第9話剣と槍と弓矢そして弾丸

少女の小さな手のひらにのるサーベルを詩音は、力強く受けとる。

そのサーベルは小さくかたかたと震えた。彼なりに再会を喜んでいるようだ。

「これは、霊剣ジェラール……」

真紅のサファイアをみつめ、詩音はサーベルの名を言った。

これは詩音の愛刀である。

その剣にはかつてフランス皇帝ナポレオンに仕えた勇将ジェラールの魂と記憶が宿っている。

「まあ、正確には概念というか精神だけを持ち込んだのだけどね。その効果と能力はそのままのはずですよ」

お釜帽で顔をあおぎながら、Q作は言った。

「やっと渡せたよ。この剣ずっとずっと戦え戦えって言ってたんだよ。うるさくてしかたなかったんだから」

ふへーと大きく息を吐き、モヨ子は文句を言う。ふっくらとした頬をぷうとふくらませる。愛くるしい動作だ。

「えらかったよ、モヨ子。ちゃんとサーベルの形に固定化できたんだからね。もとのジェラール将軍にもどりかけたときは、どうしようかと思いましたよ」

彼らなりの苦労をぶつぶつと呟く。

「もっと誉めて誉めて」

にこにこと笑うモヨ子の金色の頭をQ作はくしゃくしゃとなでた。

えへへっとモヨ子は猫のように喜んだ。


「そのような骨董品とジャック・オー・ランタンなどという低級妖魔を呼び出したからといってなんだというのだ。ほんの少しでも勝機をみいだしたというのかね。」

蛇の魔術師は完全に馬鹿にした口調で言う。

人を見下し、生きてきたものが持つ薄暗い感情のこもった言の葉。

ちろりちろりと赤い舌を出し入れしている。

「ねえ、ねえ、あのおっきいお姉さんとやっちゃっていいの。グラマーな女の人も大好きだよ。僕、もう我慢できないや」

耳障りな若者の声が続く。

黒い濁った目でジャックの豊満な身体を値踏みしている。

ふた又に別れた舌で口の回りを舐めた。


「あら、アタシの相手をしたいってのかい。そいつは楽しみなことだね」

手に持つピューターから中身の酒をぐびぐびと口に含んだ。ぶはっーとランタン目がけて吐き出す。炎が一気に舞い上がり、鉄の大鎌へと変化する。

ぐるりと目前で大鎌を回転させる。

その大鎌は西洋絵画の死神がもつものとおなじだ。

「さあ、夢刈り。悪夢を刈りとるよ」

軽々と大鎌夢刈りを肩に担ぎ、ジャックは宣戦布告をした。


するりとサーベルを抜き放つ詩音の動作に一切の迷いも無駄もない。

月光を浴び、霊剣ジェラールは銀色に輝く。

サーベルを真っ直ぐに持ち、柄のサファイアを形の良い胸元、心臓に押し当てた。

「我らは鉄の剣、我らは白銀の槍、我らは氷結の弓矢、我らは火炎の弾丸、我らは鉄火を持って駆逐する者なり」

詩音もまた、彼女が所属する機関の家訓を言い、宣戦布告する。


ピューターの残りの酒をごくごくと喉に流し込み、ジャックは詩音と背中合わせに立つ。

「いいねえ、いいねえ。何者かに背をまかせて戦うのは久しぶりだよ。エルサレムぶりかねぇ」

どこか遠い目で、ジャックは言った。


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