第42話
一週間後…。
「風花…お前はこれからどうするんだ。」
スーツとマスクを脱ぎ、風花さんは窓辺に腰をかけ、外の星を眺めている。
私も風花さんと同じように窓の外の星空を眺める。
外の星空はとても綺麗にキラキラと輝いていた。
「そう…ですね…。あの人は最後に私に生きろと言いました。だから…私は…私なりに頑張って自分の生き方を見つけようと思います。」
「それじゃ…もうお前とはお別れなのか…。」
「いえ、しばらくはまだこちらにいますよ。美樹が自分の身を守れるようになるまでは私が彼に変わって美樹のことを守りますから。」
風花さんはそう言うと私の方をチラッと見つめると微笑み、そしてまた窓から星を眺めていた。
「そうか…それはとても助かる…。この国から逃げ出すにしてもまだまだ時間がかかるからな。」
逃げ出す…。
あれから私達はジョウと風花さんと話し合い、インビンシブルから逃げることに決めた。
私達では、インビンシブルには敵わない、それならもうこの国から逃げ出す。
それがジョウの意見だった。
ただ…私はあまり納得がしてない。
だってその行為は私達の負けを認めたようなものだから。
おじさんはあの時に言っていた。
まだ死んじゃいない、生きている限りお前の邪魔をしてやるって。
私はまだ死んではいない。
まだ生きているんだ。
それなら、私もおじさんと同じようにインビンシブルと戦うべきなんじゃないのかな。
けど…きっとそれはジョウや風花さんは認めてくれない。
そんなことをしてしまえばおじさんは何のために美樹のことを守ってきたのか分からなってしまうから。
そんなことは分かってる。
だけど美樹は悔しかった。
心やおじさんはインビンシブルの所為で死んだんだ。
美樹を守るために命をかけて戦い続けたんだ。
それなのにこのまま美樹は何もせずに逃げ出していいのかな…。
「…美樹…どうしたんだ?」
ずっと黙って星を眺めている私を心配そうにジョウは見つめると私に話しかけてきた。
どうしようかな…美樹の意見を言うべきかな。
そんなことを今の美樹のは考えていた。
だけど…言葉にすることができずに。
「何でもないよ。」
と言ってしまった。
「そうか…少し…休んだらどうだ。最近、あまり眠れてないんだろ。机の引き出しに薬があるからそれを飲んで休んでこい。」
「うん、そうするね。」
無理矢理に笑顔を作ると引き出しの中から薬を取り、部屋へと戻る。
ジョウが言うには気持ちが落ち着いて眠りを誘う効果がある薬らしい。
けど、美樹は知ってる。
これはただのラムネだ。
薬でも何でもない。
ラムネを口の中に放り込み、ベッドに横になる。
ラムネの甘さが口の中に広がる。
懐かしい、あまり最近はこういった駄菓子というものを食べてこなかった。
小さい頃は心がよく私に駄菓子を買ってくれていた。
あんまり食べすぎると虫歯になると脅され、あまり食べさせてはくれなかった。
あの頃が懐かしかった。
あの頃は力なんかなく、手の甲にもこんな痣なんかなかった。
「もし…美樹が生まれて来なければ…こんなことにはならなかったのかな…。」
一人、部屋の中で呟いた。
『そんなわけないだろ。お前がいなくても結果は変わらん。俺は彼奴を倒すために同じことをしただろうし。だから…そんなことを考えるのはやめろ』
そんな言葉が頭の中で聞こえた。
きっとおじさんなら今のような言葉を言ってくれる。
おじさんはとっても厳しい人だった、けど、優しい人でもある。
美樹にとっておじさんは自慢のお父さんだ。
そんな言葉をちゃんと伝えてあげたかった。
だけど、もうそれは叶わない。
今、思えば他にもたくさん言いたいことがある。
「どうして…おじさん…帰ってきてよ。」
おじさんのことを考えると感情が不安定になり、思わず泣いてしまった。
しばらく、一人で泣き続けていると部屋のドアノブが回る音が聞こえ、誰かがベッドに腰をかけた。
その人は私が泣いているのに気づくと優しく頭を撫でてくれる。
「美樹…。」
私の頭を撫でていてくれたのは風花さんだった。
風花さんの手の感触が私の頭に伝わる。
少しひんやりとした金属の腕。
この腕はジョウが風花さんのために作ったものだと言っていた。
私が過去を変えたために風花さんは酷い目にあったというのに、どうしてここまで私のことを慰めてくれるのだろう。
「貴方の…おじさんはとても勇敢な人でした。たった一人でインビンシブルと立ち向かい、未来さんを救った。それは決して他の人にできることではありません。彼だからこそできたんですよ。貴方はその人の血を流している。私にはそれがとても…羨ましいです。」
「……。」
「ジョウから聞いたのですがあの人は力があったみたいです。未来さんが亡くなった時に宿したものだと言っていました。けど、あの人はその力をあの時、以外決して使わなかった。本当にあの人は強い人です。」
そうだったんだ…。
おじさんは力を持っていたのに一度も使わなかった。
使ったのは不甲斐ない私たちを助けるため。
力を使わせてしまった私は本当にどうしようもないほど惨めだ。
「美樹、貴方の考えていることはわかります。正直、私は止めるべきだと考えました。ですが…やっぱりこのまま終わるわけには行きませんよね。私もきっと貴方と考えることは同じです。多分…私だけじゃない…ジョウも同じ気持ちでしょう。貴方がもし…それを望むのであれば…私としたジョウは…協力をします。」
風花さんはそう言うと部屋を出て行った。
どうやら美樹の考えが全部バレていたみたい。
けど、正直、驚いた。
風花さんは絶対に美樹を止めると思ってたからだ。
あんなことを言われてしまえばもう考え悩むことはない。
私はやりたいことをする。
きっとおじさんはそんなことを望まないのはわかってる。
だけど、このままじゃ終われるわけがない。
私は起き上がると部屋を飛び出し、二人の元へと走り出す。
やるんだ…美樹が終わらせるんだ。
今度は負けない。
どれだけ時間がかかったとしても絶対に…。
美樹は…。
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