最初のメッセージ/恐怖の始まり



 どれくらい時間が経ったのか。僕は目を覚ました。


 暗闇からの闇。一瞬、どこにいるのかわからなくなった。


 カーテンすら閉めていたので外の光は入らないし、風もない。


 けれどすぐに部屋の狭さを肌で感じ、ここが自分の部屋で、寝る前と変わりない事に気づいた。


 ただ時間が何時なのか良くわからない。


 暗闇に腕を伸ばし、勘と手先の感触だけでスマホを探し出すことに成功した。


 僕のスマホは頭がいいから、持ち主の指が触った瞬間に本人を特定し、ご主人様が持ち上げた事もよく知っていた。


 自動でロックが解除されて画面が灯る。僕はそこを見た時に、時刻を知るよりも先に、映し出されている通知に気づいた。


 メッセージアプリの着信だ。連絡先は個人も企業もあらかた消してしまった。非登録者はブロックしてるから、来るとしたら四人の誰かからだ。


 寝ぼけていたし、考えもまとまらなかった。まあ見るだけなら良いかと通知をタップした。ローリングサークルが三周半して、ようやくメッセージが表示された。


 それは一枚の画像だった。一言でいうなら、メッセージの中にあるメッセージ?


 目がおかしくなったかと思った。けれど上下の目蓋まぶたを寄せて見てみると、答えが分かった。


 その画像の正体は、メッセージアプリの受信画面をスクリーンショットで保存した物だった。それをさらに添付して来たものだから、アプリの中で、メッセージが合わせ鏡みたいに、重なって見えたんだ。


 画像の上に吹き出しで『変なメッセージ来た』とあった。


 送信者の名前を見ると、トシカズとなっていた。


 それで肝心の画像の中のメッセージはというと……僕はそれを見て、頭をひねった。


――――――


(画像の中のメッセージ)『ワレタ……』


――――――



 え、これだけ? 何のことかわからない。


 メッセージの横にある時刻を見ると、十分前となっていた。ほんの少し前だ。


 トシカズから追加で推測とか意見とか、そんなメッセージは送られてきていない。とりあえず共有――以上。素朴なヤツらしい行動だった。


 いつもならここで、お笑いタレントの台詞スタンプで『それで?』って返すんだけれど、いまは出来ない。関係は断絶されているんだから。


 気になって眠気も覚めてきた。誰か返さないかとイライラしていると、早速返事があった。


――――――


(あい) 『ナニコレ~?』


――――――


 いま公開している映画の主人公でお姫様のキラキラスタンプ。アイだった。お喋りは反応も早い。


――――――

(トシカズ)『わからない。突然きた』


(あい)  『ダレから?』


(トシカズ)『雪谷から』

――――――


 雪谷ゆきたには同じクラスの男子だ。サッカーが得意でフォワードとして活躍している。ただし隣町のサッカークラブでの話。そのチームに移籍したトシカズとは、友達として繋がっているみたいだ。


――――――

(あい)  『いきなり来たの~?』


(トシカズ)『うん、意味分かんない』


(一夜)  『ぞーんび! にゃ!』

――――――


 いきなり一夜イチヤが入ってきた。しかも挨拶代わりの猫娘ゾンビスタンプとか、意味がわからない。しかもこのキャラはイチヤのお気に入りだったりする。


――――――


(一夜)  『名探偵登場……って、これ何! 意味不明なんっすけど!!』


――――――


 イチヤはSNSの中だけはやたらと話す。おそらく、いろんな性格のキャラになりきって、喋ってるんだと思う。


――――――

(トシカズ)『うん、意味分かんないんだよ。だから相談したくて』


(一夜)  『雪谷からワレタって!! 何か暗号かなあ?!?!』


(あい)  『いーちーキーた! ばんこんわ~』

――――――


 若干、アイだけが一人ずれている気がする……そこへさらにメンバーのラスト一人がやってくる。僕は何故かドキッとした。


――――――

(マリア) 『ねむーい。わお。みんな揃ってなに盛りあがってるの?』


(トシカズ)『おーマリアだ。』


(あい)  『まりまり~★』


(一夜)  『にゃー! 揃ったね!! あ、一人足らないけど!』


(マリア) 『いま見たよ……うん、イチヤに賛成。イミフだね。これだけ?』


(トシカズ)『うん、そうなんだよ。あ! まって、また続きが来たみたい』


(あい)  『ワクワク~♪』


(一夜)  『(我は黙して待つナリ……)』


(マリア) 『……』

――――――


 僕も待っているうちの一人。その間にビニール袋の山から、飲みかけのペットボトルを探し出し、あぐらをかいた脚の上に置いた。


 メッセージが来ない。遅いな……トシカズ。


 パンタグレープのフタをひねって開けようとした時、送られてきた次の画像を見て、僕の手が止まってしまった。


――――――


(画像の中のメッセージ)『オソワレタ……ニゲラレナイ……』


――――――

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