第25話
薄暗い廊下の中を歩いて行く。
さっきから誰かに見られているような視線を感じていた。
視線の正体は分からないがずっと後をついてきている。
そして不気味な長い廊下を歩いて行くとひらけた場所へと出てきた。
扉は外され、中には複雑な形をした機械が転がっている。
そして中央には老人が立っていた。
「久しぶりね、シルバートゥース。」
心は目の前にいる老人へと話をかけている。
どうやらあれがシルバートゥースらしい。
「ほっほっ、久しいな。それで……何をしに?」
シルバートゥースはニッと歯を出して笑い出す。
老人の歯は銀色に光り輝いている。
あの光り輝いている歯が名前の由来らしい。
「インビンシブルを倒したいの。その手助けをしてほしい。」
心の言葉を聞いた老人は口を閉じるとあご髭を指でなぞる。
「インビンシブル…かそれならば協力をしよう。」
老人は悩むことなく即答する。
「ありがとう。」
正直、それでいいのかとも思ったが、それで話が収まるのならば他に言うことはない。
「それで何をしてほしいんだ。ここには様々な道具があるが。」
「超人薬…がほしいのよ。確か作ってたはずよね。」
「超人薬だと……あれはダメだっ。あれはあの方への贈り物なんだっ。だから…。」
「忘れてないわよね…貴方の娘を助けたのは…誰だったかを。」
「…ふ…む。だが…あれはマインドじゃ、扱えない。あれは力を持たぬか弱い人間を強化するために作ったものだ。」
「その人間なら後ろにいるわ。彼なら問題ない。なんせ力なんて何も持っていないんだから。」
二人は顔を俺の方へと向けてきた。
そして、老人は俺の方へ近づくと体をペタペタと触り始める。
「ふむ…歳は30後半…体の基礎は出来ているが……ちと物足りないのぅ。問題は中身の方だが…。」
「さっきから何を言っているんだ。超人薬ってどう言うものなんだ。」
老人は俺の体から離れると机の引き出しを開け、中を探って何かを探している。
心も何も言わずに老人の手助けをしていた。
「…あったあった…動くなよ。」
そう言うと老人は銃のようなものを俺の方へと向け、引き金を押す。
すると銃からピピっと音がし、大きなモニターへ体が映し出された。
「…なるほど…問題はなさそうだが……肺が汚れているな。タバコは控えておけ、これから邪魔になる。」
「それで、どうなの?」
「この男なら問題はないが本当に使うのか?もしかすると耐えられなく死ぬかもしれんぞ。」
「……どうする?」
心は首を傾げながら訪ねてきた。
どうすると言われてもこれじゃ、判断できない。
「いや、説明をしてくれ。じゃなきゃ、判断のしようがないだろう。」
「……まったく、男ならハイかイエスかで答えろ。この薬はな、力を持たぬ人間の体の身体能力、五感を著しく発達させるものだ。本来、人間は100パーセントの力を出すことができないからな。この薬はその自分が出せる力を最大限…つまり100パーセントいや…それ以上の力を引き出してくれる。だが、もちろん、タダでその力が手に入るわけではない。その力を出すために何かを犠牲にしなければいけない。」
「犠牲するって…何を。」
「それは分からん。ある者は言葉を失い。ある者は顔に火傷の跡が浮かび上がり醜い姿へと変わっていった。バラバラなんじゃよ、何が起きるかは。」
つまり、力の代償に体の一部に何かが起きると言うことか。
運ゲーだな。
「その薬を使えば…彼奴を倒せるのか?」
「もちろん、それだけの力は手に入れることができる。お主が…やろうというのならだが。」
どうせ、あの時に命を投げ出した身だ。
彼奴に一泡吹かせることができるのなら俺は。
「やるよ、それを使う。」
覚悟は決まっている。
「そうか…それならはそこに寝ろ。今すぐに始める。」
シルバートゥースが指指した先には血で赤く汚れた診察台のようなものだった。
俺はそれを見て少し不安になるが大人しくうつ伏せで診察台へと寝転んだ。
「…バカか…仰向けだと分からんか。」
だったら最初からそう言えよ。
と心の中で呟く。
