13 ネオン
きっとこの世の中は寒いに違いない。否、適当に思ったが寒いも暑いも違いを感じられなかった。それは肌が機能していないのかと感ぜられる。
月夜の元に孤独になった男が街の中に歩を進める。女とは先ほど別れたらしいが、背中から寂しさは感じられなかった。
「信じる?いつも、信じているじゃないか」
ウソツキ。あの女の言葉が何回も頭の中を駆け巡る。どんなに小さいことでも嘘に交わってしまえばこの言葉が追いかけてくる。男は少しばかりか心が傾いていた。
「薫先輩?」
女の声が後ろからした。男の背中にはその声は届かず男は顔をこちらには向けなかった。
「薫先輩!」
男は勢いよく後ろを向いた。ライトの下、女の柔らかい顔が浮かび上がる。七色に浮かびある、その柔らかい輪郭には見覚えがある、そう思った男は女に身体を向ける。
「石上?」
「ええ、そうです」
にっこりする石上を俺は見下ろす。俺の頭でライトから隠れた部分には本来の石上の肌の色に落ち着く。ふと、目が合う。彼女と欲似たブラウンの目であった。くりくりとして、透き通っており吸い込まれる感じだ。だが、目の奥には無機物のようなものが感じられる。そのことだけが、唯一美咲と違っている部分であった。
「どうしたんですか?」
少し首を傾げてこちら顔を窺う。
「いや、何も無いよ。でも、なにしてるんだ?買い物?」
今日に至るまで石上には攻められたりしていて、彼女への罪悪感も膨れ上がっているにも関わらず、こうして冷静に話ができるのはどうしてだろうか、と自分を客観視してしまう。自分は浮気生なのか。だとしたら、付き合っている美咲ちゃんには大変申し訳なってくる。
「いえ、大した用事は無いんですけど。そういう先輩は、デートの帰り?」
直に正解を当てられ少し言葉にするのに時間が掛かる。
「ああ、そんな感じ」
いいな~、私も先輩と付き合いたい。と歩き出した。俺は自然と石上の後を追い、小さい肩と並べる。こうしてみれば、彼女も石上も大して体格と言うものは変わらなかった。ただ、歩くのが少しばかりしっかりとしている部分だけは違っているか。彼女はゆったりと歩くのが好きみたいである。
「どんなところ行きました?」
「どんなところと言っても、普通にお互いの趣味の場所に」
「鈴木先輩の話はいいです。私は先輩の、伊藤、先輩の、話を、聞きたいんです」
要所はきちんと誇張されており、若干に聞き取りづらくはあったが、しかし、当然であろうか。女の心理は俺はやはり彼女という類のものが出来ても図りかねていた。
「まぁ、強いて言うなら、パソコン関係とか」
「あぁあ、先輩好きそうですよね」
感情が揺れ動くのが分かる。確実に自分の心臓が強く血液を送った。何をそんなに嬉しがっているのか、喜んでいるのかわからなかった。しかし確実に、胸中には何かがはじけるようであった。しかし、その規模は安心は出来ないがまだ小規模であった。これを機に石上と関わらなければきっと広がらないだろう。そう、ぼんやりと思った。
先輩。彼女はある店の前で足を止めた。バーなのかカフェなのか。それは、煌めくネオンやライトのせいでぼんやりとしていた。
「奇遇ですので、どうですか」小さな指先が看板を指す。地味に屋根が張られており、幾つか染みが窺えた。年季の入ったものと思わせるそれは、自ずとこの店を老舗にさせていた。しかし、傍らには似合わぬネオンが堂々たる態度で居座っている。
窓から窺える店内は落ち着いた暖色のライトで近代に溢れている眩しさなんてものは感じられなかった。しかし、外にはネオンがあり、窓からの反射のおかげかやはり五分の現代を感じていた。
ここで、回想へ深けても、石上にも迷惑だし、何より時間の無駄と思えた。店へ入るのを促し、彼女の後に続いた。
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