第39話

「そんなものでこの私がどうにかできるとは思ってもいないだろうに。」

思ってなんかいない。

正直、ただの威嚇みたいなものだ。

それでも使わないよりはマシだろう。

銃は大きな発砲音を鳴らしながら弾を撃ち出していく。

自分へと飛んでくる銃弾へ目を向けるとインビンシブルは避けようともせずにまっすぐへとこちらへと歩いてきていた。

そして銃から放たれた銃弾はインビンシブルの体へと当たる。

だが、奴はビクともせずに歩き続けていた。

そして、弾を撃ち尽くした頃には奴は俺の目の前に立ち、俺のことを見下ろしている。

「これで終わりではなかろう。」

本当に腹のたつ目をしてやがる。

「当たり前だろうが…。」

俺はそういうと空高く飛び上がり、全体重を乗せた拳を奴の頬へと打ち込んだ。

だが、奴は物ともせずにこちらを睨んだまま、動こうとはしなかった。

「貴様に本当の力というものを教えてやろう。」

そういうと奴は拳を握り、腰を低くすると俺へ思いっきり拳を振りかぶった。

奴の大きな拳は俺の右腕に打ち込まれ、俺は体ごと壁へと吹き飛んでいく。

「がっ…。」

思わず、そんな言葉が口から零れ落ちた。

たった一撃で全てを折られていく。

腕の骨や身体中の骨、それだけじゃない。

心までもが折られていく気がしたんだ。

奴にとってその一撃はしょうもない…腕慣らしの一撃だったのかもしれない。

だが、それでも充分と言えるほどの重さを俺は感じ取ってしまった。

「ぐっ…がっ…。」

息を吸うことも吐くこともできずに俺はただ、言葉にならない声を口から漏らすことしかできなかった。

「…樹様…夏樹様っ!!!」

耳元から俺の名を呼ぶ声が聞こえる。

「次の攻撃が来ます。備えて下さい。」

備えるったって…体が…動…かん。

「アシストモードを起動します。」

ゴーグルのレンズにassist modeと文字が現れ、体が勝手に動き出す。

ブーツのブースト機能が発動し、俺の体は横へと飛んでいく。

その瞬間、俺のいた所にはインビンシブルが拳を打っていた。

ドォォンッと大きな音が部屋へ響き渡り、地面が揺れる感覚がする。

「どうした、まだ私は一撃しか入れていないぞ。」

奴は俺のことを挑発して来たが俺はそれどころではない。

ここに来るまでに様々な作戦を考えていた。

だが、その全てが奴には効果がないことだと改めて痛感する。

どうすれば奴に勝つことができるのか…。

どうすれば奴を苦しめることができるのか…。

その答えは一つしかない。

「はぁ…はぁ…凛…動かなかくなった右腕を…お前が動かしてくれ…。」

「分かりました。」

右腕の感覚があの一撃を受けてから無くなっている。

もう俺には自分で右腕を動かすことはできない。

それならば凛に頼むしか他に方法は思いつかなかった。

「弱い…弱すぎる…よくもまぁ、そんな半端な強さでこの私に挑んできたものだよ。それでは私に傷一つつけることなどできないだろう。」

「黙…れっ。俺は…まだ…死んじゃ…いねーよ。」

強がりはしてみるが…体は今の一撃でボロボロだ。

だが、まだ死んではいない。

まだ俺は生きている。

それなら…まだ戦える。

必死に自分にそう言い聞かせ、最後の力を振り絞る。

幸い、今こうして生きていられるのはジョウの作ってくれた、このアーマーのおかげだ。

防御力に特化したこのアーマーのおかげでこうしてまだ辛うじて生きていられている。

だが、既に今の一撃でアーマーは役目を果たし、ボロボロの状態になっている。

俺はアーマーを体から剥がすと左の拳に力を入れる。

そして構えをとった。

右腕は凛が俺の考えの通りに動かしてくれている。