その様子を見て心は少しクスッと笑っていた。
「さてと……分かってると思うが、もし…失敗しても儂は責任を取らんからな…。」
「分かってる。早くやってくれ。」
シルバートゥースは頷くと機械のスイッチを入れた。
ゴォォッと機械から音が聞こえる。
すると俺の体を鉄で出来た仕掛けが抑え込む。
そして、俺の口にも猿轡のようなものがつけられた。
覚悟は決めた。
だが、それでも恐怖心というものは現れる。
首元へいくつもの注射器が近づいてくるのが見える。
注射器は俺の首元へ刺さる前に一度止められた。
「最後にもう一度…覚悟はできてるか?」
俺は力強く頷く。
「…分かった。それならば…しばしの間、お別れだ。」
そんな言葉が聞こえた途端、首元へと注射器が差し込まれた。
どうやら見えなかっただけで体の隅々に注射器が刺されているようだ。
チクチクッと体の隅々が痛み、そして超人薬が体へと流れ込まれていく。
「ぐっ…がっ…あぁぁあっ!!!!」
身体中をとんでもない痛みが走る。
痛みだけじゃない、体が熱い。
「……耐えなさい…彼奴を倒すんでしょ。」
心の声が聞こえるがその言葉に返事を返す余裕などなかった。
「はっはっはっはっはっはっはっはっはっっ…。」
身体中の痛みや熱に耐えられずに心臓が根を上げてしまっているのがわかる。
発作を起こし、今の俺の顔はとんでもないほど酷い顔をしているだろう。
「おい…これはどういうことだ…こいつは…ただの人間なんじゃなかったのかたっ。」
「ごめんなさい…嘘をついたわ。彼は……。」
次第に二人の声も聞こえなくなってきた。
あと少しで楽になれるかもしれない。
俺が生きようとするのをやめればこの苦痛から解放される。
だが、頭の隅から未来の姿が浮かんできた。
未来は膝を抱え、一人で泣いている。
「助け…てお兄ちゃん。私をここから…出して…。お兄ちゃん…。」
未来はそう言うと姿を消した。
そして今度は美樹の姿が浮かんできた。
「おじさん…ごめんなさい…まさか…こんなことになるなんて…本当にごめんなさい。」
二人は泣いていた。
彼奴等を助けることができるのは俺だけだ。
そして美樹の姿が消えると今度は見たことのない顔に酷い火傷を負った少女が姿を現した。
「……夏樹…私を…一人にしないで…。」
確かにこのまま死んでしまえば楽になれるかもしれない。
だけど…俺には彼奴ら…家族を置いて死ぬことなんか出来ない。
「まったく…目を覚ましてくれよ。じゃないと僕の仇も取ってもらえないだろ?それにあの子達だって苦しめられたままだ。そんなの可哀想だろ?夏樹…いや、リーダー…君は起きなきゃ、まだ死ぬには早すぎるよ。だから、目を覚ますんだ。折角、命をかけてあの子を助けたんだ。あの子のこともちゃんと見てやれよ。ねっ…リーダー。」
(そうだな…お前の言う通りだ。このまま死んだら、彼奴らに合わせる顔がない。だったら、目を覚まさなきゃな。)
「何が…起きてるんだっ!!!」
「…やっぱり、貴方ならやれるって信じてたわ。さぁ…起きなさい。夏樹っ!!」
身体中から力が湧いてくるのがわかる。
俺は目を開けると体を縛り付けている鉄の仕掛けをぶち壊し、体を無理矢理起こし起きた。
「はぁ…はぁ…はぁ…。」
まるで自分の体じゃないみたいに体が軽い。
今ならなんでも出来そうな気がする。
「これは…驚いた。まさか…もう一人…あの超人薬と適合する人間がいたとは…。」
「……心…俺は…変わったか?」
「ええ、いつもよりもめちゃめちゃカッコよくなったわよ。」
診察台から降りると鏡の前へ立つ。
するとそこにはいつものようなだらしない体をした中年の体ではなく、ガチッとした筋肉に体を包み込んだ男が立っていた。
「俺は…どうしたらいい。教えてくれ…次に相手をするのは何処のどいつだ。」
今ならなんでもできる。
心は俺の言葉を聞くと嬉しそうに頬を吊り上げ、指示を出す。
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