第133話 前人未踏のおっぱい洞窟

 養畜場からギルドに戻って来ると、雑多な内装の片付けも終わっていた。

 クエストを達成した利一は、受付嬢と言い張るフレアのもとで必要手続きを進めている。人間と同じ扱いをしてもらっている俺とは違って、いろいろと誓約の類を踏まなきゃならないらしい。誓って悪いことはしません、とか。


「これからの活動なンだけど」


 手持無沙汰で利一を待つ間、俺はカリィに冒険者について質問することにした。

 カリィはギルド職員としても働くが、フレアのように常駐ではなく、ロドリコのオッサンと同じく町の衛兵もこなすンだそうだ。

 普通逆じゃね? カリィが常駐で、フレアが衛兵になった方がイイと思うのは、きっと俺だけじゃねェはず。


「冒険者に成り立てでも、でかいクエストって回してもらえンのか?」

「本当に何も知らずに来たのだな。切羽詰まった事情でもあるのか?」

「まあ、ちょっとな」


 俺じゃなく、利一がだけど。


「でかいクエストとは、どれくらいの規模を言っている?」

「報酬で小さな国の運営ができちゃうくれェの」

「馬鹿げた話だ。そんなもの、魔王討伐クエストくらいだ」

「ん? 魔王を討伐すれば、そんな大金が手に入ンのか?」

「討伐だぞ。一時的な休戦ではダメだ。一切の脅威を取り払って初めてクエストを達成したとみなされる。これが叶えば、世界の覇権を握ったも同然だからな。他国からの融資も思いのままだろう」

「なるほど」


 …………るか。


「何を物騒なことを考えている。友の契りを交わしていたのではないのか?」

「別に交わしちゃいねェよ」


 あいつと友達ダチかっつーと、微妙なとこだな。利一とカリィが尻で友情を深めたと言うなら、俺と魔王ザインはちんこで深まったと言える。


「私は討伐を推奨しないな」

「へえ、騎士にあるまじき発言だな。ま、それには俺も賛成だけど」

「あの者は攻守ともにバランスがいい。今後も変な気は起こさないことだ」

「確かにな。あいつの強さは俺の全裸勃起モードよりも上だし」


 戦う予定があるわけじゃねェけど、なんつーか、ちっと悔しい。

 ミノコに至っては、おそらく足下にも及ばない。


「……もっと強くなりてェな」

「なんの話をしている? あれは一見、俺様キャラで攻め一択のように思えるが、条件次第では言うことを聞かせるのもたやすい。攻めて良し、受けて良しだ」

「そっちこそ、なんの話してンだよ」


 受けて良しってなんなンだよ。攻守なら守れよ。


「最初の話に戻るが、冒険者に成り立てでも、レベル30の貴様ならば、難易度の高いクエストも受けられるだろう。しかし、それは主に戦闘を主としたクエストに限ってだ。今回のようなクエストではレベルなど関係がない」

「だったら戦闘系じゃねェクエストは、レベル以外の何を見てるンだ?」

「専門知識や技能の有無、あとはそれまでの貢献度や達成率だな」

「そういうのって、全部ギルドで管理されてンの?」

「そうだ。だから本人証明ができるギルド証は絶対になくすな」


 あンま念を押さないで。フラグが立ちそうだから。


「レベルは自己申告か? 俺ってほら、ちょっと特殊じゃん」

「その時々をリアルタイムでギルド証が読み取る。今の貴様ならレベルは16か。であれば、それ相応のクエストしか受けられない。提示されているクエスト条件を満たしていなければ、たとえギルド職員が首を縦に振ったとしても、システム的に受理できない仕組みになっているのだ」

「科学?」

「そういう魔法だ」


 魔法か。魔法なら頷くしかないな。


「つまり、難易度の高いクエストを受けようと思ったら、全裸勃起状態でギルドに赴いて受注しなきゃならねェってことか?」

「そういうことになるな。受注後ならレベルが戻っても問題無い」


 何その罰ゲーム。イジメか?


