第41話

「車は何処ですかっ!!!」

「えっと、あっちだっ!!!」

ジョウの指を指す先には小さなカブトムシみたいな車が停められている。

私達は必死に車まで走ると急いで車へと乗り込んだ。

「早くっ、車をっ!!!」

「分かってるっ、あんまり急かさないでくれっ!!!」

二人は前の座席でテンパりながら車を動かそうとしていた。

だが、後ろから突然、物音が聞こえ、瓦礫が投げつけられる。

風花さんはそのことに誰よりも早く気づくと窓から体を出し、瓦礫に向かって指を鳴らす。

すると瓦礫は車の元へと届く前に爆発した。

「くっ…。」

爆発した瓦礫の破片が車へと飛んでくる、屋根からゴンッと音がなり、瓦礫が当たったようだった。

だがそのおかげか分からないが車のエンジンが動き出し、ジョウはすぐに車を走らせる。

「奴はどうだっ?」

「こちらへ追いかけてきていますっ、このままでは……。」

後ろを覗くとインビンシブルがこちらを追いかけてきていた。

その姿からはホラー映画の殺人鬼のような恐ろしさを感じる。

せっかくここまで来て、助け出すことができたのに…このまま…じゃ捕まっちゃう。

力がうまく使うことのできない私ではどうしようもなかった。

こんなに凄い力があったとしてもうまく使うことができないのならば…何の役にもたたない。

一生懸命に風花さんがインビンシブルの邪魔をしているがそれでもインビンシブルは止まらない。

あと少しでインビンシブルが車へと追いつく、その時だった。

突然、建物の瓦礫の下から鉄の塊がインビンシブルへと飛んで行く。

インビンシブルはそのことに気づかず、後ろや横から鉄の塊によって動きを止められた。

「なっ…何が起きて…。」

みんなが後ろを振り向いて何が起きているのか確かめようとしたその時だった。

私は横から伸びる腕に目を取られる。

「そん…な…おじさん…。」

インビンシブルの動きを止めたのはおじさんだった。

おじさんは力強く目を開けながら、必死にインビンシブルの動きを抑えている。

「は…やく…行け。馬鹿…野郎どもが…。」

みんなはその姿を見て涙を流していた。

おじさんはまだ死んではいなかった。

助かっていたんだ。

誰もがその時はそう思っていた。

だけどそれは違う、おじさんは最後の力を振り絞り、馬鹿な私達を助けてくれたんだ。

「まったく…騒々しいから…目を開けてみれば…どうしてここへ…来たんだ…。」

「決まってるだろ…お前を助けに来たんだ。」

ジョウは車を走らせながら鼻声でおじさんに喋っていた。

本当は車を止めてすぐにでもおじさんの体を支えてあげたかったんだと思う。

「助けに…なんか…くるな…と言いたいところだが……最後に…お前らの…元気そうな顔を見て…安…心したよ…。生きて…いたんだな…。」

「ええ、ちゃんと助けました。だから、貴方も頑張って下さいっ。もうすぐで病院につきますからっ!!!」

「馬鹿…だなぁ。自分の…最後ぐらい…俺…にもわかる…さ。俺はもう……助かっ…らん。」

「そんなことを言うなっ、お前はまだ死なんよっ!!!絶対に私達が助けるから…だから…死ぬんじゃない…。」

おじさんはジョウの言葉を聞くと鼻で笑う。

こんな時でもおじさんは変わらない。

「そうは…言われても…さ。もう…無理っぽい…ぜ。なんて言ったって…体が…動かねーんだから…。」

「大丈夫だから…死んだらダメだよ…おじさん。」

何が大丈夫なのか美樹には分からなかった。だけど美樹にはそんな言葉しか思いつかなかったんだ。

「ったく…泣くんじゃ…ない…。」

「無理…だよ…。だって…おじさんが…。」

「別に…これで…いいんだよ。俺は…もう…思い残すことなんか何も…ない…。ジョウや…風…花…それから美樹の…お前達の顔が……こうしてまた…見ることができたんだから…な。」

「ぐぅ…馬鹿…者…。これからももっと私達のそばにいろよっ。私達にはお前が必要なんだっ。だから…だから…約束をちゃんと守れっ!!!」

「悪いが…それは……無理だ。いいか…ジョウ…お前に美樹…のことを託したから…な。絶対に…生き延びろよ…。」

「……うぅ…分かってる。だから…死ぬなよ…。」

おじさんは最後の言葉を私達に伝えようとしていた。

私達はその言葉を聞き逃さないように耳をたてる。

「風花…お前は…もう過去に…囚われるな…お前には…お前の生き方がある…。あいつと…先生と…一緒に強く…生きろ。お前とも…約束していたが…それはもう守れん。悪かったな…。」

「……はい…。」

おじさんの言葉を聞いた、風花さんは苦しそうに胸を押さえていた。

本当はジョウと同じで風花さんも別れたくはないと思う、だけど風花さんはおじさんのことを心配させないように強がって見せていたんだ。

「最後に美樹っ…お前は…もっと……力の使い方について…考えろ。お前の母さん…未来が……そうだったように…。間違いだけは…起こすんじゃない。お前はまだまだガキなんだ…だから……もっと人を頼れ。ジョウや風花は…信用できる奴らだ…だから…こいつらに相談しろ…分かったな。」

「うん…うん…。」

きっと今の美樹の顔は相当酷い顔になっていると思う。

涙や鼻水でぐしゃぐしゃになってて他の人にはとてもじゃないけど見せられない顔だ。

けど、そんなことは関係なかった。

血は繋がっていなくてもおじさんは美樹にとって最高の父親だ。

その人のために美樹はこんなにも涙を流している。

「まったく…みんなして酷い顔しやがって……けどまぁ………ありがとな。」

おじさんはそう言うと微笑みながら動かなくなった。

目を閉じ、口を閉じ、体の力が抜けていく。

「ダメ…おじさん…起きて…起きてよ…。」

おじさんにはもう美樹達の声は届かなかった。

美樹や他のみんなは声を押し殺しながら涙を流す。

きっと相当酷い目にあっていたのだろう。

身体中を傷だらけにし、アーマーはボロボロになっていた。

美樹を守るために…。

私はおじさんに手を伸ばす。

まだ…力を使えばおじさんは生き返る。

そんなことを頭で考えていた。

だけど、すぐに風花さんに止められた。

「美樹…辞めなさい。」

私はまた過ちを繰り返してしまいそうになった。

無力だ。

こんな力があっても誰も助けられない。

本当に無力だった。

おじさんはみんなを守りやために戦い…そしてみんなに見守られながら静かに息を引き取っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る