嘔吐

@negerobom

toro.bom

 敢えて言葉にするなら、無理矢理にでも口に出そうとするのならば、この感情は、この感覚は苦痛だ。それで間違いはない。でもそれだけで片付けるには、あまりに足りない。空虚で全く足りない。どちらかと言えばその言い足りない空虚さの方がこの感覚を言い得ているのだし、これを苦痛と表現するのはやめよう。 

 この感覚は、この空虚さは、どの言葉にも当てはまらない。カラと言っても正確じゃない。

 何にも無い。


 朝、目が覚めた僕は、うだうだと布団から抜け出して、トイレに向かった。しゃがみ込んで、便器に向き合う。自分の喉に中指を突っ込んだ。腹が躍るように動いて、きっと何かが腹から上がってくる感覚があって、指を抜いた。

 そのまま嘔吐する。嗚咽は大きく個室に響いた。

 吐き出したのは昨晩に食べた物。こういう風に自分の自我を吐き出せたら、なんて思って、それがおかしくてひとりでに笑って、笑ったこと自体がまたおかしくて、とにかく可笑しかった。急に、死にたいと思い、笑った。

 死ぬ前にやりたいこと、無かったっけ。

 そんな簡単に抜け出せる世界だったっけか。

 

 何もない。生きている気もしない。死ぬことも出来ない。 

 最上級の地獄だ。自分が勝手にそう思うだけで、実際はただの生命のひとつ。

 何にもない。それを知覚する思考だけあってもやはり…


 なにもないものだ。

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