第13話
「スピードスターの様子は?」
「…私は医者じゃないからな…何とも言えんが…顔面が酷い状態だな。あれは…とてもじゃないが私には直せん。」
「顔なんてどうでもいい、彼奴は話せるのか?」
「んー今は薬で眠らせているが、相当、酷い状態だからな。起きたとしても話すことができるかは分からん。後は彼奴の力次第だな。」
「チッ…要するに役立たずのゴミを拾って来ちまった訳か…。」
話すことが出来ないなら奴がここにいる意味がない。
だが、あの状態のまま捨てるのも…流石に良心が痛む。
「そう言うなよ。そう言えば名無しの姿を見ないがどこにいるか知らないか?」
「…さぁな。」
名無しはフードの男と対峙してから様子がおかしくなっていた。
普段からマスクを着けているからどこを見ているかはわからんが、何処か上の空のような気がする。
もしかしたら、フードの男に心当たりがあるのかもしれない。
「はぁ…これじゃ先が思いやられるな。結局、手に入れた情報は犯罪を事前に防ぐこととその為に美樹に機械を使うこと…ぐらいか。」
「後もう一つある。その事を知っているのはマインド、それから奴らのリーダーに。」
「頭文字にフと付くヒーローか…。だが、それだけじゃな…頭文字にフがつくヒーローなんて沢山いるし、結局、また調べなおさんといかんのには変わりない。」
ジョウの言う通り、フがつくヒーローは思いの外沢山いる。
その中から見つけ出すのには時間がかかってしまうだろう。
ジョウは腕を組みしばらく考えていたが、大きな溜息を吐くと俺の方を見る。
「ここでこうして考えていてもしょうがない。私は私で調べてみることにするよ。後…お前が言ってた凛のポンコツもついでにな。」
そう言うとジョウは歩いて行った。
ジョウの背中を見送った俺は美樹の元へと向かう。
ジョウが言うにはまだ美樹は目覚めないらしい。
何故、美樹が目を覚まさないのか、俺にはわからないが美樹の中の眠っている力がもしかしたらそうさせているのかもしれない。
美樹の部屋に着くと扉を開け、中を確かめる。
だが、ベッドには美樹の姿はなく、部屋の中にもどこにも見当たらない。
「美樹っ。」
俺はすぐに部屋を飛び出し、ジョウの元へと向かった。
「ジョウ、美樹が……部屋に…。」
部屋の中に入り、ジョウにそのことを伝えようとするが部屋の中で目に入って来たものはジョウではなく、あの時、死んだと言われていた美樹の育ての親の心の姿だった。
「心…お前…。」
「あら、久しぶりね。元気だったかしら?」
「いや、元気だったかしらってお前、どうして…生きているんだ…?」
「それは…言わなくてもわかるでしょ?」
心は何事もなかったかのように平然とした態度で俺の前に現れた。
言わなくても分かるとは…一体…。
「まったく…凛がポンコツだなんて…。私からしたらお前のがポンコツ…だ…と…言うの…に…ん?」
ブツブツ文句を言いながら入って来たのはジョウだった。
「あら…白衣のお嬢さん、さっきはありがとうね…。」
「何のこと…「何故、生きているんだっ!!お前は確かに死んだとニュースで…。」
あの時のニュースでは心は死んだと報道されていた。
そして俺は勝手に心が死んだと思っていたが、それは違った……のか。
こいつは死を偽装したのか…。
「貴方の考えている通りよ。色々あってね、私は死んだと思わせたかった。だから、死を偽装した。何故、そんなことをしなければならなかったのかは説明できないけど…これを。」
彼女は俺達の前に書類を投げつける。
「これは?」
「これは貴方があの時、車で無くしたヒーローについての資料。無くしたようだからもう一度、貴方に渡しておくわ。」
「お前はこれを渡すために俺達の元へと?」
「…それもあるけど、本当は美樹の様子を見に来たの。いい、この子を絶対に奴らに渡さないで。渡したら…本当に世界は悪い方向へと変わってしまう。それを防ぐことができるのは貴方。夏樹、美樹の力は目覚めかけているの、もう誰にも止められないわ。」
「ふざけるなっ!!!お前の目的は一体何なんだっ!!!」
