第8話鉄火を持って駆逐する者

ランタンの淡い光に照らされる美人とはいいがたいが、どこか愛嬌のある女の横顔を詩音は一重の瞳をいっぱいにみひらき、見たのだった。


交差する視線。


にこにことその大柄な女は笑みを浮かべている。

「あんたは何者だ?」

吐き出すように詩音はたずねる。

この背の高いグラマラスな女からは、敵意や殺意といったものはまったく感じられない。

剣士としての第六感がそう告げているが、気をぬくことはできない。

「あたしかい、あたしは夢食みジャック・オー・ランタン。悪夢を食らう妖魔さ」

豊かな黒髪の上に乗るカンカン帽をかぶりなおし、ウインクしながら、その女は言った。

とびっきりの美人とは言いがたいが、男受けのするその動作を見て、詩音は場違いな感想を覚えた。

同姓でありながら、見とれてしまうその魅力たっぷりなウインクは、何故か扇情的な気分にさせられる。


ジャックを名乗る大柄な女は、手のひらで傘をつくり眉のところにあて、ぐるりと周囲を見渡した。

どこか芝居がかった動作だ。

「なんだい、今日はなにかのパーティーかい。ご馳走だらけじゃないか」

じゅるりとだらしなく流れるよだれをコートの袖口でぬぐった。


話を続ける彼女らに問答無用とばかりに、風をきる矢のごとき蛇が襲来した。

突如あらわれたジャックの白い顔めがけて、必殺の勢いである。

飛来するそれをむんずと掴むと大きく口を開け、赤い舌をだし、その中に放り込んだ。


むしゃむしゃごくり。


咀嚼し、ごくりと飲み込んだ。


「くっ、食ったのか……」

さらに詩音は驚愕し、問う。

「ああ、そうだよ。なかなか美味じゃないか。かたよった自我が濃厚な味わいだ。彼ら、彼女らは選んだのだろう。下僕になって他者を食らう快楽を。なら、逆に食われても仕方あるまい」

アハハッとジャックはかすれた笑い声をあげる。


ギイイッときしむ金属音が鳴る。

詩音らの背後二メートル辺りのところに木製の扉があらわれた。

そこから一組の男女があらわれる。

どこかくたびれ茶色の羽織に縞柄の袴の男。その顔色には疲労の色が隠せないようだ。少女のほうもかなり疲れてるようで、金色の髪は乱れ、黒いワンピースは土と埃で汚れていた。

少女の小さな手には年代物のサーベルが一ふり。柄の部分には真紅のサファイアが埋め込まれている。

「いやぁいやぁ、、やっとやっと見つけましたよ。よくもまあ、こんな複雑な次元に夢想の空間をつくりだしましたね。でも、今回に限り、夢食みを呼び出したのは正解ですよ。おかげで、時空間が安定したので、たどり着けましたよ」

ふうっと大きくため息をはき、ずれた丸眼鏡

をなおす。額の汗をぬぐう。

「たいへんだったのだ、なあQ作。帰ったらシーチキンのおにぎりをつくってくれ」

うつろな、まばたきのしない瞳て少女はQ作と呼んだ青年の端正な顔を見た。

「ええ、いいですよ、いいですよ。ほんとにたいへんでしたからね。カンパネルラ少年と銀河鉄道に乗せられたときは二度とかえってこれないと思いましたよ。さあ、モヨ子、そのサーベルを詩音さんに渡してさしあげなさい」

とことことモヨ子は詩音に歩みより、その手に持つサーベルをぐいっとさしだした。

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