第11話風よりも速く

うふふっと妖しくも官能的な笑みを発しながら、

「なにやら面白いこといってるじゃないの。アタシも一枚かませてもらうよ」

とジャックは言った。

「頼んだよ」

サーベルを抜き、詩音はジャックの黒い瞳を見た。ジャックは軽いウインクで答える。


両手で大鎌夢刈りを持ち、彼女は突進した。

猛牛にも似た激しさである。

大きく振りかぶり、空気を切り裂き、夢刈りをなぎ払う。

空気との摩擦熱で夢刈りに炎がまとい、火竜が宙を舞う。

紅蓮の一撃も悪辣なる魔法陣に弾かれる。

ガツンという鈍い音を発し、夢食みジャックの体勢が少し崩れる。

バチンと魔術師は地面を罪人の剣で弾き、斜め上から降り勢いよく振り下ろした。

鱗たちは空を駆け、夢食みジャックを食らおうとする。

夢刈りを前方に突き出し、攻撃を防ぐ。

ぐるぐると罪人の剣は夢刈りに巻きつく。

力比べの様相をていした。

魔術師にしては恐ろしい腕力である。

両者の力は拮抗し、身動きがとれない。

剣の切っ先だけが蛇の姿にもどり、そのぬめりとした舌でジャックのこじんまりとした鼻を舐めた。

「さあ、おやり」

ジャックが詩音に叫ぶ。

「承知した」

短く詩音は答える。


自らを風を切る弾丸と化し、彼女は魔術師めがけて突撃した。

果敢とはこのことである。

流星の剣撃。

突き出される剣は何よりも速い。

霊剣ジェラールがその剣の速さをさらに加速させる。

かのジェラール将軍の魂を宿したそのサーベルは自動で剣撃を放つことができる。

もし、未熟なものがこのサーベルをもてば振り回されたあげく、自滅するであろう。

鍛えぬいた剣技によって、詩音はジェラールの闘志にこたえた。

一撃目は残念ながら、金色の魔法陣によって弾かれた。

さらに速く。

風よりも速く。

二撃目を放つ。

バツンという金属音をもって、その一撃も返されてしまう。

だが、彼女はあきらめない。

不屈の闘志が心と魂を燃やす。

風よりも、一秒よりも、一瞬よりも、一刹那よりも速く。

魔法陣が消え、次に展開されるまでのほんのわずかすぎる時間。

青き鱗の魔術師の前には何も防ぐものはない。

無防備である。


とらえた。


詩音の闘志を感じとった霊剣ジェラールはさらに激しくその身を加速させた。

あまりの速さのため詩音の右腕の毛細血管がぶちぶちと文字通り瞬時に破壊され、ちぎれていく。


鳴滝流剣闘術三ツ星‼️‼️


その剣技は彼女の先祖が長い戦いの記憶のなか完成させた最速の技である。

あまりの速さのために通常の人間には一撃にも見えてしまうが、その実は強烈なる三段突きであった。

幕末最強の剣客集団の中のひとり沖田総司が得意とした三段突きをもとに編み出された技と言われる。


ほんのわずかすぎる隙をつき、撃ちだされた一撃は魔術師の右目に突き刺さる。

深く、より深く突き刺す。

力まかせに引き抜くとどす黒い鮮血が天空に舞い散った。

「ウギャアァァォォ」

「嫌だァァァ」

二種類の醜い悲鳴が鳴り響いた。





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