618フィクションについて

(ここから先は『ゾンビの都』『殺撃都市618』『寝過ごしたら、東京は地獄で、ハーレムだ!』『400万』『ハイヒールは走れない』『猛火』の内容に触れています。ご注意ください)


 読者諸君は、618事件を扱ったフィクションの類にどのくらい触れたであろうか?

 大多数の方が、かなりの本を読み、映画を鑑賞し、ゲームをやりつくした後の暇潰しに今、これを読んでいるという状況だと思うが、『あの事件自体を忌避し、全く触れていない』という方もいると思われるので、簡単ではあるが説明をしておこうと思う。


 618事件を扱ったフィクション第一号は、S社(例によって実在の会社、地域等はぼかしたり略称にしているので、読者諸君が独自で調べるようにしていただきたい)から発売された『ゾンビの都』という娯楽小説だった。


 シンプルなタイトルの『ゾンビの都』は、群像劇だ。


 東京で618事件に遭遇した、サラリーマン、主婦、犬を連れた六歳児、腰痛持ちの老人、古本屋店主が事件に翻弄されながらも、周囲の人間と共にゾンビに相対していく物語であり、二段組、千ページを超す内容でありながら、未曽有の大ヒットを飛ばした。

 某大手通販ショップにも、四桁を超える感想が寄せられている。(私の感想は、うちカラを読んでいただけるなら想像していただけると思う)


 以降、雨後の筍のように、各出版社は618フィクションを刊行し、急造された『ゾンビの都』の映画が公開されるに至り、『618ブーム』は頂点に達したと言ってよいと思われる。(『ゾンビの都』初版は、九月。映画はなんと、年末に公開された。映画は――まあ、大手映画制作会社製作の邦画で、かつ全年齢にしてはグロ表現に気合いが入っていたとは思う。ただ、感動系の台詞を言う時に、ゾンビ騒動の真っただ中で、棒立ちで絶叫するのは、どうなのだろうか)


 同じく年末に、大手ゲーム会社Cが、『殺撃都市618』を発売。これは以前に発売された『殺撃都市イモータル』の、キャラクターと背景を変えただけの、これまた急造作品であり、評判は最悪であった。(私はゲーム自体、三十代以降やっていなかったので、最高に楽しめてしまった。故に、『殺撃都市618』が某ページにて、昨年度№1クソゲー(糞みたいにつまらないゲームの略)候補になっているのが、少し悲しかったりする)


 年が明け、本年一月。K社から618事件を題材にしたライトノベルが発売。

 タイトルは『寝過ごしたら、東京は地獄で、ハーレムだ!』である。

 内容は、バイトの夜勤明けで昼過ぎまで寝ていた大学生主人公が、618事件に遭遇。ヒロイン達を助けながら、協力して東京脱出を図る物語である。

 発売前に、SNSを中心に不買運動が起り、テレビで取り上げられたので、読んでいない方でも名前ぐらいは目にしているのではないだろうか?

 この不買運動は『不謹慎である』『時期尚早である』という、なんともピントのずれた理由が中心にあり、結果、この運動が無償の宣伝になり、『寝ハレ!』は大ヒットとなった。(というか、この不買運動自体、某社が先導したネタとして皆が扱っていたわけだから、ヒットは当然であろう)


 実際に読んでみると、これが中々興味深い。


 まず、エンタメとして、ストレスなく読めるようにゾンビを背景として描くように徹底している――つまり、人が襲われるシーン等が無いのだ。主人公たちが直面する困難は、交通規制だったり、食糧難だったり、避難者のパニックによって引き起こされる事故や災害なのだ。

 次に、実際の地名が暈されている。

 これは、前述の『ゾンビの都』、及び同時期に発売された大ヒットノンフィクション『618』によって引き起こされた『聖地巡礼』が社会問題となっていたためだと思われる。

『ゾンビの都』は東京で実際にあった、『ゾンビパニックによって起った大事件』(『渋谷交差点多重衝突事件』『Mデパート全焼事件』『Y線618脱線事件』『東名高速道路618事件』等)をそのまま作品に取り込んでいる。『618』は更に細かい事件や、生存者の証言を掲載している。

 その舞台に、全国から人が殺到したのだ。

 当初は献花台が設置される等、穏やかな雰囲気であったが、年末辺りから観光名所のようになり、ポイ捨てからひったくり事件まで、種々様々な事件が頻発するようになってしまった。

 聞くところによると、出版社には苦情が山のように届き、対策として年明けから出版される618関連のものは、実際の地名等を乗せない方針になったそうである。(これに伴い、あらゆる媒体で実際の地名等を伏せる動きがある。度々引用するネットの618まとめページも、半数ぐらいは地名が伏せ字に編集された)


 以降、実際の地名をぼかすなら、もっと娯楽色を強くしようという事で、珍作迷作怪作が続々と発売され始める。


 個人的にお薦めしたいのは、『400万』と『ハイヒールは走れない』の二作であろうか。


 前者『400万』は、618事件の最中、東京に落雷と共に『タイムスリップしてきた、スパルタ軍300名』が、400万のゾンビを、主人公たちと共闘して蹴散らすという大怪作である。

 途中で主人公の影が薄くなってしまったり、スパルタ軍が(ゼウスの加護で)日本語を流暢に話したりと、ツッコミつつも笑わずにはいられない楽しいシチュエーションと、(お約束のコーラを飲んで『甘露!』と驚くシーンあり)異常な熱量の戦闘シーンのギャップ、ラストの号泣必死な別れのシーン(彼らはこれからテルモピュライの闘いに赴くのだ!)と、隙が無い構成である。(噂段階だが、映画化が決まったらしい。スパルタ人達も全員日本人キャストとの噂!)


 後者『ハイヒールは走れない』は、失恋した女性が、駅で飛び込み自殺をしようとした刹那、ゾンビに襲われ、親とはぐれた少女を伴って東京を彷徨うという、設定だけ読むと割とよくある小説だ。

 女性は618事件を通して、失恋から立ち直り、新しい自己を確立し、未来へと歩み出して終わる。ここら辺も良くある設定だ。

 だが、この女性、少女を守るために『ハイヒールを脱いだ』辺りから、急激に身体能力が向上するのだ。つまり、群がるゾンビを『文字通り』ちぎっては投げ、ちぎっては投げしてしまうのである。(腕や足どころか、頭を脊髄ごと引き抜いたり、腸を引きずり出してロープ代わりにしたりするのだ)

 このように、前半と後半のギャップが激しい作風ではあるが、著者の力量が並はずれている所為か、最後までページをめくる手が止められないのである。(個人的に、現在は入手困難である『猛火』もお薦めしておく。これは非常に癖のある文体で書かれた犯罪小説である。ヤクザとゾンビとサイコキラーが、あるホテルで三つ巴の闘いを繰り広げるのだが、ホテルの内装、窓から見た風景で、モデルである全焼したホテルが特定されてしまい、訴訟騒ぎになって発禁になってしまった)

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