「心配するな。このギルドには誰がいると思っている?」

「そうだな。他のギルドなら、変態が来たって門前払いされるかもしれねェけど、ここならカリィが――」

「フレアなら喜んで受付をしてくれる」

「お前がやれよ」


 フレアの前で全裸とか、俺の貞操が危ねェだろうが。


「断る。何故私が」

「俺のナニを何度も見てるだろ。お前なら、もう見られてもなんとも思わねェ」

「たわけか。私とて、貴様のナニを単品で拝みたいなどと思ったことはない」

「生憎セット販売なんざしてねェんだよ」


 やいのやいのと言い争うも、結局、色よい返事はもらえなかった。

 イイさ。いざとなったら手段は選ばない。マジに全裸勃起でギルドに足を運び、「カリーシャさんにこの状態で来いと言われました」と名指ししてやる。


 預金制度があることは既に聞いたが、他にも冒険者特典として、宿泊施設の紹介や割引。ソロへのパーティーメンバーの斡旋と仲介。武器や装備のレンタルなどがあることを教えてもらった。

 ちなみに、王都に置いてきてしまった俺の鎧は、カリィたちがこっちへ来る時に一緒に持って来てくれたそうなので、引き取って帰るつもりだ。

 しばらくすると、利一が両手に一つずつ、でかい麻袋を提げて戻って来た。


「それ、クエスト報酬の卵か?」

「おう。こんなに早く終わると思わなかったそうで、大サービスの二百個だぞ」


 そりゃスゲェ。さぞかし大量のプリンが作れそうだな。

 ――とは言わないでおいた。

 袋を覗いてみると、掌サイズの白い卵が十個、綺麗にぴっちりと収まっており、それが何段にも重ねられていた。これ一袋で10kgってところか。


「重そうだな。持ってやるよ」


 親切心から、両手を利一に伸ばした。

 ありがと。やっぱり拓斗は頼りになるよな。もしオレがこの先、男に恋するようなことがあるとすれば、多分、ううん、きっと拓斗みたいな人なんだろうな。

 なんて利一が言うわけねェけど、頼り甲斐があるところは見せたいじゃん?

 が、そんな考えに反し、利一の顔がみるみる不機嫌なものへと変わっていった。


「……持つって、片方?」

「いや、両方のつもりだけど?」


 言うと、今度は不機嫌どころか睨まれてしまった。


「持てるし」

「え?」

「手伝ってもらわなくても、これくらい余裕で持ってられるし」

「余裕って、手、ぷるぷるしてるじゃねェか。何ムキになってンだよ」

「なってねーし。これはあれだ。武者震いだ」


 致命的に使うタイミングがおかしい。

 腕だけじゃなく、翼にまで力が入ってバッサバッサ動いてるし。


 でも、そういうことか。

 ああ、しまったな。うっかり利一の自尊心を傷つけちまったわけか。

 うーん、面倒臭い奴……。


「――お姫ちゃん、お待たせ」


 どうやって機嫌を直してもらおうか考えていると、フレアが、利一のギルド証が入っていると思しき小箱を持ってやって来た。

 利一の手がふさがっているので、代わりに俺が受け取ってやる。


「そこまで言うなら俺は手を貸さねェ。最後まで持って帰れるンだな?」

「当然。一回も下ろさずに帰れるし」


 ダメだこれ。早くも顔が引きつってる。落として割る前にギブアップしろよ?

 ――とも言わないでおいた。

 とりあえず、気の済むまでやらせておこう。


 記念に取っておくようなものでもないし、かさばるから箱は処分してもらうか。

 そう思い、俺は蓋を開けて利一のギルド証を取り出した。


「「あ」」


 途端、カリィとフレアが声を揃えた。


「え?」

「タ、タクトさん、イケないワ! ギルド証にかかっている、持ち主を記憶・特定させる魔法は、その箱から出して空気に触れることで起動するのヨ!」

「マジか。カイロみたいだな。今から箱に戻しても遅い?」

「もう起動しちゃってるもの! 早く登録しないと魔法の効果が消えちゃうわヨ! 再発行するには10,000リコいただくことになるワ!」


 早くと言われても。


「利一、悪い。その袋、一旦床に下ろせるか?」

「言っただろ。絶対下ろさない。武士に二言はない」


 俺の親友は武士でした。融通利かねェ……。

 本人登録は、心臓に近い場所に三十秒挟む必要がある。

 だが、利一は手がふさがってしまっている。だったら俺がやってやるしかない。

 やってやるしかないわけだが。


「……脇は?」

「……別のとこで」


 だよな。人に臭そうとか言っておいて、自分がやるわけにゃいかねェよな。

 はい、じゃあ別のとこ。


「フレア、首に挟むンじゃダメか?」

「ダメヨ。ちゃんと心臓の鼓動が伝わるところじゃないと」


 だったらもうね、一ヵ所しかねェじゃんよ。



 ――おっぱいだ!!



