葛ノ宮町一丁目集会所

雪見

第1話 不登校たちの会合

この世には、様々な事情で学校に行けない、所謂「不登校」が沢山いる。

ここ、「葛ノ宮町」には、そんな「不登校」が、数多く集まる。

不登校たちは、この町の一丁目にあるとある集会所に、月一回会合を行なっているのだ。

そんな彼等を、少し覗いてみよう——


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「集まったか?」

「はい。誰にも目はつけられてないので、会合を開けます。」

「そうか。」

この集会所には、不登校の武、月美、

雅和、拓矢、謙人の5人が集まる。

皆、それぞれ事情を持って不登校になった者たちだ。

「この集会ももう3回目ですね…。」

雅和がしみじみと言う。

雅和は、顔にコンプレックスを感じている。クラスの心無い人間が、その事をしつこく言い続け、雅和は嫌になって不登校になったのだ。

「ああ。そうだな。もう3回目にもなるんだな。」

この中のリーダーは武に任されている。正義感が人一倍強く、真面目な性格だ。

しかし、真面目すぎる故、「先生みたいにごちゃごちゃうるさい」と言う理由で、不登校になったのだ。

「学校へ行くよりずっと有意義ね。もうあんな所へは行きたくない」

このメンバー唯一の女子、月美は、趣味で絵を描いていたのだが、その絵を見た男子が、月美の描いた絵を害扱いして、破いたのだ。それ以来学校には行っていない。

「そうだね。心無くいじめられているくらいだったらこうやって集まっている方が100倍いい。」

拓矢が言う。拓矢は、球技大会の練習で人一倍努力していたのだが、その態度がうざいと、何度にわたっても言われ、嫌になって不登校になった。

「親は学校に行った方がいいと言ってるけど、あんな荒れてるんじゃ行く気にならないよね」

謙人は、不器用な故クラスのほぼ全員(教師を除く)に使えないクズ扱いされ、病みを抱えたまま引き籠りとなった。外出する事と言えばこの会合ぐらいだ。

「さて、そろそろ始めるとするか。」

「「「「「不登校に光あれ」」」」」

この会合の挨拶的な言葉だ。一回の会合で5人で考えたものだ。

「さて、今回の議題は、『僕たちの居場所』についてだ。不登校になった原因は自分らではないが、いじめられるくらいだから僕たちっていう人間を軽く見ているのだろう。」

武が進行する。

「そうだよ。あいつらいじめるくらいだから、僕等がいなくたってどうもない。むしろ自殺したって涙の一つ流さない。」

謙人が強めの口調で言う。

「そうですよ。あの人たち僕等がもしも死んだら責任取れるんですかね?」

雅和は、人間不信故、誰に対しても敬語を使う。

「そうよ。大体人の苦労も知らずに、簡単にあんな事して。責任とれって言ったらとってくれるのかしら?」

「まぁまぁ落ち着け。責任どうたらは後で考えよう。」

拓矢は、メンバーが荒れた時によく助け船を出す。それにほかの4人はいつも救われている。

「僕たちは、皆心無いクズ人間どもにいじめられて不登校になっている。

学校に行けないくらいだったら、僕等の居場所は何処だ?」

武が話題を振る。

「そうだねぇ。ここぐらいしか思いつかない。」

「僕もそう思います。家にいても親からは学校行けとしか言われないので、ここの方が心地良いです。」

「私もそう思うわ。」

「でも、ここに依存していたら、いつかここの人に気付かれて、また学校に行けと言われるだけだよ。」

「それもそうだな。僕等はここを無断で使っているし、そろそろこの町から離れよう。こんないじめられる町、早く離れた方がいい。」

「じゃあ、近くの図書館でパソコンを使って、近場の手頃な所を探しに行くか。」

「そうだね。」

5人は図書館へ向かった。今日の会合はまだ続く。

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