは心臓に悪すぎる。
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