君がついた嘘の嘘。

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1話 池崎 友也の日常

ーーガタンゴトン


出勤時に毎回訪れる満員電車に揺られながら池崎イケザキ 友也トモヤは考える。


それは、とりとめもないことで、考えたら答えが出るものでもなく満足いくものでもないのだが、出勤する為だけに浪費しているこの時間が友也にとっては割と有意義だったりする。


つまるところ、昨日見たテレビやテレビに出ていた女優や、今度発売されるゲームであったり、ほんとにしょうもないことを考えては少しばかりの現実逃避をする。

会社は嫌いではないが通勤は嫌いなのだ。というか電車が嫌いだった。



ガタンゴトン、ガタガタン!



「お、おぉう...」



毎回のことながらこの電車はカーブになると少し大きく揺れる。

痴漢冤罪なんてものもあるからつり革に両手で掴まっているものだから上手くバランスを取れずに少しよろけてしまうのだが。



「......ちっ」



迷惑そうに舌打ちをしたのは左隣のOLで、ちらっと目も合うのだが、そこで「ははっ、揺れますねぇこの電車」なんてちょっとした挨拶でも出来れば和むのか、なんて考えては、いやないな。むしろキモいな、と思いとどまる。


そんなことばかり考えてはやめて、考えてはやめてを繰り返すともう耳に馴染んだ停車のアナウンスの共に電車を降りる。


住んでるところから駅まで徒歩10分。電車で15分。駅の北口から出て徒歩で5分。

オフィス街の中でも一番高い建物の10階にある『株式会社next』が友也の職場である。



「おっす!友也」



エレベーターが開き目的の10階で降りてすぐ、声をかけられ振り向くとそこには同僚の川口カワグチ 純平ジュンペイが白い歯をキラッキラさせていた。



「おはよう。相変わらず川口の歯は眩しいな。日焼けしそうだよ」



「やっぱり?!やっぱね、この肉体には白い歯が映えるワケよ。...って俺、褒められてる?」



褒めてない。だがそれを言うのもめんどくさくなるので「褒めてる褒めてる」と言うと、へへへっと恥ずかしそうに笑う川口。ちょろいやつである。


実際のところ、川口は身長190cmに90kgというアスリート体系に日に焼けた肌とそれに負けじとばかりに輝く白い歯は好青年の証!

...というわけにもいかない威圧を放っているのだけれど、それを川口にそれをそれとなーく伝えたところ、

「人は見た目じゃねぇ。こ・こ・ろ なんだぜ?」

と流し目でかっこつけていたのでそれからは放置している。



友也の日常は大体が川口に始まり、仕事をして川口の「また来週!お疲れぃ!そうだ友也、暇なら飲みに行かね?...お、おうまた来週〜」で終わる。

特に満足もしていなければ不満もない。そんな社会人生活。同僚に悪い奴もいないし、ムカツク上司はいるけれど、その愚痴を聞いてくれる先輩もいてそんな日常が嫌いではなかった。


でも、ストレスは溜まるのだ。様々なストレス発散法あるけれど、友也のストレス発散は決まって『金曜日』の『あの場所』で行われる。


そして、今日はその金曜日。会社が定めた必ず定時で帰りましょうDayなのだ。

友也は川口の飲みの誘いを断りつつ意気揚々と退社するのであった。


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