第24話
ザーッザーッと槍のような雨が降っている。
街を歩く人は皆、色とりどりの傘を差し、歩いていた。
信号が切り替わると車が発信し、前へと進んで行く。
俺は後ろに置かれている箱に目を向ける。
箱の中には心のアジトから持ち出した大量の爆弾が入っている。
全ての爆弾はいつでも爆発をさせることが可能な状態だ。
後は…このまま奴らのアジトまでノンストップで突っ込み爆発させるだけ。
それで奴らには損害な被害を受けさせることができるだろう。
俺は覚悟を決めると車の操作をマニュアル操作へと切り替える。
後はこのアクセルを踏み込むだけだ。
覚悟を決め、アクセルを踏み込もうとした瞬間だった。
車の目の前に人が飛び出して来た。
俺はアクセルを踏むのをやめ、目の前のバカに目を向けた。
「一体…なんのつもりだ…心。」
目の前に立っていたのは心だった。
心はこちらへ歩いてくると車の中へと乗り込んだ。
「邪魔しちゃって悪いわね。貴方に聞きたいことがあってね。私のアジトの武器庫から大量の爆弾が盗まれたのよ。心当たりは?」
心は後ろの箱を眺めながら聞いて来た。
「…さぁな…気のせいだろ。」
「ふーん…そうだ、ちょっと行きたいところがあるのよね。」
彼女はそう言うとナビを勝手に設定し始めた。
「おいっ、何をっ。」
「いいから付き合いなさい。」
彼女の声が聞こえた途端、俺は運転席から助手席へと移動をしていた。
こいつは懲りずにまた力を使ったようだ。
「さてと…それじゃ、行きましょうか。」
どこへ連れて行く気なのかわからないが俺は黙って従った。
「あら…抵抗はしないのね。少し意外だわ、嫌がるかと思ったのに。」
「………。」
黙り込んでいると彼女は口元を緩め、ハンドルを握り、アクセルを踏んだ。
「ねぇ、覚えてるかしら。貴方と私が組んでる時にこうして私が運転してることってほとんどなかったわよね。あれはどうして運転させてくれなかったの?」
「お前の運転が荒すぎてすぐに気分が悪くなるからだよ。今も正直、気分が悪い。オート操作があるんだからそっちに切り替えてくれ。」
「嫌よ。それじゃ、折角のドライブが台無しじゃない。それに私だって貴方の運転で気持ちが悪くなったことがあるわ。」
「それは車の中で狂って携帯でゲームばっかりやってるからだろ。」
こいつはいつも助手席で携帯ゲームをしていた。
そして、その度に気持ちが悪くなったといい寝ていた記憶しか残っていない。
「だって面白かったからしょうがないでしょ?今でもたまにやってるくらいなんだから。」
まだやっていたのか…。
「貴方だってやったらきっとハマるわよ。フェアリーファーム。」
「…えっ…フェアリー…なんだって?」
「フェアリーファームよ。妖精を鍛え上げて大会で戦わせるのよ。けど、ちゃんと育てないとね、妖精が家出したり、トレーニング中にサボったりでこれがまた難しいのよ。」
妖精を戦わせるなんてなんて野蛮なゲームなんだ。
「貴方が思ってるほど野蛮なゲームじゃないわよ。戦うのは可愛らしい妖精とか他にもガチムチの妖精とかも出てくるけど…。」
話してもいないのにこいつはまた俺の心の中を覗き込んでいたような発言をする。
「前から気になっていたことがあるんだが聞いてもいいか?」
「何?」
「お前のその心を読む力は常に聞こえてしまうものなのか?」
「そうね…常に色んな人の声が私には聞こえてくるわ。私が聞こうとしなくてもね。だから、昔から苦労はした、私に対しての悪口…それから卑猥な言葉…色んな言葉が聞こえてくるんだもん。けどね、貴方だけは違ったわ。貴方から聞こえてくる言葉は私を心配してくれてる言葉だった。今だって、辛かったろうなとか聞こえてくるしね。」
彼女はそう言うと小さく笑っていた。
こいつの過去にもきっと風花や未来のように辛い過去があるのだろう。
「そろそろお前の力のことを教えてほしい。一瞬で俺が助手席へと移動をしたのはどうしてなんだ。それに以前、病院の中で起きた不思議な現象もお前の力のせいなのか?」
「…そうね、勿体ぶっていてもしょうがないから教えてあげる。私の力はね、心を読むだけじゃない。相手の心に話しかけたり、人を操ることもできるの。あの病院で使ったのもそれと同じ力よ。」
「だとしたら…あの病院にいる全員を操っていたと言うことか?」
「えぇ、流石にしんどかったからもうやらないけどね。貴方が移動したのも私が貴方に命じて移動させたから。いわゆる催眠…みたいなものかしらね。」
そんなことが出来るなら大体のことは解決してしまえるような気がする。
「そうでもないわよ。どうやら操れる人と操れない人がいるみたいでね、ヒーローの中には操れないヒーローが沢山いたから。例えば、貴方の仇とかね。彼の心は読むことはできないし、操ることも出来ない。ただ…出来たことといえば、心に話をかけることだけ。」
「だが、一瞬でも止めることが出来るのなら奴を殺すことが出来るんじゃないか?」
「馬鹿ね、そんなわけないでしょ?彼にはどんな攻撃も通用しないのよ。後ろに積んである爆弾だってものともしないはずよ。」