「今の一撃でお前の心を折ったつもりだったが、まだ拳を構えるか…もういい加減に諦めろ。お前じゃ私には勝つことはできない。」

「俺はまだ生きているっ、死んじゃいないんだよ…。俺は決めたんだ…生きている限り…お前の邪魔をするってなっ!!!」

「だったら、もう二度と私の前に現れることがないように息の根を止めてやろう。」

来る。

奴は拳を構えると一瞬で俺の目の前に現れた。

そして、その拳を俺に向かって振りかぶる。

俺は咄嗟にしゃがみ込むと奴の懐を抜け、後ろを通り抜ける。

そして振り向きざまに奴の背中へ手榴弾を投げつけた。

「ぬっ…。」

大きな爆発音が鳴り響き、俺の体は爆風によって反対側の壁へと飛んでいく。

凛のおかげでなんとか態勢を整えつつ、地面に着地するとすぐに奴の方へと走り出す。

「インビンシブルーーーーーっ!!!!」

叫びながら奴の元まで移動すると地面を蹴り上げ、高く飛び上がる。

そして、体を回転させるとブーツのブースト機能を発動させ、勢いをつけ、奴の顔面へと蹴りを繰り出した。

俺の蹴りは奴の顔面へと直撃し、ドンッと音が鳴るとインビンシブルは片膝を地面へとつける。

「ぐっ…。」

不意に奴の口からそんな言葉が聞こえた。

俺の攻撃が初めて奴へと効いた。

奴の一撃と比べるとあまりにもしょぼい一撃だが、それでも俺には充分手応えを感じることができた。

「どうした、傷一つつけれないんじゃなかったのか?」

インビンシブルは自分の口元を手で拭うと血が流れていることに気づく。

「…貴様っ…図に…のるなよ。」

小さな声でインビンシブルが呟くとこちらへ向かって距離を詰めて来ている。

「凛っ!!!」

凛の名を呼ぶとすぐに右腕が動き出し、腰につけていたスモークグレネードのピンを外した。

そして地面に落とすと、スモークグレネードはシュッーと音をたて、煙をあげる。

俺はその煙の中に姿を隠し、次の行動に移った。

「小賢しい真似をっ!!!」

煙の中からインビンシブルの声が聞こえる。

奴の視界からは俺の姿は外れたようだ。

俺はまだゴーグルの機能で奴の居場所が分かっていた為、奴の元へと静かに近づいていく。

そして、俺は拳を固く握り締め、奴のみぞおち、顎、こめかみなどと急所を狙って拳を打ち込んでいく。

凛の助けもあってインビンシブルの反撃を受けることはなく、次々と拳が打ち込まれていく。

俺の攻撃を受けながらインビンシブルは体を丸め、両手を盾にし、姿勢を低くすると亀のような態勢へと変わる。

どうやら煙で何も見えない状況を見て反撃をやめ防御に徹することにしたようだった。

そのせいでこちらの攻撃も大したダメージを与えることができなくなってきた。

だが、俺は奴の正面へと移動すると手榴弾のピンに親指をかけ、奴の元へと走り込む。

そして奴の両手の間に拳を突っ込み、手榴弾のピンを抜き、奴の元からすぐに離れた。

その瞬間、奴は手榴弾の爆発により体を後ろへと仰け反らせる。

これを好機と見た俺はそのまま奴へと拳を浴びさせる。

もしかしたらこのままこいつを倒すことができるかもしれない。

一瞬、そんな考えが頭をよぎったが、その考えはすぐに打ち砕かれた。

インビンシブルは打ち放たれた俺の左手の拳を掴み、受け止め、そして握り潰したのだ。

「ぐっあっ!!!」

骨が一瞬で砕かれていった。

奴の方を見ると奴は口や鼻から血を流し、俺の目をまっすぐに睨みつけていた。

そして、一言。

「お前の負けだ。」

そう言い放つと、俺の体に重い一撃を打ち込んだ。

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