 おっぱいの谷間に挟むっきゃねェじゃんよ!!

 利一もそれを理解したのか、自分の谷間に一度視線を落としてから、俺に「早くやれ」と言ってきた。つくづく俺を異性として見やがらねェ。


「何やってんだよ。急げって」


 人の気も知らねェで。

 俺は一度だけ深呼吸をして、ギルド証を摘まむようにして持ち替えた。

 そして顔の位置に掲げ、狙いを定める。


「イクぜ!」



 ずぷ。



「――――――――ッ!?」

「わ、ひゃっこい」


 クッッッッッッッッッソ柔らけェ!!

 なんだこれ!?

 なんだこれ!?


 ブラジャーと服の上から胸を触ったことならある。

 だけど今は直。生乳の柔らかさが、ギルド証から手にありありと伝わってきた。

 恐ろしいほど柔らかい。なのに弾力がハンパない。

 少しでも力を抜けば、ぽい~ん、と弾き返されてしまいそうだ。

 そう。焼けた食パンが、トースターからチンと飛び出すように。


「おい、これじゃ先っちょしか入ってないぞ」

「先っちょとか言うな!」


 利一は両手に重い荷物を持っている。よって、腕は自然と真下に垂れている。

 すると、自身の二の腕が、胸をむぎゅっと寄せ上げる形になってしまうわけだ。

 ここは通してなるものかと、谷間がギルド証をシャットアウトしてくる。

 ねじ込めと言うのか? だがしかし、それをすると。


「拓斗ってば! 頼むから急いでくれって!」

「え、ええい、ままよ!」



 ずぷぷ。



「もうちょい。まだ半分しか挟めてない。もっと奥まで入れてくれよ」

「奥までとか言うな!」



 ずぷぷぷ。



 柔肉を掻き分け、奥へ奥へと進んで行く。さながら、誰も足を踏み入れたことのない洞窟に挑むトレジャーハンターのように。

 油断するな。こんな状態になってもまだ、少し力を弱めるだけで、あっという間に押し返されてしまう。恐ろしいトラップだぜ。


 そうしてついに、前人未踏のおっぱい洞窟の最奥――ギルド証が完全に埋もれるところまで到達する。

 となると、極めて必然的に、


「ぐあああああああッ!?」

「な、なんだ!? なんの叫びだ!?」


 最終トラップ発動。指の先が生乳に触れた。否、指もろとも生乳に挟まれた。

 温かくて、柔らかくて、しっとりしている。


「ぐ、が、ああ、も、もう……イイか!?」

「早すぎだろ。まだヌクな」

「お前は俺をどうしたいンだ!?」


 指は幸せを感じているのに、俺は死ぬほど焦っていた。

 今この瞬間にも、海綿体に血流が流れ込んで行くのを感じている。

 俺が自分の胸で勃つ男だと知れば、利一は俺から距離を取ってしまうだろう。

 それは嫌だ。耐えろ。耐えるしかない。


「んー、そろそろかな」

「早漏とか言うな!」

「さっきから何言ってんだ?」


 もうイイのか!? 本当にイイのか!?


「タクトさん、もういいわヨ。三十秒経ったワ」

「どりゃあああああ!!」



 にゅぽん。



 コルク栓を抜くような小気味の良い音を立てて、ギルド証もろとも谷間から指を抜いた。直後に反転し、俺はフレアの胸に飛び込んだ。


「……拓斗、お前、本気でどうしちゃったんだ?」

「うるさい。緊急冷却中だ。話しかけるな」

「タクトさん、大丈夫? おっぱい揉む?」

「硬すぎて掴めねェよ……」


 戦慄した。ちょっとの刺激で爆発するニトロを運んでいるような緊張感だった。

 あれが生乳の破壊力か。マジで世界獲れるぜ。

 だけど……。

 おっぱいプリン、ちょっとだけ欲しくなっちまったじゃねェか。

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