「言ったでしょ、話すことはできないって。貴方は奴らを…ヒーローと呼ばれている愚か者達を捕まえる、あるいは殺すことが使命なの。もう何もかもが動き出しているのよ。」
こいつの言っていることの意味がわからない。
一体、これから何が始まろうとしているんだ。
「じゃあ、私はこれで帰るとするわ。まだやらなきゃいけないことが沢山あるから。」
心はそう言うと俺達の前から立ち去ろうとする。
だが、俺はそれを許すわけがない。
全部を今ここで話してもらおう。
「待てっ、お前をこのまま行かせるわけにはっ。」
「残念だけど、貴方と違って私は忙しいのよ。ああ…それともう一つ、本当にあの人を捕まえたいのなら……貴方のその馬鹿げた考え…考え直した方がいいわよ。」
彼女はそう言うと次の瞬間、俺達の前から姿を消した。
何をどうやって俺達の前に現れ、そして一瞬で消えたのかは分からないが彼女もまた何かを知っているようだった。
もしかすると俺達は何かとんでもない敵を相手しようとしているのかもしれない。
「一体…なんだったんだ。」
「さぁ…私にも分からん。ただ一つ分かることと言えば…誰も信用できなさそうってことぐらいだな。それと…今の女はお前の…。」
「分かってる。だが、俺はお前以外には話してしていない。…そんなことよりも美樹が部屋にいないんだ。お前は何処かで見てないか?」
「美樹ならそこに。」
ジョウが指をさした先にはソファーの上で眠っている美樹がいた。
美樹のことを攫うことが目的ではないのなら、ますます彼奴の目的がなんなのか分からない。
「これはあの女性についても詳しく調べる必要がありそうだ。」
俺は机の上に置かれた資料を手に取ると目を通す。
確かに俺があの時、無くしたものと同じものだ。
これを使ってヒーローを捕まえるそれが俺の使命。
それならお前の使命は何なんだ。
「んっ…おじ…さん。」
後ろから囁き声が聞こえ、俺は急いで振り返った。
「美樹?」
「ここは…?」
「知り合いの家だ。具合は?」
「何だかちょっとだけ…気持ちが悪い。」
「そうか…それならまだ休んでいるといい。ジョウ。」
ジョウの名を呼ぶとジョウは頷き美樹の隣へと座り、美樹の体を調べていた。
「夏樹、その少しの間、部屋を出ていてくれ。」
俺は頷くと部屋を出る。
美樹が起きたのは心が原因か?
どちらにせよ、今、俺にできることは何もなさそうだ。
あの子は眠ったままじゃないかと心配していたが、目を覚ましてくれて少しだけ、ホッとする。
さて、今からは俺にできることをやろう。
美樹のことをジョウに任せ、俺はモニタールームへと足を運ぶ。
このアジトには監視カメラが設置されているはずだ。
もしかすると心のことが写っているかもしれない。
機械をいじっていると画面に入り口に取り付けられている監視カメラの映像が流れ始めた。
そこにはジョウが心を部屋の中へと案内している様子が写っている。
心を中へ入れたのはジョウだった。
だから、警報が作動しなかったんだ。
だが、どうしてジョウは初対面の心を中へとあげたのだろうか。
初対面の彼奴なら怪しく思うはずなのに。
そして、さっきの部屋に心は入って行く。
ジョウは美樹がいる部屋に入ると美樹を担いで心の入った部屋へと入って行った。
別のカメラで俺が何をしているか確かめると長い間、廊下に一人佇んでいる。
おかしい、確かに少しの間は廊下に立って考え事をしていたが、ここまで長い時間、廊下で立っていた覚えはない。
名無しのことを確認して見るが名無しはトレーニングルームのど真ん中でずっと坐禅を組んだまま動いていなかった。
そして、画面を戻すと俺達が話し終わり、心が部屋から出て行くのが写し出された。
俺達はというとまるで時間が止まってしまったかのようにじっとしている。
もしかして…彼奴は…。
嫌な考えが頭をよぎる。
だが、そんなはずはないと自分に言い聞かせ、俺は部屋を後にした。
彼奴はもしかして…力を…。
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