14 だじゃれと言う名の論述

 店内は暗く落ち着いており、幾人かの大人が見受けられた。俺たちは、カウンターの中程に腰を落ち着かせた。目の前にはいくらか、灰皿や割りばしなどがあった。

 水が運ばれて来た。石上は酒が記入されたメニューを弄ばしている。先輩もお酒にします?と聞かれたがお酒のことは正直よくわからなかったので石上と同じやつを注文した。よくわからない名前のお酒であった。

「先輩、なぞなぞって好きですか」

 唐突の質問に喉に流していた水が勢いを止める。しばらく、沈黙していた石上を眺めていて、非常に新鮮な気分に浸っていた。

「え?まぁ、嫌いではないけど」

 なんですか、その返し方。と、運ばれてきた酒を不満そうに弄びながら、彼女はグラスを直近くの照明に透かす。

「じゃ、なぞなぞです」

 ある男の子A君が居ました。A君には好きな女の子B子ちゃんがいました。ある日、A君は決心しB子ちゃんに杉の木の下で告白しました。答えはNOでA君は振られてしまいました。しかし、中々B子ちゃんのことが忘れられないA君は再び告白をすることを決意し、今度は桜の木の下で告白しました。結果はOK。その日以来、A君とB子ちゃんとの交際がスタートしました。

「ここで、問題」

「おう」

「なぜ、B子ちゃんはOKしたのでしょうか」

 え?そんなの、わからないじゃないか。その場に居合わせないとわからない、そう感じる。

「そうだな…、仕方なしオッケーを」

「それを、しても二回同じ人に告白する男ですよ。そこで、仮に受理して、それから分かれても、きっとその男またしますよ」

 言われてみれば確かに。客観的に性格は記されては居ないが、さして間違ってはいない気もする。

「じゃ、弄んでいた?」

「何故、二回目でOKを?」

「からかう為?」

「合理的じゃありませんね。それは。下手したら、自分もからかわれる危険性がありますよ。リスキーです。」

 確かに。

 考える素振りを数分続けていると、あと一回間違えたら答えを言いますね。と痺れをきらされ言った。さすがに大学生を相手に下らない問題に時間を取られたくないのは当然である。

「わかんないな…もう、いいや、木が変わったからそんな感じ?」

 石上は目を丸くして、正解と呟いた。

 すんなり答えが出てしまった。案外、答えてみるものだ。

「因みに、解説を致しますと、「キが変わったから」。つまりは、木と、植物のと、気、つまりは心が、変わった、と二つの事柄をかけているんです」

 なるほど、確かに、植物、心情。一見関係なさそうだが、共通点を探ってみれば案外日常の一部にそういうことは潜んでいるのかもしれない。

「上手いこと、言ったものだな」

「そうですよね。私、初めて聞いたとき感心してしまいました」

 感心か。そこまでではないが。

「でも、それがどうした…ていう、質問もおかしいか」

 苦笑を滲ませながら俺は帰りのことを考える。もうそろそろ帰りたい時間帯に差し掛かって来た感じがする。酒はまだ、運ばれて来てはいなかった。

「これは、死にも言えるんじゃないかと」

 意味深にそういい始めた彼女は何処か、昼にあった美咲を思い起こさせた。

「環境や思想によって、死に対する見方というものが変わってくると思うんです。例えば、金持ちの家に生まれた人は、きっと死んでも生きても、きっとどうでいいと思うんですね。だって、多分自分で生きてないから。例え、自分で生きる力がなかったとしても親が援助してくれるという甘い考え方から単に生きているという人が大半だと思います。しかし、それとは、反対に、貧しい中に生まれた人間は生きようと無意識に思うと思うんです。しかし、それは一面的な希望ではなくて、同時に何時死んでもいい、という覚悟にも諦めにも似た何かにも囚われているようにも、私には感じます。

 また別の視点では、自分なんて死ぬことがないと勘違いする馬鹿もいます。そいつらは、きっと死を目前にすれば死を拒み、しまいには下劣に卑下すると考えられます。一方で、明日死ぬかも知れないと、覚悟をもって生に挑む人間も少なからず存在するはず。しかし、この様な人間も前者と大して絶対値は変わっていないと思います。覚悟を名目に無茶をして命を落とすことなんてざらにありますよね。結果それは、覚悟して死んだのではなく、自ら死を受容しに行ったと。つまりは、只の無駄死です。そんなの、誰も期待していません。所詮、覚悟なんて、その場しのぎの都合のいい言葉ですよ。寝て起きて、明日を迎えれば意外と怖気ついていてもおかしくはないでしょうね。

 まぁ、長々と字面をならべて何が言いたいかと言えば。

 死なんて、考え方一つで、生にも似た快楽になることです。

 皆さんは不思議に自ずと死に対して恐怖しているかもしれませんが、それは大きな間違いで、死というもの受理するのは、決定するのは紛れも無い、死そのものです。我々は所詮は輪廻の下で、死という行為を行っているに過ぎないのです。所詮は儀式です。死というものは、案外暖かくて、冷たいものなんでしょ。

 そうと考えれば、死なんて名詞ではなく、形容詞なんでしょうね」

 石上は半ば興奮の吐息をもらしながら語った。各々、死生観というもの存在すると思うが、石上の言うことは的を射ているのかもしれない。

「すみません、つい、こう、興奮しちゃって」

 重いのか頭をゆらっとこちらに傾けてくる。

「先輩、私と付き合ってみる気になりましたか」

「なるわけないだろう。いるよ、俺には。それより、離れてくれ」

「ウソツキ」

 彼女はシャツの襟元を不自然に上げ、その大きいブラジャーに包まれた乳房をまざまざと魅せる。

 それは、どこか人工のものかと感じられた。

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