新☆魔法少女アムロ/イツカ

島流十次

【0】

トリックスターの闇

 死ななきゃいけないならそれでいいと、彼は言った。


「でも、お前だけは死なせない。絶対に。お前は、おれだけの――」


 彼がそう続けたとき、「トリックスターの闇」がカパリと口を開けて、彼を飲み込む準備を始めた。露出したその魔物のどこまでも深紅な口内を背にして、彼はマホコを振り向く。魔物に食われる寸前だというのにも関わらず、彼は相変わらず口元に歪んだ不適な笑みを浮かべていた。


 彼は言葉のその先を続けなかった。ただ、最後に、マホコに向かって、たしかにこう言い残したのである。


「マホコ」彼の声は震えていた。「――――」

 何を言ったのかはわからなかったが、とにかくそれが最後だった。彼のその言葉を合図にしたかのように、魔物――トリックスターの闇――は、彼の体半分を食いちぎった。彼の上半分は咀嚼され、嚥下され、そして下半分は血を噴き出してぱたりと人形のようにこと切れた。


 体が震える。この魔物は、わたしの大切なひとを、偉大なる魔法使いを、食らったのだ。

 行け、と彼の声がしたような気がして、マホコは一目散に走り出した。どこへ行こうかとも考えずに、ただ、この場を離れなければならないとだけ思って、走った。

 あの魔物の目的は初めから彼だった。彼を食らったあとは、もうこちらにも、周りにも被害は及ばさない。その偉大なる魔法使いの頭の食事を終了すれば、それでその魔物はまたどこか闇へ消えていくのだ。

 ――ああ、わたしの、わたしだけの、偉大なる、魔法使い。あなたはどうして――

 マホコは泣いた。風で涙が飛んで行った。

 彼は、小津ヒカゲは、たしかに死んだのだ。

 自分の腹部をおさえる。

 そこでは、自分が次の魔法使いになるのだとも知らないであろう新しい命が蠢いていて、それはマホコの子宮を、強く蹴るのであった。

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