第38話

目の前いる男はインビンシブルと容姿や声などは同じはずなのにどこか別の人物に見える。

まるで人が変わったかのように清らかな目でこちらを見ている。

だが、その目が俺には狂気を感じさせた。

「話なんてする必要はない。俺は未来を解放させるだけだ。」

「そうか…だが私はお前と戦う気などない。お前と同じで私も未来を救えればそれでいいんだ。」

どの口がそんなことを言えるのか。

こいつは心を俺達の仲間を危険にまで追いやったのに。

「未来を救うだと…お前のやろうとしていることは救済なんかじゃない。ただの冒涜だよ。」

「私は彼女の眠りを覚まそうとしているだけだ。それがどんな方法であれな。君こそ、兄ならば彼女を助けるのを手伝うのが義務なのではないのか。」

「未来はもう死んだんだ、ならば彼女のために祈ってやるのが俺達のやるべきことだろうがっ。」

「何を言っている…未来はこうして生きているじゃないか。」

こいつは何も分かってない…いや違うのか、分かっているが心ではそのことを受け入れてないんだ。

「ジョウから聞いたよ…お前が未来のためにその機械をジョウに作らせ、必死に未来を助けようとしていることを…。」

「っ…。」

「火傷や瓦礫でボロボロになった未来をお前はシルバートゥースに頼んで元の姿へと戻した。だが…いくら容姿を元に戻したところで未来は息を吹き返すことはない。そんな機械で心臓を動かし、彼女の生命を維持させようとしていることも全部聞いた。けど…それは全部無駄なんだ。未来は死「死んでなんかいないっ!!!!!彼女は今は眠っているだけなんだっ、ちゃんと見てみろっ!!!!」

こいつは過去に囚われている。

未来の死を乗り越えることができなかったんだ。

自分の犯した過ちに気づき、こうしてしがみついている。

「いいや、死んでるんだよ。お前が未来を殺したんだ。あの時のあの戦いは全てお前が仕組んだものだった。何故、そんなバカなことをしたのかは俺には分からん。ただ一つ言えることはお前が…未来を…苦しめたんだよっ。」

「違う…私じゃない…私はただ…。」

ここにくるまでの道のりでジョウが全てを教えてくれた。

未来を閉じ込めているあの機械はジョウが作り出したものだった。

薄れゆく生命を押し留める機械。

ジョウは奴からこう言われたらしい。

『死にかけている女性を助けて欲しい」

と、ジョウは今まで悪さばかりをしてきた。

だから、ここでその彼女を救い出し、世間から認められる存在になりたかったらしい。

そして機械を作り出す前にどんな状態なのか確かめる必要があったらしく、未来の姿をその時に初めて見た。

未来はとても綺麗な状態だったが…その時には息絶えていた。

それでもジョウは断らずに未来の心臓を動かすための機械を作り出す。

そして出来たものがあの機械だった。

その時はまだ未来が俺の妹だとは知らず、後から俺の妹だということを知った。

ジョウは今でもそのことを後悔している。

あの機械を作らなければこんなことにはならなかったと。

そして、未来さんを苦しめるようなことをしてすまなかったと俺に謝っていた。

確かにあいつのやったことは許されるべきではない。

だが、俺は彼奴には何の怒りも感じず、彼奴を許すことにした。

全ては目の前にいるこの男の所為なんだ。

ジョウはそれに巻き込まれただけだ。

「全部、お前の所為なんだよ。」

「黙れっ!!!!!」

インビンシブルは咆哮のような怒鳴り声で叫ぶ。

あまりの大声に俺は耳を塞いだ。

「何で…分からないんだ…。未来はまだ生きている…助けることができる。間違ってるのは彼奴らの方なんだ。私は何も間違ってない…何も…何も…。」

念仏のように唱えるとインビンシブルはモニターへと指示を出す。

「ストーン…今すぐに美樹をそこから連れ出せ。邪魔をする奴は殺せ。」

「やめろっ!!!」

俺はやめるように叫んだがストーンは笑みを浮かべるとボルトへ指示を出す。

ボルトはめんどくさそうに返事をしながら仲間を引き連れながら二人の隠れている屋敷の中へと入っていく。

「ジョウっ、聞こえるかっ。今すぐにそこから逃げろっ!!!」

ジョウからは返事が返っては来なかった。

必死に頭の中を張り巡らせて打開策を考えるがここからでは何もしようがない。

考えろ…何か方法があるはずだ…。

モニターから爆発音が聞こえ、俺はすぐに顔を向ける。

中から飛び出してきたものはボルトではなく、意外な人物だった。

「全く…病み上がりだというのに現役のヒーロー二人を相手にしなければならないとは…私も運がありませんね。」

中から出てきたのは義手のような腕をつけ、いつものマスクをはめた風花だった。

だが、病院にいた時とはまったく様子が違う。

「夏樹、聞こえますか。ここにはもう二人はいません。二人は遠くへと逃しましたから。ご安心を。」

「テメっー誰だっ!!!」

「名乗るほどのものじゃありませんよ。」

風花はそういうと指を鳴らす。

その瞬間、モニターの画面は真っ暗な画面へと切り替わった。

何故、彼女が声を出せるようになり、腕が付いているのかは分からないが助かった。

「それで…次は何をするつもりだ…。」

「ふふっ…ふふははっ…そうか…そんなに邪魔をしたいのか…。それならば…もう貴様と話すことはない。貴様を殺した後に美樹を取り戻し、未来を取り戻せばいいだけの話だ。」

「…俺の言った通りだろ…話し合いなんてものは必要ない。結局はこうなる運命だったんだよ。」

俺は背中から銃を取り出し、インビンシブルへ構える。

そんな俺を見たインビンシブルは溜息を口から漏らすとゆっくりと近づいてきた。

俺達の最後の戦いが始まろうとしている。

泣いても笑ってもこれが最後だ。

引き金にかける指に力が入る。

そして今、俺とインビンシブルは激突した。

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