第3話

 ✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦一日目✧✦✧✦✧✦✧✦✧✦


 春希が起きると、死神は、椅子に腰を掛け眠っていた。

 こうしてみると、この死神、容姿はとても綺麗な方に入るんだろうなと春希は考える。中身せいかくに関しては、まだなんとも言えないが。


 春希は死神を起こさないように、そっとベッドから抜け出し、学校へ行く準備をする。

 春希は、他人からの奇異の目に耐えられず、親に一人暮らしを頼んでみたところ、二つ返事で了承を得ることができた。そして今、春希がここに居るのだ。

 春希が、いつものように朝食を作っていると、死神が、目をこすりながら起きてきた。


「おはよう」


「おはようございます。一週間後には死ぬなんて言ってたのに、学校には行くんですね」


 死神が言った。


 春希は気づいた。確かに一理ある。一週間後に死ぬんなら、遣りたいことをやればいいではないか。と考えた。

 しかし、春期には遣りたいことがない。だから死のうとしていたのだ。


「特にやりたいこともないからね。それとも死神さん、何処か行きたいところでもあった?」


 と言って、死神にトーストを渡す。


「そうですか……私は特にありませんね。では普段通り過ごすんですね?」


 死神は少し考えてから答えた。そして、先程春希にもらったトーストを食べた。


「ああ。学校へ行って、授業を受けて、帰って、少し勉強してから寝るよ」


「……そうですか……」


 死神はしょんぼりしているが、春希はそれに気づかない。気づいても、なんとも思わないので、無視するのだが。


 死神が気を落としているうちに、春希はさっさと準備を済ませた。


「いくよ、死神さん」


 そう言って死神に声をかけると、春希は先に家を出てしまった。

 死神も、置いて行かれては困ると、急いで春希を追いかけた。

 実際死神は、置いて行かれてもほとんど問題は無いのだが、なんとなくでついていった。





「ああ、ころばないでよ??」


 春希がはしゃいでいる死神に注意した。


「あ、はいすみません……あ、学校ってどのくらいですか? もうついちゃいますか?」


 なんだよ、ついちゃいますか、って。

 春希は思ったが口には出さない。

 もちろん返事もしない。


「あ、ここが学校ですね?」


 死神が質問した。


「そうだよ」


 春希が答える。


「死神さんってさ、ぼく以外の人には見えなかったりする?」


「うん、だって他の人に見えたら色々面倒じゃないですか」


 春希は「まぁそうだよな……」と納得した。

 靴を脱いで履き替え、教室へ行く。そこからはいつもどおり。

 いつものように授業を受け、いつものように帰る。今日もいつもと変わらない日を過ごした。

 何か変わっていることといえば、隣に死神が居ることくらい。それ以外は、いつもと変わらない普通の一日だった。


「帰ろうか」


 春希が荷物を持ちつつ死神に言った。


「はい。……あの、春希さん、一つ質問しても……?」


「いいよ、何だい?」


 少し考えるような仕草を見せ、死神は質問した。


「楽しかったですか?」


 死神が聞いた。「なんのことか」が抜けているが、学校のことだと春希は考えた。

 春希はもちろん、


「……何も感じない」


 と答えた。

 そして春希は教室を出て靴を履き替えた。


「死神さん、行きたいところはあるかい?」


 春希は今朝と同じ質問をしてみた。

 死神は、


「あります、あなたがいつも行っていた神社からの星空を見てみたいです」


 春希は少し驚いた。そして答えた。


「わかった。じゃあ行こうか」


 春希がそう言うと、死神は顔を輝かせ、


「はいっ!」


 と、嬉しそうに返事をした。

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