第5話

 窓から入り込む朝の日差しが、春希の意識を覚醒させた。


 二日目が始まった。


 春希は、昨日と同じように、ぐっすり眠っている死神を起こさないように、静かにベッドから出た。


 そして、昨日とは違い、私服に着替えた。


 時刻は午前7時。

 この生活をずっと続けているうちに、春希はいつしか目覚まし時計なしでも起きられるようになっていた。


 朝食のトーストが焼けたとき、死神は眠そうな眼をこすりながら起きてきた。


「おはよう、死神さん」


 死神は春希の格好に疑問を抱く。


 ――なぜ私服なんですか。今日は学校は無いのかな?

 と。


「春希さん、おはようございます」


 春希の挨拶に死神は笑顔で返した。


 そして、死神があるものに気づく。

 絵だ。

 死神は何処かで見たなと考え、春希に尋ねる。


「春希さん……これって……?」


 春希は「……ああ」と言って答える。


「これはぼくが書いたんだ。あの星空をね。で、コンクールに出したら、入選して美術館に飾られることになったんだ」


「春希さん、絵、うまかったんですね。なのに何故死のうとしてたんですか……?」


 絵の良さなどこれっぽっちもわからない死神でも、いい絵ということはなんとなくわかる。

 しかし、そんな絵をかけるのに、なぜ死のうとするのかが疑問だった。


「一昨日も言ったろ、死神さん。何も感じないからだよ。ぼくにはこの世界の全てが灰色に見えるんだ。何が悲しくてこの腐ったような世界で生き続けなくちゃいけないんだ」


 しっかりと何か感じてみたいよ。そう言って春希は肩をすくめてみせた。


 やがて朝食を食べ、準備を終わらせると、春希は外に出た。


「何処へ行くんですか?」


 死神が聞いた。


「美術館さ」


 春希が答える。

 春希は靴を履き、外に出て駅に向かって歩いた。

 死神も少しあとをついていく。


 そのまま無言で歩くこと5分、駅に着いた。

 春希は無言で改札口を通り抜け、ちょうど到着した電車に乗った。


 電車の中でも二人は無言だった。

 そのまま座って15分ほど経っただろうか。春希は立ち上がって、電車を降り、改札口を出た。


 そして春希はまた歩き始めた。


 2、3分すると、美術館のような建物……いや、美術館に着いた。


「ここだよ。ここに飾ってあるんだ」


 春希が死神に言う。


「楽しみです」


 死神が答えた。


「じゃあ入ろうか」


 そう言って春希は美術館の中へと入った。


 死神も春希の跡を追うように、遅れて入っていく。

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