「…………。」
奴には銃やナイフなどは聞かない。
だからインビンシブルと呼ばれているのだろう。
「一ついいか…未来のことなんだが。…未来は何のために…あの機械に?」
「未来さんの力は美樹が引き継いだ、現実改変能力を持ってるのよ。それも美樹よりもさらに強い力をね。未来さんがああして生かされているのはその力を美樹に使わせるため。美樹の力を未来さんの力で増幅させ、そして過去を変える。こんなところじゃないかしら。」
「その現実改変って力はどんなものなんだ。」
「言葉通りの意味よ。現実を望む通りの世界へと改変させることが出来るの。例えば…貴方が殺したいと思ってるインビンシブルをこの世に生まれなくさせることも出来るし。未来さんが死んだってことも無かったことに出来る。まぁ…言ってしまえば自分の思い通りの世界へと変えることが出来る力ってこと。」
とんでもないチート能力だ。
だが、未来はそんな力のことなんて一度も言ってなかったが。
「当たり前でしょ。力のことを言ってしまえばその力に頼ってとんでもないことをしでかそうとする人が出てきてしまうもの。インビンシブルみたいな奴がね。だから、未来さんは何も言わなかったのよ。けど、時代が進んでいくほどに様々なものが発達していき、その力のことを知った人物が何人か出てきた。インビンシブルもその一人よ。」
「なら、未来はその力を美樹に使わせようとしているためだけにあの機械の中で生きているのか…。」
「そうね…。私ね、彼女の声を一度だけ、聞いたことがあるの。彼女はこう言ってたわ。助けてって私を殺してって、彼女は死を望んでるの。あの機械がどんなものなのかは知らないけど、未来さんがあれに苦しめられてるのは確かなの。だがら、私はあれを停止させたい。貴方がそれを望むのかは…分からないけど。」
「つまり…未来を助けるにはあの機械を壊して…未来を死なせる…ってことか。」
そんなことは俺には…。
「貴方の気持ちは分かってるつもりよ。だけどね、やらなきゃダメなの。じゃないと大変なことが起きるかもしれないから。」
「分かっている…だけど、少しだけ考える時間をくれ。すぐには…きっと決められない。」
「えぇ、分かってる。だから、その時が来たら貴方が決めて。」
未来は俺にとってたった一人の家族だ。
生まれた時からずっと二人で生きてきた。
俺達には親はいない。
だからこそ二人で支えあいながら生きてきたんだ。
それなのに俺に未来が殺せるのか。
「そろそろ着くわ。目的地へと着く前に貴方に聞きたいことがあるの。」
「何だ?」
「貴方はあいつを殺すことができるなら…どんなことでもする覚悟はある?」
心の表情がいつにもまして真剣な顔つきへと変わっている。
どこへ連れていく気なのかは分からないが、そんなものは決まっている。
「もちろん。だが、どこへ向かっていたんだ?」
「…貴方は反対すると思ってたから言わなかったけど…。」
「だがら、どこなんだ。」
「…ヴィランの幹部の一人…シルバートゥースの研究所よ。」
「はっ?…今なんて…。」
聞き間違いだろうか、心は今とんでもない言葉を口にした気がする。
「聞き間違いなんかじゃないわ。私達は今、シルバートゥースの研究所に向かってるの。彼なら何か打開策が見つかるかもしれないから。」
「お前っ…ヴィランに力を借りるのかっ。」
「えぇ、その通りよ。ほら、着いたから車から降りなさい。」
窓の外にはボロボロの廃墟が建っていた。
「冗談だろ?」
「大真面目よ。」
彼女はそう言うと車から降りる。
そして、助手席のドアを開けると俺を外へと連れ出した。
「信用できる相手じゃないだろうっ。それに生きて帰れるかも分からんっ。」
「あら、爆弾を持ち出して自爆しようとしていたくせに…覚悟が足りないんじゃないの?……それに私はとっくの昔に正義への忠義は捨てたわ。」
どう言うことか分からんが後戻りは出来ない。
それならば…不本意だが心の言う通りにするしかない。
心の後をついて行くと廃墟の中へと入って行く。
廃墟の中はとても冷え、体が凍えてしまいそうだった。
「いい、死にたくなかったら私の先を歩かないでね。危ないから。」
俺は頷くと慎重に心の後をついて行く。
心の話だとあちこちに侵入者を排除するための罠が仕掛けてあるらしい。
「止まって…話は私がするから、貴方は静かにしていてね。」
そう言うと見るからに怪しい扉の前へと心は立った。
その瞬間、足元でカチッと音が聞こえた。
突然、俺達を囲むように壁のあちこちから銃が現れ、一瞬で逃げ道を塞がれてしまった。
「何の用だ…。」
ドアの上に取り付けてあるスピーカーから声が聞こえる。
どうやらこの声の主がシルバートゥースらしい。
「私よ、借りを返してもらいにきたわ。」
「………マインドか……入れ。」
扉が開かれ、心は俺の顔を見ると頷き、俺もそれに返事を返す。
そして俺達は気を引き締めて中へと入って行った。
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